猛獣の捕獲
結局ゴリは放課後を共にすることはなかった。
廊下で騒ぎすぎたせいか先生に見つかり、そのまま生活指導室へと連行されていったのだ。
「俺を置いていくなああぁぁ!」
そんな悲痛な断末魔が廊下に響いていたが俺たちは見なかったことにした。
自業自得である。
俺と美咲ちゃんと健太の三人は夏の気配が近づくアスファルトを踏みしめ、駅前のファミレスへと向かった。
カランコロン。
入店を知らせる軽快なチャイムが鳴る。
「涼しいぃ⋯⋯」
冷房の効いた店内はまさに天国だった。
「いらっしゃいませー。三名様ですか?」
店員さんに案内されたのは窓際の四人掛けのボックス席だ。
「俺、こっちな」
健太は宣言と同時に片側のソファー席に滑り込みそのままテーブルに突っ伏した。
「ポテトとドリンクバー頼んどいて……俺のHPはもうゼロだ……」
まるで陸に打ち上げられた魚のようにピクリとも動かなくなる。
必然的に残されたもう片側のソファー席に俺と美咲ちゃんが並んで座ることになった。
「失礼しまーす」
美咲ちゃんが俺の隣にちょこんと座る。
距離が近い。
ファミレスのボックス席は四人掛けとはいえ意外と狭い。
少し動けば制服の袖が触れ合いそうな距離だ。
彼女からふわりと甘いシャンプーの香りが漂ってくる。
俺は急に居心地が悪くなり、メニュー表を盾にするように顔の前に掲げた。
「え、えーっと。何食べる?俺はハンバーグディッシュにするけど」
「私はねー、この季節限定のメロンのパフェにしようかな!」
美咲ちゃんはメニューを覗き込むようにして俺の方へ身を乗り出してきた。
肩と肩が軽く触れ合う。
ビクッと俺の肩が跳ねた。
「……ねえ、湊くん」
美咲ちゃんが上目遣いで俺を見つめてきた。
その声のトーンがワントーン下がり妙な甘さを帯びる。
「さっき教室で言ってくれたこと……本当?」
「え?」
「『美咲ちゃんは俺のだぞ』って」
俺は手からメニュー表を落としそうになった。
完全に忘れたふりをしてやり過ごそうとしていたのに直球で掘り返された。
顔が一気に熱くなる。
「あ、あれは!その、ゴリが変なこと言うから咄嗟に……!」
「咄嗟に出たってことは本心ってことだよね?」
彼女は悪戯っぽく笑い、さらに距離を詰めてくる。
テーブルの下で彼女の膝が俺の膝にコツンと当たった。
「違うの?」
小悪魔だ。
完璧な天使の皮を被った小悪魔がここにいる。
ゴリの脇腹に強烈な肘打ちをかました武闘派の面影はどこにもない。
俺が反論できずに口をパクパクさせていると向かいの席からうめき声が聞こえた。
「……お前ら、イチャつくなら俺の意識が完全に飛んでからにしてくれ……」
健太が恨めしそうな目でこちらを睨んでいた。
「い、イチャついてない!」
俺は慌てて否定しテーブルの端にある呼び出しボタンを力強く連打した。
テスト明けのファミレスはクーラーがガンガンに効いているはずなのに俺の顔は火照ったままだった。




