表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/192

ショーウィンドウに伴う甘い連行

「はい、こっち!」

「お、おい美咲ちゃん。早いって」

 放課後の大型ショッピングセンター。

 俺は制服の袖をグイグイと引っ張られながら、広大なモールの中を連れ回されていた。

 嫉妬騒動の「埋め合わせ」デートだ。

 美咲ちゃんは完全に主導権を握り、俺は大人しく彼女に従うだけの荷物持ち兼美咲ちゃんファッション審査員係だった。

「見て見て湊くん! この服可愛くない?」

「お、おう。似合うと思うぞ」

「じゃあこっちの雑貨は? あ、このアロマキャンドルいい匂い!」

「……うん。いい匂いだ」

 彼女は次々と店に入っては、商品を手に取り、鏡の前で合わせ、そして棚に戻す。

 それを延々と繰り返していた。

 俺は男兄弟もいないし、結愛とも買い物なんて(パシリ以外で)行ったことがない。

 だから、この「買わずに見て回るだけ」という行為が新鮮であり、同時に不思議でもあった。


 「……なぁ美咲ちゃん」

 3軒目の服屋を出たところで、俺は素朴な疑問を口にした。

「買わないのか?」

 これだけ見て回って、まだレシートの一枚も増えていない。

 すると彼女はキョトンとして、すぐにクスクスと笑った。

「もう、湊くんったら。これは『ウィンドウショッピング』だよ?」

「ウィンドウ……ショッピング?」

 初めて聞く単語だ。

「そう。ショーウィンドウを眺めるみたいに、見て楽しむの。何を買おうか想像したり、流行りをチェックしたり。……お買い物って、買う瞬間よりも選んでる時間が一番楽しいんだよ?」

「へぇ……なるほど」

 俺は感心した。

 男の買い物といえば「目的の物を最短ルートで確保し撤収」が基本だ。

 買うかどうかも分からない時間を楽しむ。

 それはなんとも贅沢で、そして女の子らしい時間の使い方に思えた。


 吹き抜けの広場にあるベンチで、俺たちは少し休憩することにした。

「ウィンドウショッピングか。……知らなかったな」

 俺がペットボトルのジュースを飲みながら呟くと、隣の美咲ちゃんが探るような視線を向けてきた。

「ねえ湊くん。普段はしないの?」

「え?」

「こういうの。……他の女の子とかと」

 彼女の声が少し小さくなる。

 まだ先ほどの嫉妬の余韻が残っているのか、彼女は上目遣いで俺の反応を待っていた。

 俺は即答した。

「しないよ。というか、今日が初めてだ」

「……本当に?」

「ああ。俺、用事がないと店に入らないタイプだし。こういう楽しみ方があるなんて、美咲ちゃんに教えてもらうまで知らなかった」

 俺が正直に答えると、美咲ちゃんの表情がパァッと輝いた。

「……そっか」

 彼女は嬉しそうに呟き、口元を綻ばせた。

「よかった。……私が初めてで」

「えっ」

 彼女は俺の方を向き、今日一番の、とびきりの笑顔を見せた。

「ウィンドウショッピングも、こういうデートも。湊くんの『初めて』を私が貰えたんだもん。……嬉しいな」

 その笑顔は、モールの煌びやかな照明よりも遥かに眩しかった。

 嫉妬や不安なんて吹き飛ばすような、純粋な独占欲と愛情。

「……っ」

 俺は急に顔が熱くなるのを感じた。

 何を言えばいいのかわからず、俺は照れ隠しにジュースをあおった。

 炭酸の泡が喉で弾ける。

 甘い。

 今日のデートは、最初から最後まで、彼女の手のひらの上で転がされている気がする。

 でも、それも悪くない。

 俺は赤くなった頬を彼女に見られないようにしながら、騒がしいモールの喧騒の中で、確かな幸せを噛み締めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ