反撃開始
「……掃除しろ」
リーダー格の男が汚いものを見る目で顎をしゃくった。
その合図で左右の取り巻き二人が同時に襲いかかってきた。
「……ッ!」
健太は低い唸り声を上げ、獣のように飛びかかった。
綺麗な空手の型でも、ボクシングのステップでもない。
ただの喧嘩殺法だ。
「オラァッ!」
彼は右の男の腹に、無防備な前蹴りを突き刺した。
「ぐぇっ!?」
男がくの字に折れ曲がる。
その隙に健太は体を回転させ、左の男の顔面に裏拳気味に拳を叩き込んだ。
ゴッ。
鈍い音が響き、男がよろめく。
「ハァ、ハァ……!」
健太が荒い呼吸を整えようとした、その一瞬の隙だった。
ドガッ!!
「……がっ!?」
背後から強烈な衝撃が走る。
最初に蹴り飛ばしたはずの男が、いつの間にか背後に回り込んでいたのだ。
死角からの蹴り。
健太の体は枯れ木のように宙を舞い、地面を転がった。
その行き着いた先は――リーダー格の男の足元だった。
「……チッ。手こずらせやがって」
リーダー格の男が、足元に転がってきた健太を見下ろした。
健太は苦悶の表情で起き上がろうとするが、ダメージが深く体が動かない。
「ゴミはゴミ箱へ、だ」
男が右足を高く上げた。
狙いは健太の頭部。
あの革靴で踏み抜かれたら、ただでは済まない。
(……やめろ!)
俺の視界がスローモーションになった。
健太が殺される。
俺を庇ってくれたあいつが。
『湊は足が遅いからなぁ』
いつか体育の時間に笑い合った言葉が、脳裏をよぎった。
遅い? 俺が?
ふざけるな。
俺の足は、逃げるためについてるんじゃない。
助けるためにあるんだ。
「――させるか!!」
俺は地面を蹴った。
全身の痛みが悲鳴を上げているが、そんなものは無視した。
火事場の馬鹿力なんて生易しいものじゃない。
俺は弾丸のように、リーダー格の男の懐へと突っ込んだ。
「……あ?」
男が踏み下ろそうとした足が止まる。
俺は低い姿勢から、男の腰にタックルを見舞った。
ドスンッ!
「なっ、この野郎……!」
男はよろめいたが倒れない。体格差がありすぎる。
俺は必死に男の腰に抱きつき、足を地面に食い込ませて押し込んだ。
まるで土俵際の相撲取りのように。
「離せ! 離せよ!!」
ボカッ! ゴスッ!
男の拳が、俺の頭上から雨あられと降り注ぐ。
痛い。
頭が割れそうだ。
意識が飛びそうだ。
でも、俺は腕の力を緩めなかった。
(絶対に離さない……!)
ここで離したら、健太が踏まれる。
俺がサンドバッグになれば、健太への攻撃は止む。
「うおおおお!!」
俺は叫びながら、さらに足を押し込んだ。
「……湊ッ!!」
その声が聞こえた時、俺の視界の端で影が動いた。
健太だ。
俺がリーダーの動きを封じている間に、彼は立ち上がっていた。
「テメェ……よくも!!」
健太の目は血走っていた。
彼は俺の背後で隙を伺っていたもう一人の取り巻きに向かって、迷いなく突進した。
「死ねやぁ!!」
ドゴォッ!!
渾身の頭突き。
一切の躊躇がない、捨て身の一撃が取り巻きの鼻柱を粉砕した。
「あがっ!?」
取り巻きが白目を剥いて崩れ落ちる。
これで残るはリーダー一人。
俺が下半身を封じ、健太がフリーになった。
「……へへっ、形勢逆転だな」
俺は殴られ続けて腫れ上がった顔で、リーダーの腹に密着したままニヤリと笑った。
「さあ、どうする? 大将」




