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天落山へ

1. イスムル族への帰還


イスムル族のゲートに帰還した、俺とエリシア。

「榊さん!」

喜ぶ、ファルマ。

だが、疲れきった俺の顔を見て、顔が曇る。

「大丈夫ですか……?」

「……ああ」

「はい……」

エリシアも、静かに頷いた。

俺は、カリオフィレンの花をファルマに渡す。

「あとは、頼む」

エリシアに付き添われて、宛てがわれた部屋に向かう。

残された面々はそれを見ながら、

「白銀界、大変だったんですね」

ルーシェンが、ボソッと呟く。

気を取り直し、ファルマはハリムに向き直る。

「調剤に使えそうな部屋はありますか?」

「ああ、こっちに俺たちの薬師が使う調剤室がある」

疲れ果てるまで花を取ってきてくれた榊に感謝しながら、

ハリムは部族が調剤に使っている部屋へ案内した。

そしてファルマは、調剤を始めた。

それが、今自分にできる役割だと言い聞かせて。


2. 朝の食堂


俺は気がつくと、部屋で寝ていた。

ルーシェンとエリシアが起きており、ファルマはまだ寝ていた。

「もうすぐ朝です。アーシャさんには、既に薬を飲ませてあります」

ルーシェンが、説明する。

「ファルマさんは調剤疲れで寝ていますが、もう起きるでしょう」

そうこうしているうちに、

「……あ、おはよう……ございます……」

ファルマも起き、イスムル族の食堂に朝ごはんを食べに行く。

朝ごはんを食べていると、ハリムもやってきた。

俺の顔を見ると、大袈裟なくらい礼を言ってくる。

「ありがとう……! 本当にありがとう……!」

両手で、俺の手を握る。

「アーシャは元気になったか?」

苦笑いしながら、アーシャの様子を聞く。

それに対して、ハリムでなくファルマが口をはさむ。

「病気は治りましたけど…… これまでに失った体力は、すぐには戻りません」

まあ、それはそうだな。

「病気で傷ついた身体に対して……薬での治療もしますが、時間がかかります」

「そうだな……薬を飲んで即回復というわけにはいかないよな」

ゲームのように飲んで即回復して元気、にはならないか。

「おやじ……族長のアサムが、話があると言ってる」

ハリムが、真剣な声で言ってきた。


3. アサムの贈り物


朝食が終わった後、ハリムと一緒に族長の部屋に行く。

部屋に入ると、顔に青あざを作ったアサムが待っていた。

「久々に、親子喧嘩をしたな」

笑う、アサム。

「アーシャを、娘を救ってくれたこと……礼を言う」

アサムが、頭を下げる。

「1泊させてもらった礼ですよ」

俺も笑いながら返す。

「さすがに……それだけでは礼にならない」

アサムが、ひとつの腕輪を差し出す。

「この腕輪は、代命の腕輪と言う」

複雑な文様が刻まれた細い腕輪だ。

「一度だけ、致死の一撃を肩代わりするものだ」

「イスムル族の秘宝だが……これから最果ての塔に行くなら、役に立つ時が来るかもしれない」

「さすがに……そんな貴重なものは……」

そうそう手に入るものではないはずだ。

「娘の命を救って貰った礼だ」

しかし、引き下がらないアサム。

俺は受け取り、ファルマに渡す。

「……え?」

キョトンとする、ファルマ。

「アーシャの薬を作ったのは、ファルマだ。ファルマが一番に受け取るべきだ」

「でも……」

躊躇うファルマ。

「後で見せてくださいね」

言いながら興味津々に見る、ルーシェン。

ファルマは苦笑いし、

「大切にさせていただきます」

右腕につけた。


4. 別れ


出発の時になる。

出る前に、アーシャの顔も見た。

顔色は悪いものの、だいぶ元気になっている様子だった。

オアシスの外に出て、飛行機を組み立てるルーシェン。

見送りには、ハリムと何人かのイスムル族の男たちも来ていた。

「また、来てくれ」

ハリムの顔は晴れやかだった。

「白銀界のゲートがあるから……また使わせてもらうかもしれない」

道中に戻れる場所があるのは助かるからな。

「いつでも、来い」

笑う、ハリム。

別れを告げ飛び立つ飛行機。

ハリムたちは、最後まで手を振っていた。


5. 天落山の森


滑空を再開する。

だいぶ近くに見えるようになった、天落山。

「あと1日野営すれば……明日には麓まで着くはずです」

ルーシェンが、言う。

そして、最初の着地地点で、赤砂歩きがこちらに向かってくる。

「砂漠だから、あいつら多いな」

身構える。

だが――

「ここは、私が」

前に出る、ルーシェン。

影を伸ばしてくる赤砂歩きに対して杖を振る。

すると、ルーシェンに伸びていた影が止まり、震え出したと思ったら急激に影が赤砂歩きの元に戻る。

影が戻った瞬間、内部から破裂するように爆散した。

「どうしたんだ!?」

突然爆発するから驚いた。

「赤砂歩きは、影を通した魔力を使って相手の水分を奪います」

ルーシェンが、説明する。

「その魔力の流れを大きく乱せば……制御を失って、あのように爆散するんです」

「理論上は、魔法使いなら可能ですよ」

いや、無理だろう。

「私には……無理です」

少し魔法が使えるファルマが首を大きく横に振ってる。

「そんな事ができるのは、お父様かルーシェン様だけです」

エリシアが、突っ込む。

それ以外では特にトラブルもなく、順調に天落山に近づく。

近づいていくと、天落山周囲は砂漠から突然、森になっていることに気づく。

「これは……」

森はかなり広く、直前で飛び上がって何とか1回で越えられるかどうかの広さだった。

(まるで、富士の樹海だな……)

天落山自体が富士山みたいだし、既視感を覚える。

野営を終え、森の手前まで滑空し、最後の魔力回復インターバルで休憩する。

地面を見ると、砂漠から突然、線を書いたように森になっている不自然さがあった。

「魔力の流れが不自然になっていて、こんな現象を起こしていますね。仮説は立てられますが……」

ルーシェンが顎に手を当てる。

「また色々調べたいですね」

苦笑いするしかなかった。


6. 飛行機の緊急事態


最後の上昇を始め、森の上を滑空する飛行機。

森からは小鳥たちが飛んでいる姿も見られ、それなりに生態系もあることが感じられる。

だが、半ばまで滑空していた時、飛行機が大きく揺れる。

「操縦できません!」

エリシアが、切羽詰まった様子で言う。

「みんな、飛行機に捕まれ!」

飛行機は急角度で滑空――いや、墜落する!

「ルーシェン! 何とか風魔法で落ちる衝撃を減らしてくれ!」

飛行機に捕まりながら叫ぶ。

「はい!」

ルーシェンが風の魔法を上手く飛行機に当てることで、そのまま地面に激突するのは免れ、近くの川の中に着水するのだった。



代命の腕輪だいめいのうでわ


イスムル族の遠い祖先である偉大な魔法使いが作ったとされる、不可思議な文様が刻まれた細い腕輪。代々、族長が暗殺などに備えるために引き継いできた秘宝である。

一度だけ致命傷を「なかったこと」にできるという破格の能力を持つと言われているが、実際にそれを試すことは腕輪の喪失を意味するため、本当にその効果があるかどうかは定かではない。

時代が変わり、イスムル族の立場もかつてとは異なっている中で、アサムは族長としてではなく、一人の父として自分よりも娘の命の恩を優先する選択をした。その結果、この腕輪は榊たちに託されることとなった。


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