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およそ120デシベルの馬鹿騒ぎ

「湊ォ! 走れ! 限定20個だぞ!」

「わかってるよ! 押すなって!」

 キーンコーンカーンコーン。

 4限終わりのチャイムは、俺たちにとっては開戦の合図だ。

 俺と健太は、まるで飢えた野獣のように教室を飛び出した。

 廊下には、同じ目的を持つ男子生徒たちの群れ。

 目指すは購買部。ターゲットは「至高の焼きそばパン」。

「どけえぇ! 俺の胃袋が焼きそばを呼んでるんだァ!」

「あめえな健太! 今日の俺は風より速いぜ!」

 ゴリがラグビー仕込みのタックルで人波をかき分けていく。

「ちょ、ゴリ! お前それは反則……!」

「戦場にルールはねえ!」

 汗と制汗剤の混じった匂い。

 怒号と笑い声。

 結愛との冷戦も、就職の話も、この瞬間だけは頭から吹き飛ぶ。

 俺は必死に手を伸ばした。

「おばちゃん! 焼きそばパン一つ!」

「はいよ、最後の一つ!」

「っしゃあああ!!」

 俺が勝ち取ったそのパンは、どんな高級フレンチよりも輝いて見えた。


「くそー、負けた……」

「はは、日頃の行いの差だな」

 俺たちは戦利品を抱え、校舎裏の階段に座り込んでいた。

 青すぎる空。雲ひとつない快晴。

 健太は負け惜しみに買ったメロンパンをかじりながら、恨めしそうに俺の焼きそばパンを見ている。

「一口やるよ」

「マジ!? 湊、お前一生ついていくわ!」

「安っすい忠誠心だな」

 俺たちはパックのジュースで乾杯した。

 ぬるくなったコーラの炭酸が、乾いた喉に心地よい刺激を与える。

「にしてもさー、お前マジで勝ち組だよな」

 健太が空を見上げてぼやいた。

「体育祭優勝して、篠原さんともいい感じで、姉ちゃんは美人で」

「……姉貴のことは言うな」

「なんだよ、贅沢な悩みか? 俺なんて昨日の晩飯、親父の釣りたての魚だったぞ。三日連続だぞ?」

「いいじゃん、健康的で」

「肉が食いてぇんだよ肉が! ……あーあ、俺も恋とかしてぇなぁ!」

 健太が大の字になって寝転がる。

「彼女欲しい! 手作り弁当欲しい! 放課後デートしてぇ!!」

「うるせーよ、近所迷惑だろ」

「うるせぇ! これが青春の叫びだ!」

 ついにはゴリも一緒になって叫び出した。

「俺も彼女欲しいィィ!!」

「クリスマスまでに何とかするぞオラァ!!」


 「お前ら、元気すぎだろ……」

 俺は呆れながらも、口元が緩むのを止められなかった。

 家の静寂とは真逆の世界。

 意味のない会話。生産性のない叫び。

 でも、ここには嘘がない。

 腹の探り合いも、冷たい視線もない。

 ただ、バカみたいに純粋な「今」があるだけだ。

 「よし、決めた! 今日の放課後、カラオケ行くぞ!」

 健太が起き上がって宣言した。

「湊、今日は断らせねえぞ! 姉ちゃんがどうとか知らねえ! 付き合え!」

「……おう」

 俺は昨日の結愛の「仕事」の話を思い出した。

 どうせ家に帰っても、彼女は忙しいフリをして俺を無視するだろう。

 それなら、こいつらと喉が枯れるまで歌って、バカ騒ぎしている方がよっぽど精神衛生上いい。

「行くわ。徹底的に歌ってやる」

「その意気だ! 点数負けた奴がジュース奢りな!」

「望むところだ!」

「「うおおおおお!!」」

 俺たちは意味もなくまた叫び、階段を駆け下りた。

 誰かが投げた空き缶が、ゴミ箱の淵に当たってカコンと乾いた音を立てる。

「外したー! ダッセェ!」

「うっせ! 次は入れるし!」

 ゲラゲラと笑い合う声が、青空に吸い込まれていく。

 俺の悩みなんてちっぽけなものに思えるほど、この時間の俺たちは無敵で、そして最高にアホだった。

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