表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/191

致死量の配合

 健太が深い深いため息をついた。

 そして残っていたポテトを乱暴に口に放り込むと、重い腰を上げる。

「俺、喉渇いた。ドリンクバー行ってくる」

 そう言って席を立った。


 俺と美咲ちゃんが顔を見合わせていると健太は呆れたような顔で俺たちを指差した。

「お前らの分も取ってきてやるから、そこで存分にイチャついてろ!」

「なっ、バカ!違うって!」

 俺の制止も虚しく、健太はヒラヒラと手を振りながらドリンクバーのコーナーへと消えていった。


 残されたのはファミレスのボックス席に取り残された俺と美咲ちゃん。


 絶対わざとだろ。


 親友の謎の気遣いのせいでテーブルには先ほどよりもさらに濃厚な気まずさと甘い空気が漂い始めていた。

 美咲ちゃんはパフェのスプーンを口にくわえたまま上目遣いで俺を見ている。

 頬がほんのりと桜色に染まっているのがファミレスの明るい照明の下だとよくわかった。


 「……健太くん、気を使ってくれちゃったね」

 彼女が小さくクスッと笑う。

 その笑顔の破壊力が今の俺には完全に致死量だった。

「あいつはただ俺たちをからかってるだけだよ」

 俺は視線を逸らし冷めたハンバーグの端をフォークでつついた。


 しかし意識すればするほど隣に座る彼女の存在感が大きくなっていく。

 健太が戻ってくるまでの数分間が永遠のように長く感じられそうだった。

 俺の心臓はさっきの余韻もあって未だに早鐘を打っている。


「ねえ、湊くん」

 美咲ちゃんの肩がふわりと俺の腕に触れた。

「んっ?」

「私、メロンソーダがいいな」

「え?」

「健太くん、私の分も取ってきてくれるって言ってたでしょ?だからメロンソーダがいいなって」

 彼女は悪戯っぽく笑って俺の顔を覗き込んでくる。

「そ、それは健太に言わないと……」

「湊くんがメッセージ送ってあげてよ。私、今スマホ鞄の中だから」


 完全に俺をからかって遊んでいる。

 小悪魔モードの美咲ちゃんは健太がいなくなったことでさらにリミッターが外れたらしい。

 俺は真っ赤になった顔を隠すように慌ててポケットからスマホを取り出した。

 健太が戻ってくるまで俺はこの甘すぎる隣の特等席で耐え切れるのだろうか。


 隣から漂ってくる甘い香りと、心臓に悪い距離感。

 俺は限界を迎え、震える指でスマホの画面をタップした。

 健太のトーク画面を開き、逃げるようにメッセージを打ち込む。

 『美咲ちゃんの分はメロンソーダで頼む』


 送信ボタンをターンッ!と勢いよく押し、ふぅと息を吐き出した。

「健太に送っといたよ。これで大丈夫だろ」

「ありがとう、湊くん」

 美咲ちゃんは嬉しそうに微笑み、ふわりと身を引いた。


 ようやく訪れたパーソナルスペースの回復に、俺は冷めたハンバーグを水で流し込みながら、荒くなった呼吸を整えた。

 それにしても健太のやつ、遅い。


 ドリンクバーなんて注ぐだけですぐ終わるはずなのに、妙に時間がかかっている。

 俺たちに気を遣ってわざと時間を潰しているのか、それとも。


 数分後。

「お待たせしましたー。愛のキューピッドのお戻りだぜ」

 ひどく棒読みな声と共に、健太が両手にグラスを持って戻ってきた。

「おっ、遅かったな。ありがとう」

 俺がホッとして声をかけると、健太は一切笑っていない能面のような、いや、どこ奥底を隠しているような顔でテーブルにグラスを置いた。


 コトッ。

 美咲ちゃんの前に置かれたのは、氷が涼しげにカランと鳴る、鮮やかなエメラルドグリーンのメロンソーダだった。

「わあ、美味しそう!健太くんありがとう!」


 無邪気に喜ぶ美咲ちゃん。

 そこまではよかった。問題は俺の方だ。


 ドンッ。


 俺の目の前に、ひときわ重い音を立てて『それ』は置かれた。

「……おい、健太」

「なんだよ親友」

「この、この世の終わりみたいな色をした液体はなんだ」


 俺は目の前のグラスを指差して声を震わせた。

 グラスの中には、黒と紫と深緑がヘドロのように混ざり合った、およそ食品とは思えない暗黒物質(ダークマター)がなみなみと注がれていた。


 しかも微炭酸なのか、表面で不気味な泡がプツ……プツ……とはじけている。

 底の方には、混ざりきらなかった得体の知れないシロップがどす黒く沈殿していた。

 どう見ても魔女が鍋で煮込んだ毒薬だ。


 「俺特製ブレンド『ファミレスの深淵(デス・オーダー)』だ」

 健太はドヤ顔で言い放った。


「イチャついて俺のHPを削ったお前への、ささやかなお祝いだよ」

「祝う気ゼロだろ!完全に殺しにきてるじゃねーか!」

「安心しろ。コーラとカルピスとオレンジと烏龍茶と野菜ジュースとメロンソーダと……あとなんか色々入ってるから栄養満点だ。一口飲めば、走馬灯のようにお前の短い人生が駆け巡るぞ」

「走馬灯見えてんじゃねえか!毒だよそれ!」


 俺が全力で抗議する横で、美咲ちゃんが不思議そうにその毒薬を覗き込んだ。

「すごい色だね……。でも、いろんな味が楽しめて美味しいかもよ?」

「美咲ちゃん、お願いだからそのピュアな目でこの劇薬を肯定しないでくれ……!」

 健太は自分の席にどっかりと座り直し、腕を組んで俺を見下ろした。

「さあ、飲めよ湊。お前と美咲ちゃんの甘酸っぱい関係にふさわしい、最高のスパイスだぜ?」

 ニヤニヤと意地悪く笑う健太。

 逃げ場はない。

 俺はその不気味な泡を立てる暗黒のグラスを見つめた。

書いて満足したらほぼほぼすぐ投稿するから一話ずつの文字数少ないんですけど、一話当たりの文字数増やしたほうがいいですかね?

よければご意見ください...

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ