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押し売り

 「お待たせいたしました」

 店員さんがワゴンを押してやってきた。


 鉄板の上でジュージューと音を立てるデミグラスハンバーグ。

 山盛りのフライドポテト。

 そしてピンク色に輝く季節限定のメロンパフェだ。


「ポテトだ……命の源……」

 匂いにつられた健太がゾンビのように身を起こした。

 無言でポテトを一本つまみ口に放り込む。

 塩分と油分が彼の死にかけた脳細胞に染み渡っていくのが見て取れた。


「美味しそう!」

 美咲ちゃんは目の前に置かれた巨大なパフェを見て目を輝かせている。

 綺麗なメロンの果肉とホイップクリームが芸術的に盛られている。

 

「美咲ちゃん、それだけで足りるのか?」

「うん!甘いものは別腹だし、お昼しっかり食べたから大丈夫だよ」

 彼女はスプーンを手に取り嬉しそうにパフェを崩し始めた。


 しかし今は放課後だ。

 テストで頭をフル回転させた後なのにパフェだけで栄養が足りるわけがない。

 育ち盛りの女子高生がそんな偏食でいいのかと妙に心配になってきた。


 「……やっぱり肉も食っとけ」


 俺はナイフとフォークを手に取った。

 自分のハンバーグの最も分厚くて肉汁が溢れている部分を大きめに切り取る。

 それをフォークに刺して美咲ちゃんの口元へとスッと差し出した。

「えっ?」

 美咲ちゃんがスプーンを持ったまま固まった。


 丸い目をさらに丸くして俺とハンバーグを交互に見つめている。

 俺も自分がとんでもない行動に出ていることに遅れて気がついた。

 周りの客の視線が痛い。


 向かいの席ではポテトをくわえた健太が目を見開いている。

 だが今さらフォークを引っ込めるのも不自然でかっこ悪い。

「ほ、ほら。タンパク質摂らないと夏バテするぞ。一口食えって」

 俺は無理やりそれらしい理由をつけて押し切ることにした。


 美咲ちゃんの顔がみるみるうちに赤く染まっていく。

「あ、ありがとう……じゃあ、一口だけ……」

 彼女は恥ずかしそうに目を伏せた。

 そして小さく口を開けて俺のフォークからハンバーグをパクリと咥え込んだ。


 モグモグと彼女の小さな口が動く。

「……んっ、美味しい!」

 パァッと彼女の顔が明るくなった。

 肉汁の旨味が広がったのか満面の笑みで俺を見つめてくる。


「だろ?やっぱり肉は裏切らないんだよ」

 俺は謎のドヤ顔で頷いた。

 美咲ちゃんは自分のパフェの桃をスプーンですくった。

「湊くんもこれ食べる?」

 今度は彼女が俺の口元に桃を差し出してきた。

 キラキラと光るシロップが垂れそうだ。


「いや俺は甘いのは……」

「美味しいよ?」

 小首を傾げて上目遣いで迫ってくる。

 断れるわけがなかった。

 俺は大人しく口を開けて甘い桃をパクリと食べた。

 口の中に広がる甘酸っぱい味と彼女が使っていたスプーンという事実が俺の脳を激しく揺さぶる。


「……ごちそうさまですよ、」

 向かいの席からボソッと声が聞こえた。

 健太が完全に死んだ魚の目をして俺たちを見ている。


「俺はもう帰っていいか?お前らのせいで胸焼けがしてきた」

「ばっ、お前はポテト食ってろ!」

「むぐ」

 俺は慌てて自分のハンバーグを口に放り込んだ後にポテトを鷲掴み健太の口に放り込む。


 熱いのか恥ずかしいのかもう自分でもよくわからなかった。

 テスト明けのファミレスはクーラーが効いているはずなのに俺たちの席だけが異常な熱気に包まれていた。

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