表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

155/198

おはようの食卓

 俺は限界を超えた胃袋と疲労困憊の身体を引きずって自分のベッドに倒れ込んだ。


 美咲ちゃんとの激甘な水族館デートの余韻に浸る余裕など一ミリも残されていなかった。


 気がつけば意識は深く暗い底へと沈んでいき泥のような眠りについていた。


───


「……み、湊。起床の最適時間をすでに十二分経過していま、す……」


 耳元で涼しげで透き通るような声が聞こえた。


「うーん……あと五分……」


 俺は寝ぼけ眼のまま布団を頭から被り直そうとした。

 しかしその抵抗は無情にも冷たい手によって阻止された。


 バサッ。


 心地よい重みだった掛け布団が容赦なく剥ぎ取られる。


「人間のレム睡眠とノンレム睡眠のサイクルから計算してここで二度寝に入るのは一日のパフォーマンスを著しく低下させる非効率な行為よ」


「……んぁ?はい……起きます……」


 俺の脳はまだ半分以上夢の世界にいた。

 俺はフラフラとゾンビのように立ち上がり重い足取りでリビングへと向かった。


 階段を降りてリビングのドアを開ける。

 朝日が差し込むダイニングテーブルにはすでに朝食が並べられていた。


「あ、おはよう湊くん!朝ごはんできてるから一緒に食べようね!」


 キッチンからエプロン姿の結愛が笑顔で顔を出した。


「……おう、おはよう」


 俺は目をこすりながら自分の席に力なく座り込んだ。

 目の前にはこんがりと焼けたトーストと目玉焼きが置かれている。


 昨夜のプロテインのせいか少し胃が重いがとにかく何かを胃袋に入れないと脳が覚醒しない。


 俺は無言のままトーストを手に取りサクリと一口かじった。


 そしてコーヒーの入ったマグカップに手を伸ばしゆっくりと喉に流し込む。


 温かいコーヒーが食道を通って胃に落ちていく感覚。

 視界の端で誰かが優雅にカップの縁に口をつけているのが見えた。


「今日の目玉焼きの焼き加減は非常に論理的ね。タンパク質の熱変性が完璧な状態で維持されているわ」


「えへへ、お母さんに教わりながら私が焼いたんだよ!」


 結愛と謎の人物による和やかな朝の会話。


 ……ん?


 俺の脳がようやく正常に繋がり始めた。


 論理的?タンパク質の熱変性?


 俺はコーヒーを飲み込んだままゆっくりと左隣へ首を向けた。

 そこには制服のブラウスに身を包み足を組んで優雅に紅茶を嗜む雪乃宮さんの姿があった。


 「……ぶっ!!」


 俺は危うく口の中のコーヒーをテーブルにぶち撒けそうになった。

 むせ返りながら激しく咳き込み完全に目が覚めた。


「っ、げほっ!ごほっ!ってかなんで雪乃宮さんがいるんだよ!?」


 俺の悲鳴に近い声が朝のリビングに響き渡った。

 さっき俺を起こしに来たのもこの氷の女王だったのか。


「なぜかって?私は昨夜自分の家に帰宅するとは一言も宣言していないわ」


 雪乃宮さんはカップをソーサーに置き涼しい顔で俺を見つめ返した。


「湊くんの学習進捗の遅れと未知の変数の発生率を計算した結果、私が二十四時間体制でここに滞在して監視を続けるのが最も合理的だと結論づけたのよ」


「滞在って……まさか今日も泊まるつもりか!?」


「ええ。結愛さんの許可も得ているわ。彼女もあなたを筋肉の脅威から守るためには私の論理的サポートが必要だと理解したようね」


「うん!湊くんの筋肉は私が守るからね!」


 結愛がガッツポーズをして謎の同盟関係をアピールしてくる。

 どうやら美咲ちゃんとのデートから始まったカオスな週末はまだ終わるどころか氷の女王の完全居座りという最悪の形で新章へと突入してしまったらしい。


 俺は頭を抱えながら冷めていくトーストを虚ろな目で見つめることしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ