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44 干からびた昆布と逃げられない視界(上)

青葉第一高校のテニスコート。


夏休みにわざわざ他校のテニス部の部活に参加させられる羽目になるなんて、奏にとっては想像を絶する事態だった。


遮るもののない屋外コートでは、太陽が律儀な巨大オーブンのごとく、容赦なく残酷にゴムチップのコートを焼き焦がしていた。


柏木奏は干からびる寸前の昆布のように、生きる希望を失った顔でコートの端のフェンスにへばりついていた。UVカットパーカーで全身を完全防備しているというのに、体内の水分が恐ろしいスピードで蒸発していくのがリアルに感じられる。


彼は鼻眼鏡になっていたサングラスを指で押し上げ、少し離れたコートの中央へと、怨念のこもった視線を投げつけた。


その怨念の重さと黒さは、頭上から降り注ぐ紫外線よりも遥かに強烈で、チクチクと肌を刺すほどだ。


その諸悪の根源である柊斗は、ベースラインの後方でウォーミングアップのストレッチを行っていた。


今の彼は、全身から爽やかでエネルギーに満ち溢れた少年特有のオーラを発散させている。


沈み込むようなストレッチの動作に合わせて、ハーフパンツから伸びるふくらはぎが美しいラインを描く。その筋肉はまっすぐでしなやかに引き締まり、一切の無駄な贅肉がない。


背中に突き刺さる、自分を焼き焦がさんばかりの視線に気づいたのだろう。柊斗はストレッチの動きを止めた。


彼は振り返り、フェンスの端で丸まっている柏木奏を見た。


そして、奏の予想に反して──普段は仏頂面で「弱すぎる」と吐き捨てるあの暴君が、わずかに顎を上げ、彼に向かって眩しいほどの笑顔を向けたのだ。


それは、一切の警戒や冷たいトゲを完全に削ぎ落とした純粋な笑顔だった。太陽の光が少年の淡い金色の短い髪に乱反射し、目尻の弧は伸びやかで自由奔放、白く整った歯が覗いている。


もしこれが学園のど真ん中であれば、無数の女子ファンを悲鳴と共に気絶させられるであろう極上の笑顔が、今はただ惜しげもなく、柏木奏ただ一人に向けて全開で放たれていた。


だが、奏にはその恩恵を享受する余裕など微塵もなかった。


「おい、電柱みたいに突っ立ってないで」柊斗は手首を回しながら顎をしゃくり、隠しきれない愉悦を滲ませた声で言った。「さっさとこっち来て準備運動しろ。とりあえず身体あっためるために、一緒にコート2周するぞ」


2周? 人間がローストポークになりかねないこの灼熱地獄の中で?!


「イーーヤーーだーーーっ!」


奏の脳がコマンドを処理するより早く、身体が本能的に反応した。彼は「バッ」とその場で頭を抱えてしゃがみ込み、対人交流を完全拒絶するキノコのように丸まった。その声には濃厚な絶望が滲んでいる。「俺は帰る! 家のエアコンが俺を呼んでいる! ルルだって俺に缶詰を開けてほしがってるんだ!」


「ふざけんな」


熱風をまとった足音が急速に接近してくる。柊斗は彼の手前まで来ると、容赦なく奏の手首をガシッと掴み、まるで大根でも引っこ抜くように、地面から彼を強引に引きずり起こした。


「まだ来て10分しか経ってねえだろ。靴の裏に砂埃すらついてないのに何が帰るだ」


柊斗は、骨を抜かれたスライムのようにグニャグニャになった奏を見下ろし、面白そうに「チッ」と舌打ちをした。彼はそのまま奏の背後へと回り込み、両手で奏の肩を掴んで、強制的に姿勢を正させた。「背筋伸ばせ。両手を組んで頭の上に上げろ。背中の筋肉のストレッチ手伝ってやる。じゃないと走った時にるぞ」


「走らない! 断固拒否する!」


奏は必死に振り解こうとしたが、長年の運動不足で鈍りきったこの身体は、柊斗の腕の中ではまるでこねられるパン生地も同然だった。彼は尻尾を踏まれた猫のようにギャーギャーと騒ぎながら、柊斗のホールドの下で肩や腕を狂ったように捩らせる。


その揉み合いの中で、二人の距離は必然的にゼロへと近づいていった。


柊斗の身体から発せられる、清涼感のあるミントのボディソープの香りが、見えない網のように奏の全身をすっぽりと包み込む。それは、なぜか無性に心地よく感じる、清潔で熱を帯びた体温だった。


その匂いと熱に当てられ、奏は一瞬、心臓の鼓動がトクンと跳ねた。彼はギリッと歯を食いしばり、自らの引き出しの奥底に眠る秘技──『ドジョウ抜け』を繰り出すことを決意した!


彼は突如として肩をガクンと沈め、UVカットパーカーの滑りやすいシルキーな生地を利用し、あり得ないほど柔軟な角度で下方へ身体を滑らせた。なんと、本当に柊斗の大きな手の下から、ドジョウのようにツルリと抜け出すことに成功したのだ!


奏は心の中でガッツポーズを決め、反転してコートの入り口へと猛ダッシュしようとした。


──だが、彼は天才テニスプレイヤーの動体視力と神経反射速度を完全に甘く見ていた。


彼が反転して滑り出そうとしたコンマ1秒の間に、柊斗の瞳の奥に危険な暗い光が閃いた。少年は半歩も動くことなく、ただ長い腕をスッと伸ばし、完璧に計算された角度で宙に向かって腕を伸ばし、すばやくすくい上げるように捕らえた。


バシッ!


柊斗の大きく固い手のひらが、奏の腰の脇をガッチリと捕らえた。そのまま指の関節にグッと力を込め、この滑りやすい「ドジョウ」の勢いを利用して、背後へと力強く引き戻す。


「うっ!」


奏は腰に強い圧迫感を感じた瞬間、コントロールを失い、硬く熱を帯びた厚い胸板の中に背中からすっぽりと倒れ込んでいた。


彼が再び抵抗しようとするより早く、柊斗のもう片方の腕が前方へと回され、鉄の万力のように奏の腹部を横からガッチリとホールドした。彼は奏の全身を、自らの腕の中へと完全にロック(拘束)してしまったのだ。


「逃げる気か? ナメクジのくせに、すばしっこいじゃねえか」


柊斗の低い声が、奏の耳元で響いた。先ほどの短い攻防のせいで、背中の胸板はかすかに上下に起伏している。少年の顎がごく自然に奏の肩口に置かれ、その口調には悪戯が成功したような傲慢さと、ほんのわずかな掠れが混じっていた。「だがな、コートの上で、俺の視界から逃げ切れた奴はまだ一人もいないんだよ」


真夏の午後の太陽の下。


純白のスポーツウェアに身を包んだ長身の少年が、UVカットパーカーでぐるぐる巻きになった人物を背後から力強く、そしてひどく親しげに抱きすくめている。


その時、少し離れたコートからこちらへ歩いてきていたテニス部員たちが、一斉に不自然に足を止めた。驚愕に見開かれた彼らの目には、コートの端で痴話喧嘩のようにイチャつき、周囲の目も憚らずに密着しているこの二人の姿が、あまりにも刺激的すぎたのだ。

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