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高低差

 自販機の前まで来ると彼女は光るパネルの前に立って少し考え込んだ。


 俺も少し離れた位置からその横顔を眺める。

 雪乃宮さんといえば常に冷静沈着だ。


 飲み物もきっとブラックコーヒーかカフェオレあたりの落ち着いたものを選ぶのだろう。


 そう思っていた。

 しかし彼女の視線は一番上の段にある炭酸飲料の列をさまよっていた。


 コーラかサイダーか。

 意外だ。あんなスカッとするジャンクな飲み物を飲むのか。


 彼女は小さく背伸びをして一番上のボタンに指を伸ばそうとした。

 だが少し届きにくいのか制服の袖が突っ張って時間がかかっている。


 俺は無言で彼女の背後からスッと手を伸ばした。

 ぽち。

 彼女が狙っていたであろうコーラのボタンを素早く押してやる。


 ガコンと音を立てて冷たい缶が取り出し口に転がり落ちた。


「……ちょっと」

 雪乃宮さんが振り返りジト目で俺を睨む。


「バカにしてるの?」

「別に。届きにくそうだったから手伝っただけだよ」


 俺は彼女の抗議を綺麗にスルーして自分の小銭を投入した。

 俺が選んだのは雪乃宮さんが飲むと思っていた甘いカフェオレだ。


 ピッ。ガコン。

 二本目の缶が落ちる音が響く。

 俺は自分の飲み物を取ろうと身をかがめた。


 その瞬間だった。

 俺の腕の下をくぐるようにして雪乃宮さんの身体がスッと割り込んできた。


「おっと」

 彼女はしゃがみ込み取り出し口からコーラとカフェオレの二本を器用に取り出した。

 そしてカフェオレの缶を俺の目の前に突きつける。


 「高い所があなたの役目なら、私は低いところを頑張るまでよ」


 自販機の青白い光に照らされた彼女の顔はひどく整っていた。

 勝ち誇ったようなでもどこか悪戯っぽいその表情。


 普段の冷たい『氷の女王』の仮面が外れた素のかっこよさに俺は思わず息を呑んだ。


 ドクンと心臓が跳ねる。

 思わず見惚れてしまった。


 ただ缶を取ってくれただけなのにその流れるような動作とセリフが映画のワンシーンのように決まっていたのだ。


 俺がカフェオレを受け取るのを忘れて固まっていると彼女は面白そうに目を細めた。

 「……惚れたの?」

 からかうような甘い声が薄暗い廊下に響く。

 俺はハッとして顔に熱が集まるのを感じた。


 灰の時と同じだ。

 俺は最強の防衛呪文を唱えるべく口を大きく開いた。

 「お、俺は彼女持ちだ!」

 誰もいない夜の学校に俺の情けない声が響き渡る。


 それを聞いた雪乃宮さんは目を丸くして数秒間瞬きをした。

 そして。

 「……ふふ」

 彼女は口元を隠すようにして小さく上品に笑った。


 それは呆れと少しの可笑しさが混じったような今までに見たことのない柔らかい笑顔だった。

 俺は真っ赤になった顔を隠すようにカフェオレを受け取り冷たい缶を頬に押し当てた。

 テスト勉強の休憩時間は予想外の刺激に満ちていた。

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