表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/23

2章3話:それでも分かり合えない

 空気が、最初から重かった。


 理由は分かってる。


 分かってるのに——


 どうにもできない。


「……」


「……」


 同じ部屋。


 同じ距離。


 でも、まるで違う。


 ユイはソファの端。


 こっちは反対側。


 間に、見えない線がある。


---


「……今日、店から言われた」


 ユイが先に口を開く。


 視線は、こっちじゃない。


「……なに」


「……このままだと厳しいって」


 淡々と。


 感情を乗せない言い方。


 でも——


 その分、重い。


「……そうか」


 短く返す。


 予想してた。


 でも、実際に聞くと違う。


---


「……別に、よくある話だし」


 ユイが続ける。


「調子戻せばいいだけ」


「……戻せるのか」


 思わず出る。


 少しだけ強い声。


 ユイが、ピクッと反応する。


「……戻すよ」


 即答。


「……戻せてねえだろ」


 言ってしまう。


 一番、言っちゃいけないやつ。


---


「……」


 空気が、一瞬で変わる。


 冷える。


 はっきり分かるくらい。


「……なにそれ」


 ユイが、ゆっくりこっちを見る。


 目が、細い。


 完全に防御。


「……事実だろ」


 引かない。


 ここで引いたら、多分終わる気がした。


 でも——


 それが間違い。


---


「……あんたさ」


 ユイが立ち上がる。


 一歩、こっちに来る。


「それ、誰目線?」


 静かな声。


 でも、圧がある。


「……別に」


「別にじゃないでしょ」


 被せる。


 強い。


「……客?店?それとも——」


 一瞬だけ間。


「……あたしのこと分かってるつもりのやつ?」


 まっすぐ刺してくる。


---


「……分かってるつもりはねえよ」


 正直に返す。


「でも」


 続ける。


「見てりゃ分かる」


 それが、引き金になる。


---


「……っ」


 ユイの顔が、少しだけ歪む。


 怒りか、悲しみか。


 どっちも。


「……見てるだけで分かるなら、楽だよね」


 吐き捨てるみたいに言う。


「……何が」


「……こっちはさ」


 言葉が強くなる。


「やってんの」


 はっきりと。


「ちゃんと」


 その一言。


 全部乗ってる。


---


「……できてないだろ」


 言ってしまう。


 完全に。


 止めるタイミングはあった。


 でも——止めなかった。


---


「……は?」


 ユイが止まる。


 完全に。


「……今、なんて言った?」


「……できてないって言った」


 もう引けない。


---


「……」


 数秒。


 沈黙。


 でも、ただの沈黙じゃない。


 完全に壊れる前のやつ。


---


「……じゃあさ」


 ユイが、ゆっくり言う。


 声が、逆に静かになる。


「全部あんたがやれば?」


 それ。


 来た。


---


「……は?」


「仕事も、借金も、全部」


 一歩近づく。


「支えるんでしょ?」


 まっすぐ見る。


「じゃあ、やればいいじゃん」


 完全に刺しにきてる。


---


「……それは」


 言葉が詰まる。


 分かってる。


 無理だって。


 でも——


 言えない。


---


「……ほら」


 ユイが笑う。


 崩れた笑い。


「無理でしょ」


 あっさり言う。


「だから言ってんの」


 続ける。


「口出すだけなら簡単なんだよ」


 その一言。


 全部ひっくり返す。


---


「……口出してるだけじゃねえ」


 反射で言う。


「金も出しただろ」


 出してしまう。


 最悪のカード。


---


「……」


 ユイの表情が、止まる。


 本当に止まる。


「……今、それ言う?」


 小さく。


 低く。


---


「……いや、そういう意味じゃ」


「じゃあどういう意味?」


 被せる。


 逃がさない。


---


「……」


 言葉が出ない。


 完全に詰む。


---


「……あー、そっか」


 ユイが、ゆっくり頷く。


「そういうことね」


 納得したみたいに。


 でも——


 最悪の方向に。


---


「……助けてあげてる、って感じ?」


 その言い方。


 完全に距離ができる。


「違う」


「同じでしょ」


 即答。


 切り捨てる。


---


「……あたしさ」


 ユイが言う。


 静かに。


「それ、一番嫌いなんだよね」


 はっきりと。


---


「……」


「……可哀想なやつ扱い」


 続ける。


「勝手に救おうとするやつ」


 刺さる。


 全部、核心。


---


「……そんなつもりじゃ」


「そう見えるって言ってんの」


 遮る。


 強い。


---


「……」


「……」


 沈黙。


 でも——もう遅い。


---


「……やっぱ無理だわ」


 ユイが言う。


 あっさりと。


 軽く。


 でも——決定的。


---


「……なにが」


 分かってるのに聞く。


---


「……この距離」


 即答。


 迷いなし。


「近すぎる」


 続ける。


「だから、全部おかしくなる」


---


「……」


「……仕事も」


「……」


「……あたしも」


 最後に、それ。


---


「……距離、置こ」


 ぽつりと言う。


 決定。


 確定。


---


「……」


 言葉が出ない。


 止め方が分からない。


---


「……嫌なら」


 ユイが続ける。


「止めればいいよ」


 こっちを見る。


 試すみたいに。


---


「……」


 言えない。


 止めたい。


 でも——


 今の自分の言葉じゃ、止められないのが分かる。


---


「……でしょ」


 小さく言う。


 少しだけ寂しそうに。


---


 そのまま、背を向ける。


 バッグを取る。


 ヒールを履く。


 音が、やけに響く。


---


「……じゃあね」


 それだけ。


 軽く。


 でも——


 軽くない。


---


 ドアが閉まる。


 音が、やけに大きい。


---


「……」


 部屋に、一人。


 静か。


 でも——


 何も残ってない感じ。


---


 さっきまであった距離も、体温も。


 全部、消えてる。


---


「……くそ」


 小さく呟く。


---


 分かってる。


 どこで間違えたか。


---


 でも——


 分かってても、戻せない。


---


 それが一番、厄介だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ