10 午前2時のモニター光と夜行性動物(下)
「ベッドに縛り付ける行為は、刑法における監禁罪に該当する」奏は喉仏を動かし、なけなしの尊厳を法的な武器で守ろうと試みた。「それに、そんなことをしたら、君に何か特殊でアブナイ性癖があるんじゃないかと疑わざるを得ないぞ」
圧倒的に不利な状況下でも、相変わらずののんびりとした口調で理屈をこね回す奏を見て、柊斗の瞳の奥で渦巻いていた危険な感情はなぜか少しだけ凪いだ。そして代わりに、この口の減らない軟体動物を徹底的に揉みくちゃにしてやりたいという、極めて意地の悪い衝動が湧き上がってきた。
「もし、その通りだと言ったら?」
柊斗は突如、奏の手首をホールドしていた手を離した。奏がホッと息をつく暇もなく、柊斗の両腕はすでに奏の脇の下と膝の裏に潜り込んでいた。
「わっ! ちょっと、何す——」
世界がグルンと反転するような無重力感の中、奏がまともな抵抗をする間も与えられず、彼はラグの上から柊斗によってそっくりそのまま持ち上げられていた。
「脳から手足に『寝ろ』ってコマンドが送れないなら、俺が物理的に運搬してやるよ」柊斗は彼を抱え上げたまま、揺るぎない体幹でスッと立ち上がった。その力強い両腕は、奏をまるで重さゼロの巨大な抱き枕か何かのように抱え込み、息一つ乱していない。
「下ろせ! 自分で歩ける!」奏の顔は一瞬で真っ赤に茹で上がった。いくら引きこもりとはいえ、彼だって身長178センチの成人一歩手前の男だ。年下の高校生に子供のように「お姫様抱っこ」で軽々と持ち上げられるなど、彼のオスの尊厳に対する壊滅的なダメージである。
「黙れ。これ以上暴れたら、手が滑ってトイレに放り込むかもしれないぞ」
柊斗は冷たく言い放ち、彼を抱えたまま廊下の奥にあるゲストルームへとまっすぐに向かった。
ドアを足で蹴り開け、踵で「バンッ」と閉める。部屋の電気はつけられず、窓から差し込む薄い月明かりだけが頼りだ。
柊斗はベッドの横まで来ると、腕の力を抜き、奏をふかふかのマットレスの上に遠慮なく放り投げた。
ボヨンッとスプリングの上で跳ねた奏が身を起こそうとした瞬間、クーラーの冷気と太陽の匂いが染み込んだタオルケットが頭からバサッと被せられ、彼は身動きの取れないサナギ状態にされた。
直後、ベッドの反対側が大きく沈み込んだ。
奏がタオルケットから頭だけを引っ張り出して薄暗闇に目を凝らすと、そこには驚愕の光景があった。この冷酷な暴君は、奏の予想に反して部屋から出て行くことはなく、そのままベッドの縁に腰を下ろしたのだ。
柊斗は長い脚を組み、腕を組んでヘッドボードに背を預けたまま、暗闇の中でも圧倒的なプレッシャーを放つ瞳で、高みから奏をロックオンしていた。
「お前……なんで出て行かないんだよ?」奏はタオルケットの中に身を隠し、目だけを出して、いつでも暴発しそうなこの危険分子を警戒した。
「躁状態の小動物が、確実に強制スリープモードに入るのを監視するためだ」柊斗のトーンは全く起伏がなく、まるでそれが宇宙の真理であるかのように淡々と告げた。「アンタがいびきをかくまで、俺はここから一歩も動かない」
「まず言っておくが、俺はいびきなんてかかない」奏は絶望した。「それに、そんな風に見張られてたら心理的プレッシャーで寝られるわけないだろ!」
「それはアンタの問題だ」柊斗は冷酷に目を閉じ、ヘッドボードに寄りかかったまま全く動く気配を見せない。「このまま俺と朝の6時半まで睨み合いを続けるのも自由だ。その代わり、時間になったら引きずり起こして、グラウンドで5キロ走らせる。選択肢は二つだ、選べ」
ランニング。5キロ。
この二つの単語は、奏にとって死刑宣告にも等しい破壊力を持っていた。
彼は脳内で、抵抗が成功する確率とそれに伴うカロリー消費量を猛スピードで計算したが、最終的に、絶対的な武力の差の前ではいかなる戦術も無意味であるという悲しい結論に至った。
「……この、鬼畜め」奏はギリッと歯を食いしばって吐き捨てた。
彼はタオルケットを強く引き寄せると、寝返りを打って圧倒的な存在感を放つ少間に背を向け、強制的に目を閉じた。
部屋は完全な静寂に包まれた。
セントラル空調の吹き出し口から聞こえる微かな「シューッ」という音と、二人の交差する呼吸音だけが響いている。
奏は、誰かに監視された状態で眠りに落ちるなんて絶対に不可能だと思っていたが、それは自分の精神力を過大評価し、体が求める「休息への渇望」を過小評価していただけだった。静まり返った空間で、すぐ後ろから聞こえてくる他人の規則的で深い呼吸音は、不思議なことに一種のホワイトノイズのように働き、奇妙な安心感をもたらしたのだ。
どれくらいの時間が経っただろうか。奏の強張っていた肩の力が少しずつ抜け、乱れていた呼吸のペースも均等で浅いものへと変わっていった。
彼が本当に熟睡したことを確認すると、ヘッドボードに寄りかかって目を閉じたぜ柊斗が、ゆっくりと目を開けた。
暗闇の中、彼はわずかに顔を向け、タオルケットから後頭部だけを覗かせている奏の寝姿に視線を落とした。
眠っている奏には、普段のあの人を食ったような挑発も、堂々たる干物っぷりもなく、一切の攻撃性を持たない静かな存在だった。柔らかい枕に沈み込んだ青白い横顔。そして、長い睫毛が目元に落とす、儚げな影。
(弱すぎる)
(抵抗すら、撫でられてる程度にしか感じないくらいにな)
柊斗は心の中で冷ややかに評価を下した。しかし彼はすぐに立ち去ることはなく、薄いタコのある右手を伸ばすと、何かに憑かれたように、宙で一度手を止め、ゆっくりと奏の頭上へとかざした。
数秒の躊躇ののち、柊斗の指先がそっと下り、奏の柔らかい髪を一度だけ軽く撫でた。
それは、臆病な猫を驚かせまいとするような、極めて優しい手つきだった。
その後、少年は未練なく手を引っ込めると、立ち上がり、足音を殺して部屋を出て行った。
ドアが静かに閉まり、廊下の光が完全に遮断された。




