52 ゲーマーの意気投合(上)
一方その頃、金網の外の別の片隅では。
橘結菜に無理やり引っ張られてきた淡い色のワンピース姿の西野萌香は、手にした冷たいスポーツドリンクをギュッと握りしめていた。ペットボトルの結露が手のひらを濡らしているが、彼女の視線はコートで直視できないほど眩しい少年に釘付けになっていた。
「ほらね」隣の結菜が彼女をつつき、小声で励ます。「あんなペースで打ち合ってたら、休憩の時には絶対喉がカラカラになってるはずよ。そこが差し入れの絶好のチャンス! あとでコーチの笛が鳴ったら、迷わず行くのよ!」
萌香は下唇を噛み、手にしたボトルを見つめ、ついに決心したようにコクッと頷いた。
そしてその一部始終は、ベンチの陰でぐったりと身を預け、野次馬根性たっぷりの『野生のアイスクリーム』こと柏木奏の目に、バッチリと監視されていたのだった。
「あー死ぬ……俺のバッグどこだっけ?」
クルクル癖毛で全身汗だくの部員が、フラフラと日よけテントの下へ転がり込んできた。水から引き揚げられたばかりのようにずぶ濡れで、奏の隣のベンチにドカリと座り込む。狂ったようにタオルで顔の汗を拭いながら、テニスバッグから水筒を引っ張り出し、顔を仰け反らせて「ゴクゴクゴクッ」と命の水を煽った。
一気に半分ほど飲み干し、ようやく息を吹き返した癖毛くんは水筒を下ろした。ふと横を向くと、銀灰色のサイボーグのように全身を包み込み、うつむいてスマホに熱中している柏木奏の姿が目に入った。
「ちわっ、俺は日向駆」癖毛の彼はコミュ力お化けのような性格らしく、荒い息を吐きながら気さくに話しかけてきた。「君、千野くんの友達?」
奏は画面をスクロールする指を止めた。
のろのろと顔を上げる。その巨大な黒いサングラスのレンズには、運動のしすぎで真っ赤になった日向駆の顔がくっきりと反射していた。
「そこの君」奏の声には一切の起伏がなく、むしろ世の無常を悟ったような枯れた響きが混じっていた。「違法な拉致って言葉、知ってるか?」
日向駆はポカンとした。「えっ?」
「俺は千野柊斗に拉致されてきたんだ」奏は顔色一つ変えずに告発した。まるで自然の摂理でも語るかのような淡々とした口調だ。「白昼堂々、衆人環視の中でな。千野柊斗という凶悪な誘拐犯が、どれほど傍若無人であるか想像してみるといい」
日向駆はそのぶっ飛んだ発言に面食らっていた。濡れた癖毛を掻きむしり、乾いた笑いを二度漏らす。「えーっと……二人の間に何があったか詳しくは知らないけど、でも……絶対仲良いよね。普段の部活で、あいつとそんなに親しくしてる奴なんて誰もいないし」
そのあまりにも節穴すぎる評価を聞き、奏は青白い人差し指を伸ばしてサングラスのブリッジを押し上げた。そして、気高く、いささか冷ややかな態度で顔を背け、12万パーセントの不同意の意を示した。
日向駆は気にする様子もなく、ベンチの背もたれに心地よさそうに寄りかかり、「ふうーっ」と長く幸せなため息をついた。まだ自分の出番は回ってこない。この短い休憩時間は彼にとって金よりも尊かった。
「名前なんていうの? 君も青葉第一の生徒?」
「柏木奏。東京都立茜川高校だ」
「へえ、他校なんだ。君もテニス部?」
「帰宅部だ」と、奏は短く答えた。
「じゃあやっぱり千野とめちゃくちゃ仲良いんじゃん。夏休みなのにわざわざ部活の練習に付き合ってあげるなんて」
奏はたまらず、盛大な白目を剥いた。
「千野柊斗を見てみろよ」日向駆はコート上で絶えず方向転換し、ラケットを振り続ける黒いシルエットを見つめ、畏敬の念と信じられないといった感情を込めて言った。「あいつ、マジで鉄人だよ。俺なんかもうぶっ倒れそうなのに、あいつは一人であんな高強度の打ち合いを連続でこなしてる。なあ、あいつ絶対、人間の皮を被ったロボットだろ?」
その素人丸出しの例えを聞いて、奏はついに我慢できずに口を開いた。
「ロボットじゃない」奏は前方を睨みつけ、ガチの廃人ゲーマー特有のプロフェッショナルな口調で論評を下した。「あいつをゲームに例えるなら、『独立したスタミナ計算システム』を持ち、『全デバフ(状態異常)無効』、さらには『体力吸収オーラ』と『全マップ弱点スキャン』のパッシブスキルを標準装備した、裏ダンジョンの発狂ボスだ」
癖毛の少年は一瞬固まった後、「アハハハハッ!」と豪快な爆笑を弾けさせた。
「兄弟! その例え、マジで的確すぎ!」日向駆は自分の太ももをバシッと叩き、顔の汗が数滴飛び散るほど笑った。「そういうスーパーアーマー(ひるみ無効)と無限スタミナ持ちのボスが一番クソゲーなんだよな、マジでプレイヤーの悪夢だわ!」
「そうとも限らない」奏はゆっくりと相槌を打った。
どんなにゴリ押ししてくるボスでも、必ず攻撃の『前隙』と『硬直』が存在する。その法則さえ見切ってしまえば、初期装備の木の棒(こん棒)でもノーダメージの最速クリア(RTA)は可能なのだ。
しかし日向駆は、奏のこの不遜な「そうとも限らない」という呟きを聞き逃していた。彼は奏のゲーマー用語に完全に興味を惹かれ、興奮して身を乗り出してきた。「なあ兄弟、あんたもかなりのガチゲーマーだろ? 最近バズってる超高難易度の死にゲー『アビス・ナイト』、もうプレイした? 俺、あのステージ2の門番ボスで丸3日も詰んでるんだよ!」
「プレイ済みだ」ゲームの話題を振られ、常に気怠げだった奏の瞳にようやく生気が宿った。「あのボスの左手の『パリィ判定フレーム』……つまりこっちの弾き攻撃が成功する受付時間は極端に短い。武器の軌道を見るんじゃなく、足を持ち上げた瞬間を見極めるんだ……」
日向駆はついに同好の士に出会えたとばかりに歓喜し、奏と二人でピーチクパーチクと、数々のゲームのトラウマ体験や攻略テクニックについて熱く語り合い始めた。「千野柊斗の友達」という肩書きによって生じていた二人の間の壁は、ゲームという共通言語の触媒によって一瞬にして跡形もなく消え去ったのだった。




