笑顔の最終通告
「へぇ、ウィンドウショッピングかぁ。……なぁ美咲ちゃん」
ベンチでジュースを飲みながら、俺はふと魔が差したように口を開いた。
会話を繋ぐための、本当に何気ない、深い意味なんてない仮定の話だった。
「もしさ、俺が他の子とこうやってウィンドウショッピングしてたら……どうする?」
その瞬間。
モールの空調が一気に下がったような気がした。
美咲ちゃんが、ストローを口から離し、ゆっくりと俺の方を向いた。
その顔は、いつもの天使のような微笑みではない。
口角は上がっているが、目は全く笑っていない。
いわゆる「ゲスい顔」というやつだった。
「その時はね〜……」
彼女は歌うような口調で言った。
「その泥棒猫の髪を×××して、爪を一枚ずつ×××してから、社会的に×××して、最後に湊くんと一緒に×××の刑にするかなぁ♡」
「……!?」
俺は持っていたペットボトルを落としそうになった。
今、確実にテレビでは流せない単語が聞こえた。
「ピー」という自主規制音が脳内で鳴り響くレベルの、具体的かつ猟奇的な制裁方法の数々。
ミンチとか、コンクリとか、東京湾とか、そんな物騒な単語が、この可愛らしい唇からマシンガンのように発射されたのだ。
「あ、あとね!その子の家のポストに×××を詰め込んで、学校の机には×××を撒き散らして……」
「ちょ、ちょっと待った! ストップ! 美咲ちゃん!?」
俺は慌てて彼女の口元を手で制した。
「お、俺が悪かった! 変なこと聞いてごめん!」
美咲ちゃんはハッとして、自分の口を押さえた。
「あ……」
彼女の顔が、みるみるうちに林檎のように赤く染まっていく。
「わ、私……今、なんてことを……」
彼女は両手で顔を覆い、指の隙間から俺を見た。
「ち、違うの! 今のはその、言葉のアヤというか、比喩表現というか……!」
「い、意外だなぁ」
俺は彼女の反応が可愛くて、ついニヤニヤしてしまった。
「美咲ちゃんって、そういう『過激な言葉』も知ってるんだね。清楚に見えて、中身は意外とハードボイルド?」
「も、もう! 湊くんのバカ! 忘れて!」
「『社会的に×××』って、具体的にどうやるつもりだったの? ねぇねぇ、教えてよ先生」
俺は調子に乗っていた。
彼女が恥ずかしがっているのが新鮮で、つい言葉で攻め立ててしまった。
「やっぱり読書好きだから、ミステリー小説とかで勉強したのかな? それとも実話ナックルズ愛読者?」
「……湊くん?」
不意に、美咲ちゃんの声のトーンが落ちた。
俺が「ん?」と顔を覗き込むと、彼女は顔を覆っていた手を外し、とびきりの笑顔を向けていた。
「そろそろ……怒るよ?」
ニコリ。
背景にゴゴゴゴ……という効果音が見えるような、圧倒的な威圧感。
その瞳は、「これ以上喋ったら、さっきの『刑』を今ここで執行するけど?」と明確に告げていた。
俺の背筋に冷たいものが走る。
生物としての本能が警鐘を鳴らした。
これ以上は、死ぬ。
「……すいませんでした」
俺は即座に直立不動の姿勢で頭を下げた。
「よろしい」
美咲ちゃんはふわりと笑い、飲みかけのジュースを手に取った。
「さ、行こっか。そろそろ帰らなきゃ」
「は、はい! お供します!」
俺は小さくなりながら、彼女の後ろをついて歩いた。
女の嫉妬は怖い。
そして、清楚な彼女ほど怒らせるとヤバい。
俺はその教訓を胸に刻みながら、二度と軽率な「もしも話」はしないと心に誓った。




