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猛獣の乱入

 「どこ行くか決まったかー!?」


 テスト終了の余韻に浸る平和な教室に突如として野太い声が響き渡った。


 声の主はクラスのムードメーカーであり体格が完全に霊長類最強の男。ゴリだ。

 彼は俺たちの机の横にドスドスと足音を鳴らしながら歩み寄ってきた。

 暑苦しいオーラが物理的な熱を持って迫ってくる。


 「俺を忘れるなんて、悲しいぜ!お前ら!な、美咲さん!」

 ゴリが白い歯を見せながら美咲ちゃんに顔を向ける。

 距離が近い。そして圧が凄まじい。


 美咲ちゃんは少しだけ身を仰け反らせて引きつった愛想笑いを浮かべた。

 「う、うん」

 声が震えている。

 机に突っ伏したまま魂が抜けかけている健太が気だるげに口を開いた。

 「美咲ちゃん嫌がってんぞー」


 半分死んでいるような声だがツッコミは的確だった。

 しかしゴリは全くダメージを受けた様子もなく、自慢の胸板を張って豪快に笑う。

 「それは無いな。何せ、小学校が一緒だったからな!」

 「……は?」


 俺は思わず声を漏らした。

 小学校が一緒。

 つまり幼馴染枠ということか。

 なんだその設定は。

 ゴリの分際で美咲ちゃんとそんな長い付き合いがあったなんて今まで一度も聞いていない。


 美咲ちゃんの過去を俺の知らない男が知っているという事実。

 妙な胸のざわつきと正体不明の嫌な予感が俺の背中を駆け抜けた。


 「美咲ちゃんは俺のだ。ゴリ、お前のじゃない。」

 静寂。

 教室の空気が一瞬だけピタリと止まった。

 言ってから自分の言葉の破壊力に気づいた。

 俺は今とんでもなく恥ずかしい独占欲をクラスメイトの目の前で丸出しにしてしまったのではないか。


 恐る恐る隣を見る。

 美咲ちゃんの顔がみるみるうちに茹でダコのように真っ赤に染まっていくのがわかった。


 「えっ……あ、あの、湊くん……っ」

 彼女は両手で顔を覆い恥ずかしそうにもじもじと身悶えしている。

 指の隙間から見える肌も耳の先まで真っ赤だ。


 俺も顔から火が出そうになり何か誤魔化す言葉を探そうと口をパクパクさせた。

 しかし目の前の霊長類はそんな甘酸っぱい空気など意に介していなかった。


 「心外だな、湊。俺は美咲さんよりもお前の方が好みだぜ?」

 キラリ。

 ゴリの白い歯が窓からの光を反射して怪しく光った。

 その顔には本気とも冗談ともつかない男らしい熱い視線が宿っている。


「……うわ」

「……きっつ」

 俺と健太の声が見事にハモった。

 完全に引いていた。

 背筋にゾクゾクと悪寒が走る。


 筋肉ダルマからの突然の熱烈なラブコールは青春ラブコメの対極にある純粋なホラーだ。

 俺がドン引きして椅子ごと後ずさりしたその瞬間だった。

 ドスッ!!

 「ぐはっ!?」

 鈍い打撃音が教室に響いた。


 美咲ちゃんがゴリの脇腹の死角に向かって容赦のない見事な肘打ちを叩き込んだのだ。

 体重移動と腰の回転を伴った完璧な一撃。

 華奢な体からは想像もつかない鋭い物理攻撃だった。

 急所を正確に突かれたゴリはカエルが潰れたような悲鳴を上げてその場にドサリと崩れ落ちた。


 「……」

 床でうずくまり、ピクピクと痙攣するゴリ。

 美咲ちゃんはそれを一瞥すらせずパッといつもの天使の笑顔に戻って俺たちを振り返った。


「行こっか!」

「お、おう……」

「美咲ちゃん、お前絶対怒らせちゃダメなタイプだな……」

 俺と健太は床で悶絶する巨大な障害物を跨ぎそそくさと鞄を手にした。


 ゴリの犠牲の上に成り立った平穏。

 俺が美咲ちゃんに放った恥ずかしいセリフの余韻も完全に吹っ飛んでしまった。


 テスト明けの解放感に包まれた放課後。

 俺たちの夏休み直前の打ち上げは少しだけカオスで暴力的な形で幕を開ける。

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