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ダール

1. 遺跡への道

 

白い犬について行く。

ただ、白い犬はこちらが小さくなっているせいで歩幅も大きく、ついて行くのが大変だった。

俺とファルマは風踏を召喚し、エリシアは俺の肩を持っての白銀界と同じような移動を、ルーシェンは僅かに浮いた感じで飛びながらついて行く。

途中、グリーンスネークなども出るが……

「ワン!!!」

犬がひと吠えするだけで、逃げていった。

そして1時間程進んだ先には――今の縮んだ俺たちから見て巨大な――遺跡があり、その中央にある地下への入口から犬は降りていく。

少し躊躇するが、

「みんな、気をつけて進もう」

そう呼びかけ覚悟を決めて、ついて行く。

中に入ると、犬が僅かに光り辺りを照らす。

ファルマも光源虫を召喚して、自分たちの周りの明かりを確保して進んでいく。

道は徐々に地下に降りていっているようで、何回か階段を降りるように左に何回か曲がりながら降りていく。

そして、地下5階ほど降りた行き止まりの先に扉があった。

「ワン!」

犬は吠えると、扉が開いた。

一緒に扉の中に入ると、そこは研究室と書斎が一緒になったような部屋になっていた。

周囲の机には見知らぬ研究道具と本が沢山棚に入っており、中央に机とその奥にベッドがあるのがわかった。

そのベッドにはこちらからは足しか見えないが人が寝ているようだった。

更にそのベッドにカイゼル髭の男が腰掛けていた。

日本帝国軍の軍服に似た服を着た、半透明で貴族のような雰囲気を持った男だった。

 

2. ダールとの出会い

 

半透明の男は、犬に優しく語りかける。

「よくぞやった、マイロ。忠義、見事である」

褒められた犬が、尾を振る。

男はゆっくりとこちらを向いた。

「――初対面であるな」

静かに一礼する。

「吾輩はダール。かつてこの森を統べし者にして、縮減の理を司るものである」

その声音には、揺るがぬ自負があった。

俺はその男を見て、闇の力を持つ同類だと気づく。

「俺は榊だ。こちらは、ファルマ、エリシア、ルーシェン」

ダールは俺を見ると動きを止める。

「む……貴殿は……」

「……?」

なんだ?初対面のはずなのにまるで懐かしいものを見るような目だ。

しかし、ダールはしばらく俺を見つめたあと、

「……いや、なんでもない。吾輩の知人によく似ていただけのようだ」

そう言って首を振った。

そしてダールが語り出す。

「見ての通り、吾輩の肉体はそこにある」

ベッドを指す。

「今こうして語っておるのは、魂のみを切り離した仮初めの姿よ」

苦笑する。

「力を制御しようとした代償だ。半身を縛られ、物に触れることすら叶わぬ」

静かに視線を落とす。

「――情けない話であるな」

少し申し訳なさそうな表情を浮かべる。

「そんな状態で話さねばならぬことを詫びよう」

「いや、気にしないでくれ」

「貴殿は……吾輩と同じ闇の力を持っているようだ」

ダールが、俺を見つめる。

「吾輩は、神々に名を知られておる」

「奴らは記憶を辿る。力を辿る。ゆえに身を潜めておるのだ」

ダールの声の奥底には確かな怒りがあった。

「吾輩は、ものを小さくすることができる。今、その能力があるトラブルで暴走している」

ダールの表情に陰りが見える。

「暴走を止めようと動こうとした。しかし物理的な干渉ができなくてはいかんともし難い」

そこでダールは俺たちを見回す。

「暴走の原因を取り除けば、小さくなった体も元に戻せる。そのための協力をして貰いたい」

「少し仲間と話をさせてくれ」

「無論だ」

俺たちは、少し離れて話し合う。

「どちらにしろ、このままではどうしようもありませんね」

ルーシェンの言い分も最もだ。ただちらりとダールの実験道具や、本に視線が行っている。

「まずは何が原因か聞くべきでしょう」

エリシアがダールを見ながら言う。

「そうだな。まず話を聞こう」

皆が頷く。

「暴走の原因は何だ?」

ダールが、少し申し訳なさそうに説明を始める。

「吾輩の力は“縮減”。森羅万象の尺度を捻じ曲げる力だ」

指先に闇を灯す。

「この力を、他者にも扱わせられぬか――それが吾輩の研究であった」

一瞬、沈黙。

「だが実験体のネズミが、封じた力の媒介――ペンダントを奪い逃走した」

「配管の先にある魔力だまりと共鳴し、制御を離れた」

闇が僅かに揺らぐ。

「結果、この森一帯が縮減の場となった」

ダールは腕組をする。

「暴走の核は配管の先、魔力だまりにある」

配管の入口を指す。

「ペンダントを回収すれば、森は元に戻る」

真っ直ぐ俺を見る。

「貴殿ならば可能であろう」

静かに言い切る。

「吾輩と同じ闇を持つ者よ」

俺は配管の入口を見るが、どう見ても30センチくらいしかない。

「今の大きさなら、入ることができないぞ」

ダールも頷く。

「今の大きさでは入れぬな」

「縮めることだけなら、半身の吾輩でも可能だ」

目を閉じる。

「だが、完全に力を取り戻すまで、元には戻せぬ。それでもよいか」

少し悩む。

(結局は、行くしかないか……。しかし全員で行くのも危険か?)

「ファルマたちは、置いていった方がいいか?」

「私も行きます」

ファルマが、強い目で見つめる。

「私もです」

エリシアも、頷く。

「何があるか分からぬ。全員で行った方がいいであろう」

ダールも、同意する。

「わかった。行こう」

「マイロを道案内につける。こやつなら魔力だまりまでの道を覚えておる」

マイロの頭を撫でるように手を当てる。マイロも実際には触れられて無いものの、しっぽを大きく振っている。

「マイロだけで行かせることも考えはしたのだが、やはり失敗した時取り返しがつかぬのでな。貴殿たちが来たのは行幸であった」

「ワン!」

マイロもやる気十分なようだ。

「吾輩の前に立つのだ」

俺たちはマイロと一緒にダールの前に立つ。

ダールは両手を掲げる。

「――征くぞ」

闇が渦巻く。

「縮めよ。理を捻じ曲げよ」

闇が溢れ、空間が軋む。

「ぬぅ……!」

苦悶を滲ませながらも力を解き放つ。

やがて闇が霧散し、俺たちは二十センチほどの大きさになっていた。

ダールは静かに息をつく。

「……頼んだぞ」

その声は、誇り高き者のものだった。

「ああ」

俺は頷くとマイロを先頭に、配管の中に入っていく。

ダールは、榊たちが消えた配管の入口を見つめていた。

(やはり似ておるな。あの時と同じ眼か……)

 

3. 配管の中

 

配管の中は、サビや埃が溜まっていた。

「これを吸うと身体に悪そうだな。布をマスク代わりに巻こう」

エリシア以外は、口元に布を巻いて進むことにした。

配管の中は迷路のように様々な横道もあった。

「道は記録しておきます」.

エリシアが記録してくれてはいるが、俺にはだんだんどこを歩いているか分からなくなる複雑さがあった。

しばらく進むと、

「……!?ウーッ!」

マイロが立ち止まり、警戒した唸り声をあげる。

左右や後ろからガサガサと何か音がする。

「何か来るぞ!」

「ギシャァァァ!!」

俺たちも武器を構えて警戒していると、横道や後ろからネズミが襲いかかってくる。

全身に赤い脈打つ線が入って、目玉は濁っており、口からはヨダレが垂れている。まるでゾンビだ。

「ハアッ!」

剣で切りつけるが、表皮が思ったより硬い。

一撃では倒せず、何度か牙や爪とやり合って倒す。

(くそっ、狭いから剣が振りにくい!)

「風刃!」

ルーシェンも、狭い配管の中なので炎矢ではなく風の刃の魔法を使う。

「エリシアさん!今です!」

「ファルマ様、助かります」

後ろではファルマの鎖蔦狼が拘束したネズミを、エリシアが切り裂いていた。

「このネズミ……普通のネズミや魔物とも違いますね。赤い線から魔力を感じます」

ルーシェンが、倒したネズミを観察しながら言う。

(魔力に当てられて突然変異でも起こしたか?)

そして、あらかた片付けマイロの先導の元進む。

「しかし、ネズミ多いな!」

途中、同じようなネズミの襲撃に遭いながらも撃退しながら進む。

1時間ほどで配管の先に広間のようなものが見える。

「あそこが魔力だまりがあるところか?」

「ワン!」

マイロがそうだと言わんばかりに吠える。

そして、魔力だまりがあると思わしき広間に着く。

「ジャァァァァ!!!」

そこには巨大化した、こちらの大きさの5倍ほどの、赤い線の入ったネズミが何体も待ち構えていた。




配管のネズミ


体中に血管のような赤い紋様を浮かび上がらせ、目が濁ったゾンビのような異様なネズミ。体格は普通だが、魔力に侵されており異常な攻撃性を示す。切り裂いてもなお動き、肉はゆっくりと再生する。

同種以外を敵と認識し、見境なく群がる習性を持つ。牙や爪による傷は腐敗しやすく、治療が遅れれば命に関わる。

下水や配管で繁殖した個体群に遭遇した場合、真に恐ろしいのは一匹ではなく“数”である。


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