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3章4話:対等ってなに?

 夜。


 部屋の空気が、重い。


 何も起きてないのに。


 何も言ってないのに。


 ただ、それだけで分かる。


---


「……」


 ユイが、ドアの前に立っている。


 帰ってきたばかり。


 靴もまだ脱いでない。


---


「……おかえり」


 声をかける。


---


「……ただいま」


 返事はある。


 でも——


 こっちを見ない。


---


「……」


 そのまま、動かない。


 数秒。


 長い。


---


「……どうした」


 聞く。


---


「……ね」


 ユイが言う。


 被せるように。


---


「……あたしさ」


 ゆっくり。


---


「……もう無理かも」


---


 静かに落ちる。


---


「……なにが」


 分かってるのに聞く。


---


「……この感じ」


 即答。


---


「……」


---


「……ちゃんとしてるやつ」


---


 その言い方。


---


「……」


---


「……優しいのにさ」


 続ける。


---


「……全然、優しくない」


---


 はっきり言う。


---


「……」


---


 言葉が詰まる。


---


「……それ、どういう意味だよ」


 なんとか返す。


---


「……そのまま」


 即答。


---


「……あんたさ」


 一歩、近づく。


---


「……何もしてこないじゃん」


---


「……」


---


「……聞かないし」


---


「……触らないし」


---


「……踏み込まないし」


---


 一つずつ。


 全部、事実。


---


「……それがいいと思ってる」


 言う。


---


「……対等だから」


---


 はっきり。


---


「……」


---


 ユイが、一瞬だけ止まる。


---


「……それ」


 小さく言う。


---


「……誰が決めたの?」


---


 刺さる。


---


「……」


---


「……あたし?」


---


「……」


---


「……違うよね」


---


 即答。


---


「……あんたでしょ」


---


 逃げ場がない。


---


「……」


---


「……あたしさ」


 ユイが続ける。


---


「……助けるなって言ったよ」


---


「……ああ」


---


「……でもさ」


 一瞬、間。


---


「……全部やめろなんて言ってない」


---


 それ。


---


「……」


---


「……放っとけって意味じゃない」


---


 はっきり。


---


「……」


---


 何も言えない。


---


「……対等ってさ」


 ユイが言う。


---


「……関わらないことじゃなくない?」


---


 静かに。


 でも——重い。


---


「……」


---


「……あたしが話してるのに」


---


「……あんた、距離取ってるだけじゃん」


---


「……」


---


「……それさ」


---


 一歩、さらに近づく。


---


「……対等じゃなくて、逃げてるだけだよ」


---


 決定打。


---


「……っ」


 息が詰まる。


---


「……逃げてねえよ」


 反射で言う。


---


「逃げてるよ」


 即答。


---


「……」


---


「……傷つきたくないからでしょ」


---


「……面倒になるのが嫌だからでしょ」


---


「……あたしに深入りしたくないだけでしょ」


---


 全部、突き刺さる。


---


「……違う」


 否定する。


 でも——弱い。


---


「同じだよ」


 切り捨てる。


---


「……」


---


「……ねえ」


 ユイが言う。


---


「……あたしさ」


---


「……今、めちゃくちゃしんどいんだけど」


---


 初めて、はっきり言う。


---


「……」


---


「……でも」


---


「……あんた、何もしないじゃん」


---


 それ。


---


「……」


---


 何も言えない。


---


「……それってさ」


---


「……あたし、一人と変わらなくない?」


---


 静かに。


 でも——一番きつい。


---


「……」


---


 完全に詰む。


---


「……」


---


 数秒。


 沈黙。


---


「……分かんねえよ」


 やっと出る。


---


「……どうすればいいか」


---


 本音。


---


「……助けたらダメなんだろ」


---


「……距離詰めたら壊れるんだろ」


---


「……じゃあ、どうすりゃいいんだよ」


---


 初めて、声が上がる。


---


「……」


---


 ユイが、じっと見る。


---


「……そんなの」


 小さく言う。


---


「……一緒に考えるもんでしょ」


---


 それ。


---


「……」


---


 言葉が、出ない。


---


「……あたし一人で抱えるか」


---


「……あんた一人で我慢するか」


---


「……どっちかしかないの?」


---


 問い。


---


「……」


---


「……それ」


---


「……対等じゃないよ」


---


 静かに、確定させる。


---


「……」


---


 全部、崩れる。


---


 今までの考え方。


---


 やり方。


---


 全部。


---


「……」


---


 何も言えない。


---


 遅い。


 全部、遅い。


---


「……やっぱ無理」


 ユイが言う。


---


 あっさり。


 でも——重い。


---


「……」


---


「……このままは、無理」


---


 はっきり。


---


「……」


---


「……一回、離れよ」


---


 それ。


---


 決定。


---


「……」


---


 止められない。


---


 止める言葉が、ない。


---


「……ごめん」


 ユイが言う。


---


「……ちゃんと好きだから」


---


「……ちゃんと無理」


---


 矛盾。


 でも、本音。


---


「……」


---


 そのまま、背を向ける。


---


 ドアに向かう。


---


「……ユイ」


 呼ぶ。


---


 止まる。


---


 でも——振り向かない。


---


「……」


---


 言葉が出ない。


---


 何も、言えない。


---


「……」


---


 数秒。


---


 そのまま。


---


 ドアが閉まる。


---


 音が、やけに大きい。


---


「……」


---


 一人。


---


 静か。


---


 でも——


---


 完全に、終わった感じ。


---


「……」


---


 気づく。


---


 対等って。


---


 距離を取ることじゃなかった。


---


 でも。


---


 気づくのが、遅すぎた。

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