14 テリトリーのマーキングと無効化された抗議(下)
「なぁルル。もし明日の朝、俺が親水公園のほとりで不幸にも突然死したら、俺のSwitchのセーブデータはお前が引き継いでくれ。いいか、あのダンジョンのポイズンドラゴンは、炎属性の攻撃が弱点だからな……」
ルルは冷淡に自分の爪を舐め、この人間にあからさまな白眼を向けると、プリッとお尻を向けて寝直してしまった。
その夜、奏の睡眠は極めて浅く、最悪だった。夢の中では、時速200キロの蛍光イエローのテニスボールが次々と頭に向かって飛んできて、その背後には白いキャップを被った、死神のような暴君が立っていた。
翌朝。
バンッ!
客室のドアが、一蹴りで乱暴に開けられた。
奏は心臓をバクバクさせながら、悪夢から飛び起きた。恐怖に駆られて目を開けると、壁の掛け時計の針は「6時30分」きっきりを指していた。1分でも、1秒でもなく、ジャストだ。
ベッドの脇には千野柊斗が立っていた。モノトーンの軽量ランニングウェアに身を包んだその長身のシルエットは、朝の薄明かりの中で、まるで『神が気まぐれに彫り上げた、完璧で傲慢な大理石の彫刻』のように冷たく、そして美しかった。彼は手にしていた新品の白いスポーツウェアと、まだタグのついたランニングシューズを、容赦なく奏に向かって放り投げた。
「着替えろ。猶予は120秒だ」柊斗の声は氷のように冷たく、交渉の余地は1ミリもなかった。
10分後、マンション敷地内の親水公園。
早朝の空気にはまだ涼しい湿り気が残り、木漏れ日がアスファルトのランニングコースにまだらな模様を描いている。朝のワークアウトには絶好の環境だ——それが『普通の人間』にとっては、だが。
奏は、明らかに柊斗が自分のセンスで見立てたであろう、しかしサイズだけは奏の体にピッタリと合っている白いスポーツウェアを着せられ、墓場から引きずり出されたゾンビのような絶望顔でスタートラインに立っていた。
「呼吸のペースを落とせ。鼻から吸って、口から吐く。俺から離れるなよ」
柊斗はその場で正確無比なストレッチをいくつかこなし、骨ばった指で白いキャップのツバを下げた。これ以上の無駄口は叩かず、長い脚を踏み出し、彼自身にとっては「信じられないほど遅いペース」で走り始めた。
奏は深く息を吸い込み、処刑台に向かう罪人のように重い足を踏み出した。
最初の100メートル、奏はまだギリギリ「走る」というフォームを維持できていた。
200メートル、彼の呼吸は壊れたふいごのようにゼーゼーと鳴り始め、肺が焼けるような痛みを訴え始めた。
300メートル、奏の視界はぼやけ、両脚は鉛を詰め込まれたように重くなり、その歩みはもはや競歩よりも遅いトボトボとした足取りへと退化していた。
「ストップ……もう無理だ……」
奏は足を止め、両手を膝に強く押し当てて、肩で激しく息をした。青白い顔には不自然な赤みが広がり、額からは冷や汗が頬を伝ってボタボタと落ちている。
前を走る足音が止まった。
柊斗は振り返り、自分からすでに10メートル以上遅れ、今にも地面に倒れ伏しそうな奏を見た。柊斗の整った眉間には深いシワが寄り、瞳の奥に微かな苛立ちが走る。
この軟体動物の体力が絶望的であることは予想していたが、まさかここまで常軌を逸して酷いとは。300メートル? 普段の自分のウォーミングアップの距離にも満たないじゃないか。
柊斗は冷たい表情のまま、大股で引き返してきた。
「アンタ、散歩でもしてるつもりか?」彼は奏の前に立ち止まり、見下すように言い放った。「そんなスピードじゃ、亀にすら周回遅れにされるぞ」
「言っただろ……俺の身体構造は……こういう野蛮なカロリー消費には……向いてないんだって……」奏は顔を上げることもできず、途切れ途切れに言った。喉の奥から、鉄の味が込み上げてくるのを感じる。
柊斗は何も答えなかった。彼は突然手を伸ばし、奏の手首をガシッと掴んだ。
奏は驚き、本能的に手を引こうとしたが、万力のようにホールドされて動かせない。柊斗の、タコのある温かい指の腹が、奏の手首の内側にある脈拍にピタリと当てられた。
指先から伝ってくる鼓動は異常なほど速く、無秩序で、持ち主の心臓の負荷がすでにレッドゾーンに達していることを示していた。
柊斗の眉間のシワがさらに深くなる。彼は手を離し、極めて不気嫌そうに「チッ」と舌打ちをした。
「……弱すぎる」
彼は奏の悲惨すぎる拒絶反応から顔を背けると、腰のランニングポーチからミネラルウォーターのペットボトルを取り出した。キャップをひねって開け、そのまま奏の口元へ突きつける。
「一口だけ飲んで、口に含め。すぐに飲み込むなよ」命令形のトーンは、相変わらず逆らうことを許さない暴君のそれだった。
奏は震える手でボトルを受け取り、柊斗のコマンド通りに喉を潤した。ようやく、三途の川からなんとか引き返してきた気分だった。
「走れないなら」柊斗はキャップのツバを深く下げ、自分でも気づいていない瞳の奥の「妥協」の色を隠すと、硬い声で二文字だけ吐き捨てた。「歩け」
奏は呆気にとられ、信じられないものを見るように顔を上げ。てっきりこの暴君のことだから、本当に血を吐くまで走らされると思っていたのだ。
柊斗は彼を見返すことなく背を向け、両手をスポーツパンツのポケットに突っ込んで歩き出した。だが今度は走るのではなく、非常にゆっくりとした散歩のペースで、奏の前を歩き始めた。
「ついてこい。また3メートル以上遅れたら、次は肩に担いで走るからな」前を歩く少年は、一度も振り返ることなく、もはや脅しにもならない捨て台詞を吐いた。
奏は、前を歩く背が高く引き締まった背中を見つめた。
日差しは徐々に強さを増し、刺すような眩しさになっていたが、柊斗が奏の真正面を歩いているため、その逞しい体が朝日の大部分を遮り、奏の顔にちょうどいい日陰を作ってくれていたのだ。
奏は溜息をつき、のろのろと腰を上げた。
「世界の七不思議の一つだな……」小さく呟く。
但し彼はそれ以上抗議することはなく、観念して筋肉痛になりかけの足を踏み出した。アスファルトに落ちた柊斗の影を踏むようにして、一歩、また一歩と後ろをついていく。二人の歩幅は、なぜか奇妙なほどに調和したリズムを刻んでいた。




