白銀界の面倒事
1. 厄介な再会
シルフィと、出会ってしまった。
「すまないが急いでる」
そのまま行こうとする。
「ちょっと待ちなさいよ!」
呼び止められる。
シルフィの顔はニヤニヤとしており、嫌な予感しかしない。
「人の命がかかってる。行かせてくれ」
そのまま行こうとするが……。
「あたしがしてることのひとつを手伝ってくれたらさ」
シルフィが、指を立てる。
「今乗ってるロックちゃんで、じいさんの塔のゲートまで送ってあげる。何なら帰りも送ってあげるわよ~?」
確かに、空を飛べば時間は大幅に短縮できるが……。
「その要件が、時間のかかるものだと困る」
どんな無理難題を言われるか、わかったものじゃない。
「時間はかからないわよ~。でも、とってもめんどくさい事なの」
シルフィが、ニッコリと笑う。
「闇の力持ってるんでしょ? それくらい余裕でしょ〜? まさか無理とか言わないわよね?」
面倒事は避けたいし、一度は断ろうと思った。
だが――
「断るなら、召喚獣でしつこく追い回すわよ?」
半ば脅しのような言葉。
俺は、ため息をつく。
「本当に、時間がかからない用事なんだな?」
念を押す。
「やった〜!めんどくさい事が1個減った~!」
喜ぶ、シルフィ。
(嫌な予感が……)
「さあさあ、ロックちゃんに乗って。ただ振り落とされないでよね」
シルフィが、自分の召喚獣を指す。
ロックちゃんに乗る、俺とエリシア。
「………」
エリシアは、以前のこともあり警戒した顔でシルフィを見ていた。
2. 魔力の洞窟
飛び立つ、巨大鳥ならぬロックちゃん。飛竜に比べ自分で体を上手く固定しないと落ちかねないな。
「要件について、聞かせてくれ」
絶対ろくなものじゃないんだろうな、と思いながら聞く。
「洞窟の奥にある結晶を、取ってきて欲しいの」
シルフィが、説明する。
「洞窟自体はさほど深さがあるわけじゃないから、すぐ結晶のところまで着くわよ」
「それだけか?」
「でもねぇ、洞窟内が、通常の白銀界とは比べ物にならないくらい魔力が濃いのよねぇ」
「……入っても大丈夫なのか?」
いくら魔力を弾けると言っても限度はあるぞ。
「おっさんは闇の力で魔力を弾けるんでしょ? 楽勝でしょ」
軽く言うシルフィ。
そうこうしているうちに洞窟が見え、その前に着地する。
「じゃあ、お願いね~」
袋を投げて渡すシルフィ。
「その中に入れて、持って帰ってくれればいいから」
「私も一緒に」
エリシアが一緒に行こうとする。
「あ、じいさんの人形ちゃんはやめたほうがいいわよ~」
「過剰に魔力を浴びたら、制御が飛ぶわよ。……最悪、壊れるわね」
シルフィが冷たく言う。
「榊様……」
エリシアが、不安そうに俺を見る。
「大丈夫だ」
俺は笑顔で、エリシアの肩を叩いて言う。
エリシアは、引き下がるしかなかった。
さっさと終わらせようと、闇の力を普段より多めに纏って洞窟に入る。
だが、洞窟内の魔力濃度は、想像以上に濃かった。
(くっ……!)
闇の力を全開にして、ようやくギリギリ耐えられるレベル。
目眩や頭痛を感じながら、何とか奥に入っていく。
(これは……きつい……)
フラフラしながらも、ついた奥地でサッカーボールほどの大きさの、白銀に輝く結晶が浮いていた。
近づくごとに襲ってくる吐き気や、激しい動悸。
苦しみながらも、何とか袋を被せて手に入れることに成功する。
袋に入れると、多少魔力の放出は収まる。
だが、それでも、洞窟の魔力に苦しみながら、何とか洞窟の外に出てくる。
「はぁ……はぁ……!」
息が、荒い。
「榊様、大丈夫ですか!?」
エリシアが駆け寄って来る。
「大丈夫だ……」
俺は何とか、笑顔を返すことができた。
3. 残り3箇所
「お疲れ~」
シルフィに渡そうとすると、ペリカンのような召喚獣を召喚する。
「それ運んどいて」
ペリカンみたいな召喚獣は、袋を咥えてアウレリアの方向に飛び去っていった。
「じゃあ、次に行きましょ」
シルフィが、明るく言う。
「……1箇所じゃなかったのか?」
俺が、聞く。
「1箇所なんて言ってないわよ~」
涼しい顔で答える、シルフィ。
「あと3箇所ね〜。ほらほら、早く行こ? 立ってるだけで回復するわけじゃないでしょ?」
機嫌よく言う。
(くそっ……!)
仕方なく、ロックちゃんに乗って次の場所に向かう。
2箇所目では強い吐き気と震えが襲ってくる。
3箇所目では視界が歪み、足の感覚が喪失した。
洞窟に入るたびに体調が悪くなる。
エリシアが、寄り添ってくれる。
だが、何もできないことに、歯噛みするしかない。
「榊様……!」
声が、震えている。
そして、最後の結晶を取り終えた時には、俺も息絶え絶えになっていた。
「ご苦労さ~ん」
おざなりに労う、シルフィ。
俺は返事をする元気もない。
「じゃあね~」
シルフィが、そのままどこかに行こうとする。
だが、エリシアが、シルフィの喉元に刃を突きつける。
「約束は?」
無表情に絶対零度の声で迫る、エリシア。
さすがに冷や汗をかく、シルフィ。
「じょ、冗談よ〜!? ちょっと本気にしすぎじゃない!?」
顔が引きつっている。
4. アルセインの塔へ
アルセインの塔のゲートに向かう、ロックちゃん。
「たまには、じいさんに顔見せよっかな~」
シルフィが、着いてくる。
飛んでいる間に、少し回復した俺。
(やっぱり、面倒事だった……)
そう思う。
塔に着き、アルセインの部屋に行く。
アルセインは、相変わらず部屋の椅子に座っており、煙管をふかしていた。
「疲れている榊様の代わりに、カリオフィレンの花を摘んできます」
エリシアが、出ていく。
「タバコの煙、やめてよね~」
シルフィが、文句を言っている。
「嫌なら出ていけ」
しかし、アルセインに上手くあしらわれていた。
それを見ながら、
(次からそうしよう……)
俺は、そう思った。だが何だかんだ言って、できないような気もする。
その視線に気づいた、シルフィ。
「何よ~!おっさんの癖に生意気〜!」
文句を言われるが、そのまま流す。
エリシアが、花を摘んで戻ってくる。
「じゃあ、帰りもよろしく」
「ちょっと、背中押さなくても行くから!」
俺が、シルフィの背中を押して白銀界のゲートに向かう。
その時――
「榊」
アルセインが、1本の短い杖を渡す。
「これは?」
「最近完成した、空気を常に地上と同じ状態に保つ結界を貼る魔道具だ」
アルセインが、説明する。
「これからの旅に必要になるだろう」
(天落山で、高山病にならないためには……確かに必要だ)
「ありがたい」
「もう、自分で行くから!」
俺に押されながら、文句を言うシルフィ。
アルセインに見送られ、また白銀界に戻る。
そして、白銀界でブツブツ言いながらも、ロックちゃんで砂漠側のゲートまで送ってくれるシルフィ。
5分ほどで、ゲートに着く。
「おっさん、もう気軽に白銀界に来るんじゃないわよ~」
そう言いながら飛び去っていく。
(当初の予定の3時間が2時間ほどに短縮できた。よしとしよう)
そう思いながらゲートを、くぐるのだった
瑠岩鳥
シルフィが普段の移動に使っている、大型の鷲のような召喚獣。シルフィは親しみを込めて「ロックちゃん」と呼んでいる。
全長は十五メートルを超え、飛竜にも匹敵する巨体を持つ。飛竜よりも飛行能力に優れ、時速百キロメートルを超える速度で飛行することが可能だが、飛竜のような鞍状の突起はなく、その背に乗るには固定や風よけなどの対策が必須となる。
シルフィが召喚する個体以外は、白銀界のはるか上空で生息している姿が稀に目撃されるのみで、卵も確認されていない。そのため、瑠岩鳥を召喚できる召喚士は、現在のところシルフィ以外に存在が確認されていない。




