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第70話:天落山への道

1. 森の中の危険

 

マイロの先導の下、森を歩く。

マイロはこちらが歩きやすいところを選んでくれるので、道もない森の中ではあるが問題なく進むことができる。

時折、グリーンスネークが遠目にこちらを見ていたりするが、襲いかかってくる様子はない。

「グリーンスネーク、こちらに襲い掛かってきませんね……」

ファルマが少し不思議そうに言う。

「マイロがいるからだろうな」

以前マイロが一吠えでグリーンスネークを追い払ったのを思い出す。マイロはこの森では結構な上位者なのだろう。

そんな中、森の中に景色が歪む地点が時折あるのに気づく。

「あれは……」

「おそらく、あれがダールさんが言っていた感覚を狂わせる魔力でしょう」

ルーシェンが、歪みを指差しながら言う。

それに近づくと、エリシアは調子が悪そうだ。

「榊様……少し、頭が……」

額に手を当てながら、顔をしかめる。

「あまり魔力に近づかないようにしよう」

俺が言うと、マイロも理解したように大きく迂回して進む。

そうして進んでいるとマイロが立ち止まり、喉を鳴らして唸り声をあげて警戒し出す。

「どうした?マイロ、何かいるのか?」

俺たちも武器を構えて警戒していると――

ヒュン!

何かがすごい勢いで飛んでくる。

「!?」

咄嗟に剣で弾くと、それは石だった。

周りを見ると、何かに囲まれているのに気づく。

木々の隙間から見えるその姿は二メートルほどもある、チンパンジーに似た魔物だった。

「あれは、賢人猿(けんじんえん)です!」

ルーシェンが目を細めながら叫ぶ。

賢人猿は片手で木にぶら下がったり、木の上からスリングを振り回している。

(まずい……!)

思った瞬間、石が四方八方から襲いかかってくる。

外れた石が当たった近くの木を深くえぐり、樹皮が砕け散る。

かなりの威力だ。

「そこの木まで下がれ!」

「エリシア、石を防いでくれ!」

「はい!」

木を背に、ファルマとルーシェンを庇いながらエリシアと石を防ぐ。

「風刃!」

ルーシェンも杖を振るいながら風の魔法で応戦するも、

「キキィ!!」

賢人猿は素早く木に隠れるなどして、当たらない。

「なら鎖蔦狼!」

鎖蔦狼で拘束しようとするも、また木を上手く使って避けられてしまう。蔦は木に巻き付くだけだ。

賢人猿は石をスリングで投げつけてくるだけで、こちらに近寄ろうとしない。

攻撃手段がルーシェンの魔法ぐらいしかなく、それも上手く避けられてしまう。

(このままでは、ジリ貧だ……!)

焦る。

「グルルルル!」

マイロも賢人猿に突っ込むが、木の上に避難されるとどうしようもない上、マイロも石を避けないといけない。

そんな中――

「行って!疾嘴群鳥(しっしぐんちょう)!」

ファルマが手を前に突き出しながら、疾嘴群鳥を召喚して賢人猿に突撃させる。

木に隠れ、避けられたように見えた。

「キ……!?」

しかし、疾嘴群鳥の軌道を手を動かしながら曲げることで賢人猿の頭に刺さり、一匹倒す。

血が飛び散り、賢人猿が木から落ちる。

「キキィ!!キキィ!」

騒ぐ賢人猿。

しかし、ファルマは目を細め、集中しながら冷静に疾嘴群鳥を操り一匹ずつ倒していく。

5匹程倒すと、

「キィー!!」

賢人猿は撤退していった。

「はぁ……はぁ……」

危機を脱し、脱力する俺。

「賢人猿は賢く、先程のようにスリングなどの武器を遠距離から使ってくる厄介な相手です」

ルーシェンが息を整えながら説明する。

「しかし、自分たちを殺しうる者がいることがわかったはずなので……また襲いかかってくることは無いでしょう」

「ありがとう、ファルマ。助かったよ」

「上手くいってよかったです。でも疲れました……」

「そうだな、少し休憩しよう」

ファルマは少し疲れていたので木の下で休憩してから、また森を進むことにした。

 

2. 天落山の麓へ

 

そして昼頃を過ぎた頃、森が開け、目の前に荒野と、その先に天落山が見えた。

「近くで見ると迫力がすごいな」

近くから見た天落山はまさに巨大な岩山だった。かなり近いのでもう全体像が上の頂上付近しか見えない。

「ここからは荒野を行くこととなりそうですね。見たところあと半日もかければ、山の麓に着くでしょう」

ルーシェンが手を額に当てて山を見上げながら言う。

「ワン!」

マイロが案内はここまでだとでもいうように一声鳴く。

「ここまで案内してくれて、ありがとうマイロ」

俺が、マイロの頭を撫でる。

マイロは、尻尾を振りながらもう一度ワンと鳴き、森の中に帰っていった。

 

3.荒野を進む

 

天落山に向かって、荒野を進む。

ゴゴゴゴゴゴゴ――

天落山からは時折、地鳴りのような音が響き渡っており威圧感のようなものを感じる。

(岩山なだけに、崩落が怖いな……)

「何もいませんね……風の音しかしません」

そして、この荒野には魔物どころか生物の影が一切ないことも不気味に思える。

風が吹きすさぶ中、何事もなく天落山の麓に到着する。

「もう夕方だ。あの岩山のそばで野営しよう」

もう夕方を過ぎ、暗くなってきたため、小さな岩山のそばで野営し、その野営地で今後のことを話し合う。

「天落山の頂上付近に、雪が残っているのが見えます」

エリシアが、山頂を指差しながら言う。

「防寒をする必要がありますね」

ファルマが、防寒具を取り出しながら頷く。

「それと……」

俺は、アルセインから預かった杖を取り出す。

「これはアルセインから預かった、空気を常に地上と同じ状態に保つ結界を貼ることができる杖だ。これで結界内からでなければ、高山病にもならずに済むはずだ」

「しかし、いつも先に行って飛ぶ先を確保するルーシェンは、どうしたものか……」

心配そうに眉をひそめながら言う。

「私は自分で周りの風を調整するから、大丈夫です」

ルーシェンが、杖を軽く振りながら自信を持って答える。

そういえば高山病の対策があると以前言っていたな。

「それならば、大丈夫か」

いつものように見張りを交代しながら一夜を明かす。夜の真っ暗な天落山は不気味な存在感があった。

 

4. 天落山の登頂

 

そして次の日、

「では、行きましょうか」

いつものように、ルーシェンが先に飛んで安全な位置を確保する。

「結界から万一出てしまったら大変だから、ファルマは俺と手をつないで飛ぼう」

「は、はい」

「エリシアは大丈夫か?」

「はい、私は大丈夫です」

杖の結界を貼り、ファルマと手を繋いで飛ぶ。そのあとをエリシアが続く。

それを何度も繰り返す。さすがに五千メートルを超える山だ。なかなか頂上までつかない。

「あ、近くの岩が崩れます!」

「おっと!」

途中、近くで岩の崩落がある。

着地地点を少しずらしやり過ごす。

轟音と共に、巨大な岩が崩れ落ちていく。

「大丈夫ですか!?」

エリシアが後からついてきて俺たちの無事を確認する。

「ああ、大丈夫だ」

あの崩落に巻き込まれれば、骨すら残らぬだろう。

「崩れやすいから、気を付けないといけないな」

『ルーシェン、崩落しそうな岩に気を付けてくれ』

『わかりました』

イヤリングでルーシェンにも注意喚起する。

その後も慎重に進み、少し危ない場面もあるものの何とか頂上までたどり着く。

そこは一面雪による白銀の世界だった。

「わあ、もう春なのにこんなに雪が……」

ファルマが白い息を出しながら感動したように言う。

「こんな旅じゃなければ雪だるまの一つでも作ったんだがな」

「雪、だるま……ですか?」

「ああ、雪を固めて転がして大きくするんだ。そして大きくなった雪玉を縦に二つ重ねて木の枝なんかで手足を付けたり、石なんかで顔を作ったりするんだ」

「わあ、面白そうですね」

ファルマの目は童心に返ったように輝いている。

「まあ、今は先に進みましょう。もう少し進めば塔が見えるはずです」

風を纏って先行していたルーシェンが戻ってくる。

「そうだな」

そして頂上を越えた先。眼下の岬に、周りを切り立った岩に囲まれ、嵐のような風に包まれた巨大な塔が見えた。

「あれが……最果ての塔か……」

嵐に包まれながらも、揺るがず立つその姿は、まるで世界の終端そのものだった。

俺は無意識に拳を握る。

 

ついに――

ルシエラの領域に、足を踏み入れる。


________________________________________



賢人猿けんじんえん

二メートル級の体躯を持つ猿型の魔物。森に群れで生息し、魔物の中では異例の知性を備える。

個体の膂力は平凡だが、自作のスリングを用いた投石を主戦術とする。高い命中精度を誇り、頭部を打ち抜かれれば中級冒険者でも致命傷となる。

彼らは決して近寄らない。安全圏から石を投げ続け、相手が動かなくなるまで待つ。

その冷徹さの割に素材価値は低く、「最も割に合わない魔物」と陰口を叩かれている。



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