配管の死闘
1. 巨大ネズミとの戦闘
巨大化したネズミが、待ち構えていた。その左手側には、魔力だまりが広がっている。あの規模だと白銀界へのゲートもあるな。
「キシャアアア!」
ネズミたちが吠えて襲いかかってくる。
ネズミとはいえ、こちらの6倍以上の大きさ。
しかも、素早い。
一匹が飛びかかってくると、別の一匹が横から襲いかかる。
流れるような連携。
「くっ……!」
剣で受け流すが、一撃一撃が重いうえ次々と攻撃が来る。
「はっ!」
エリシアが前に出て、腕の刃でネズミを切り裂く。
「風刃!」
ルーシェンは後方から、風の刃の魔法で援護する。
「鎖蔦狼、お願い!」
ファルマは毒を投げつけ、鎖蔦狼で拘束する。
その後ろから別のネズミが襲いかかる!
「ファルマ!」
「……!!鳴花!」
――パアン!
「ギャッ!」
しかしファルマは冷静に、爆竹のような魔法をネズミの顔に使う。ネズミは一瞬動きを止め、その隙に距離を取る。
「グルルルル!」
「ギギャァ……」
そしてマイロが、動きを止めたネズミの喉を噛み切る。
連携して一体一体を、確実に倒していく。
だが――
「キシャアアアア!」
「まさか……!」
止めを刺したはずのネズミが、しばらくすると再生してまた襲いかかってくる。
切り裂いたはずの喉が、蠢き、塞がる。
肉が盛り上がり、牙が再び覗く。
「これでは、切りがない!……あれは!?」
戦っているうち、奥から闇の力がネズミに流れ込んでいることに気づく。
「あれは……ダールのペンダントか!」
そのペンダントから、闇の力が溢れ出ている。
(まさかペンダントが……ネズミに力を与えているのか……!)
「みんな! あのペンダントを何とかしないと!」
「あそこまで行くのは厳しいですね……!炎槍!」
ルーシェンが魔法を使い、ネズミを吹き飛ばしながら返す。
ペンダントは部屋の最奥。距離がある。
間に巨大ネズミが何匹もいる。
「どうする!?」
「ネズミを何とか引き付けて……一番素早く動ける人に行ってもらうしかないと思います!」
ファルマも戦いながらそう提案する。
「この中で一番早く行けるのは……マイロか……!」
戦いながら、何とか奥のペンダントを回収できないか相談する。
「よし、マイロ!行けるか?」
「ワン!」
マイロを見ると、わかっていると吠える。
「よし! 俺たち4人がペンダントまでの道を作る! マイロ、その間に突破してくれ!」
2. 決死の突破
「俺が右のネズミを抑える!エリシアは左を頼む!」
「了解しました!」
「ギギャッ!?」
ネズミを二人で何とか左右に蹴散らす。
俺は水の剣を振るい、右から迫るネズミを纏めて両断する。
エリシアは腕の刃で、左から襲ってくるネズミを斬り払う。
「吹き飛びなさい!風砕!」
ルーシェンは暴風で、上から飛びかかるネズミを吹き飛ばす。
「鎖蔦狼!お願い!」
ファルマは鎖蔦狼で、前方のネズミを拘束する。
その間にマイロが拘束されたネズミを飛び越え駆け抜ける!
しかし、ネズミの数が多く、攻撃を完全には防げない。
ネズミの攻撃を受け、血を滲ませながらもマイロはペンダントまでたどり着く。
そしてマイロがペンダントに触れた瞬間。
竜巻のように溢れ出した闇の力に、右から弾き飛ばされた!
「うわっ!?」
「くっ!?」
「きゃあ!」
「この方向は……!?」
4人とも、左側に吹き飛ばされる。
弾き飛ばされた先が魔力だまりの中にある、白銀界へのゲート!
そのまま、白銀界に皆入ってしまう!
3. 白銀界の危機
「まずい!」
俺とエリシアは大丈夫だが、ルーシェンとファルマは、白銀界に生身で行ってしまうと白銀界の魔力に犯されて、死んでしまう!
咄嗟に、闇の力を全開にする。
闇の力で、ファルマとルーシェンを覆う!
そして、その状態で白銀界に飛ばされる。
「はぁ……はぁ……!大丈夫か!?」
「は、はい、大丈夫です」
「こちらも今のところ問題ありません。ただ闇に包まれているので周りが見えませんが……」
闇の力に覆われたルーシェンとファルマは、何とか無事だった。
「すぐ現世に帰ろう!」
ゲートに向かう。
だが動きながらの広範囲の闇の力の放出の制御が難しい。
闇の力が、揺らぐ。
「ぐっ……!」
闇の力から僅かに出たルーシェンの指先が白く変色する。
「まずい……!」
闇をさらに強め覆い直す。しかし闇は不定形だ。安定しない!
焦燥が強い。ここで制御を失敗したら二人が……!
「榊さん!」
ルーシェンの声。
「剣などに纏わせるように、私たちに闇の力を纏わせてください!」
「……!」
そうか!
「ルーシェン!ファルマ!手を!」
「は、はい!」
俺は二人に手を差し出す。
そして、手を繋いだまま闇の力を、2人に纏わせる。
静かに、全身をまんべんなく覆うように……。
ルーシェンとファルマの身体が薄く闇を纏う。
「何か不思議な感じです……」
「これが闇の力を纏うという感覚ですか……」
何とか、成功する!二人の身体にも今のところ悪影響は無さそうだ。
「よし!このままゲートをくぐって戻るぞ!」
そのまま、ゲートから現世に帰ることができた。
4. ダールの復活
「くう~ん」
戻るとマイロが待っており、ネズミの死骸はもう動かなかった。
あの異様な再生も、完全に止まっている。
マイロが心配そうにこちらを見る。
「大丈夫だ」
マイロの頭を撫でる。
「ダールの元に戻ろう」
「ワン!」
ペンダントは、マイロが咥えて持っていく。もう闇の力は出ていなかった。
ダールの部屋までの配管は行きとは違い、ネズミは全く出なかった。
「ネズミ、いないな」
「おそらくあの巨大ネズミたちが司令塔のようになって、私たちを襲わせていたのでしょう」
ルーシェンが仮説を立てる。
「ネズミって、そんなに頭が良いんですね」
ファルマが感心したように言う。
「いえ、あのネズミは闇の力を受けていたので、その影響でしょう」
そんなことを話しながら、マイロの誘導のもと歩いていく。
「よくやってくれた」
部屋に戻るとダールの半透明な姿が両手を広げ出迎えてくれた。
「ベッドに寝ている吾輩の身体に、ペンダントを置くのだ」
マイロがベッドに寝ているダールの身体の上に乗り、ペンダントを胸の辺りに置く。
するとペンダントからまた闇の力が溢れる。
「!?」
また吹き飛ばされるのかと、身構える。
しかし闇の力は静かに、ダールを覆っていく。
「これで吾輩も戻れる……」
半透明なダールが、身体に重なるように入っていく。
そして――
ダールの身体を包んでいた闇が、ひび割れた殻のように軋んだ。
――パキン。
乾いた音が、遺跡の空間に響く。
「……な、に……?」
俺の声が思わず震える。
闇が、膨張している。
黒ではない。
それは光を拒絶する“深淵”そのものだった。
闇が、脈打つ。
ドクン。
鼓動のように。
その一拍ごとに、空気が震え、天井の砂がぱらぱらと落ちる。
やがて――
闇が裂けた。
眩い白銀の光が、黒を押し退けるように溢れ出す。
一瞬。
俺の視界に、巨大な影が映った。
山よりもなお高く、空を裂く翼。
星を呑み込む咆哮。
世界を踏み砕く白銀の獣。
その姿は、白銀界の主――
いや、気のせいか……?
それは、ほんの刹那。
幻のように消え、代わりに立っていたのは――
「……この感覚……久しいな」
低く、重く、しかしどこか懐かしい声。
ダールが、目を開いた。
その瞳は、以前よりも深い。
底に、嵐を飼っている。
周囲を満たしていた闇は、すでに彼の内へと収まっている。
制御され、従えられた力として。
ダールがゆっくりとこちらに視線を向ける。
その一瞥だけで、空気が凍りついた。
「礼を言う。おかげで、完全に復活することができた」
深々と頭を下げる。
「これで……元の大きさに戻れるのか?」
俺はダールに気圧されながらも問う。
「無論。今すぐにでもな」
ダールは自信に満ち溢れていた笑顔で頷いた。
マイロ
ダールに仕える巨大な白毛のゴールデンレトリバー。体高は三メートル近くに達する。
吠えることしかできないが人の言葉はほぼ理解しており、主の傍らでは静かに座していることが多い。
しかしひとたび敵意を向けられれば、その巨体と牙で巨大イノシシすら一撃で屠る。
ダールの命令は絶対。たとえそれが自らの命と引き換えであっても、迷いなく従う。




