47 部活と逃げた魚(下)
太陽の光が遮るものなくゴムチップのコートに降り注ぎ、空気中には熱せられたゴムの焦げたような匂いが立ち込めている。
柏木奏と千野柊斗は十数メートルの距離を隔てて、衆人環視の中、まるで一時停止ボタンを押された彫刻のように遠くから睨み合っていた。
ふいに熱風が吹き抜け、地面の落ち葉を数枚巻き上げる。
結局、先に崩壊したのは奏の元から脆弱なメンタルだった。彼は金網に深くめり込んだテニスボールを見つめて絶望的なため息をつき、無力に肩を落とした。
暴君の圧倒的なプレッシャーを放つ眼差しの下、柏木奏はのろのろと振り返り、まるで処刑場へ向かう囚人のように重い足取りで、コートの内側へと屈辱の第一歩を踏み出した。
千野柊斗はその観念したような態度を見て、ようやく瞳の奥の冷酷さを少し和らげ、強張っていた顎のラインもわずかに緩めた。
しかし、千野柊斗が視線を外そうとした、まさにそのコンマ1秒──
のろのろと引きずられていた奏の左足が、突如として地面を力強く蹴り上げた! その一歩の反発力を利用し、前世を含めても出したことのないような驚異的な敏捷性で、一気に180度の猛ターンを決めたのだ!
そして、天敵に遭遇したウサギのごとく、なりふり構わず、死に物狂いでコートの外の大通りへと向かって猛ダッシュし始めた!
(命は尊いが、自由はもっと尊いんじゃあああ!!!)
奏は心の中で耳をつんざくような絶叫を上げた。あらかじめ手配しておいた配車アプリのタクシーにさえ転がり込めれば、あの20度のエアコンの効いた部屋にさえ戻れれば、この命を賭したって構うもんか!
コート内。
先ほどの暴力的すぎる一撃からまだ立ち直れていなかった部員たちは、一瞬、視界がブレたように感じた。
「ビュンッ──!」
強烈な低気圧を伴った暴風が、彼らの肩すれすれを吹き抜けていく。恐怖で振り返った時、先ほどまで千野柊斗が立っていた場所には無造作に放り投げられたラケットだけが残り、その長身の少年はすでに完全に激怒したチーターと化していた。恐ろしいほどの爆発力で、放たれた矢のように金網ゲートの外へと突進していったのだ。
「おいマジかよ……今の千野の100メートルダッシュの初速、11秒台出てたんじゃねえか!?」一人の部員が息を呑んだ。
その後の3分間は、何の番狂わせもない「消化試合」だった。
コート内の部員とコーチが未だに集団石化状態にある中、ゲートから再び足音が聞こえてきた。
一同が怪訝に思って振り返る。
そこには、普段テニス以外のことには一切無関心なあの冷酷な天才が、灰色の薄汚れた「麻袋」を肩に担いで歩いてくる姿があった。
短距離スプリントのせいで千野柊斗の胸はわずかに上下していたが、それでも彼は片手をポケットに突っ込んだままだった。もう片方の腕で柏木奏の膝裏を強引に抱え込み、米俵でも担ぐかのように、奏を頭から自分の逞しい肩に担ぎ上げている。
「オエッ……ゲホッ、ゴホッ……」
肩の上でうつ伏せに担ぎ上げられた柏木奏は、柊斗の足取りに合わせて上下に揺さぶられ、苦痛に顔を歪めて胸を押さえながら、断続的にえずき声を漏らしていた。
奏は心の中で狂ったように泣き叫んでいた。
(あの配車アプリの運転手、一体何やってんだよ! 待ち合わせ場所を『テニスセンター正門』に指定したのに、なんで6車線もあって中央分離帯まである道路の反対側に停めてんだよ!)
もし道端で車を探すのにあの致命的な5秒間をロスしていなければ、植え込みのそばでこの体力お化けに現行犯逮捕されることなど絶対にあり得なかったのに!
千野柊斗は、まるで化け物でも見るような周囲の視線を完全に無視し、日よけテントの下の休憩エリアへと直行した。そして腕の力を抜き、容赦なく柏木奏をベンチの上へ直接放り投げた。
「ゴホッ、ゲホッ……」
ベンチに這いつくばった奏は、喉の奥から血の味が込み上げてくるのを感じていた。胸の中の心臓は暴走した杭打ち機のように狂ったように肋骨を叩き、今にも喉から飛び出してきそうだった。
もうダメだ。
奏は絶望と共に悟った。先ほどの200メートルの生死を懸けた全力疾走は、この身体にわずかに残っていた隠しバッテリーすらも完全に搾り取ってしまった。今の彼のスタミナゲージは、赤点滅どころか完全にブラックアウトしている。
そろそろ気絶する潮時だ。
これは生物学的に正しい自己防衛システムなのだ。
奏は安らかに両目を閉じ、お腹の上で両手を組んだ。心の中でシステムのシャットダウン音まで再生し、果てしない暗闇の底へと完全に身を委ねようとした。
1秒。2秒。
期待していた暗闇は訪れなかった。
それどころか、マメのあるザラザラとした、熱くて力強い二本の指が、情け容赦なく彼の眉骨と頬骨に押し当てられるのを感じた。次の瞬間、その二本の指が上下に強引に開くという極めて物理的な方法で、固く閉じた彼のまぶたを無理やりこじ開けてきたのだ!
「うぅっ……」
強制的に目を開かされた奏だったが、その刺さるような光は、目の前にドアップで迫る端正な顔によって完全に遮られていた。
千野柊斗はベンチの縁に片膝をつき、奏の頭の左右に両手をついている。金色の前髪は先ほどのダッシュのせいでわずかに乱れており、一粒の透き通った汗が高い鼻梁を伝って滑り落ちた。「ポタッ」という音と共に、それがちょうど奏の頬に落ちて弾けた。驚くほど熱かった。
少年は高みから彼を見下ろしている。その切れ長の瞳にはまるで業火が燃え盛っているようで、口角には背筋が凍るほどタチの悪い冷笑が浮かんでいた。
「まだ逃げるか?」千野柊斗の低く掠れた声が、極めて危険なプレッシャーを伴って、一文字一文字重く叩きつけられた。
奏は強制的にその瞳を直視させられながら、未だに狂ったように跳ね続ける自分の心臓を感じていた。そして、消え入りそうな声で、歯の隙間からのろのろと一言だけ絞り出した。
「お前が、俺の死体を埋める山を決める前に……頼むから一口……水を飲ませてくれ……」
冷気を放つ氷点下のミネラルウォーターのペットボトルが、「ドンッ」と奏の胸に押し付けられた。
氷のような冷たさが薄いUVカットパーカーの生地越しに肌へと伝わり、奏はビクッと身体を震わせた。ショートしかけていた脳神経がようやく再接続されたのだ。
彼は震える手でキャップをひねり開け、顔を仰け反らせると、砂漠を三日三晩歩き続けた旅人のように、ボトルの半分を一気に胃袋へと流し込んだ。オーバーヒートしていた肺がようやく一抹の冷たいオアシスに満たされ、彼は自分が本当に生き返ったことを実感した。
柊斗はベンチの脇で片膝をついたまま、何も言わず、ただ静かに奏の上下する喉仏と、口の端からこぼれ落ちる水滴の軌跡を見つめていた。




