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軟禁映画マラソン

「うそつき」の文字を飲み込んだ後。

 結愛の徹底的な監視モードが発動した。


「湊くん、今日は一日中私と一緒にいてもらうからね」


「……どこかに出かけるのか?」


「ううん。お家で映画鑑賞会だよ」


 結愛はにっこりと笑ってリビングの巨大なテレビモニターの電源を入れた。

 どうやら俺を外に出して他のヒロインと接触させないための軟禁政策らしい。


 逃げ出すわけにもいかず、俺は大人しくソファに座らされた。

 厚手の遮光カーテンが引かれリビングは完全な暗闇に包まれる。

 こうして俺と結愛の終わらない映画マラソンが幕を開けた。


 ───


 結愛が選んだのはどれも九十分程度の短めの映画ばかりだった。

 短いからこそ次から次へとテンポよく消費されていく。


 一本目は王道の恋愛映画だった。

 画面の中で男女が甘い言葉を囁き合っている間も結愛はずっと俺の顔を無言で見つめていた。


「結愛、画面見ないと話わからなくなるぞ」


「湊くんの顔見てる方が面白いもん」


 俺は背筋に冷や汗を流しながら画面に視線を固定し続けた。


 二本目は薄暗い洋館を舞台にしたミステリーサスペンス。


 三本目は怨霊が襲いかかってくる本格的なホラー映画だ。


 ホラー特有の不気味な音が響くたびに結愛は俺の腕にギュッと抱きついてきた。


 俺は映画の恐怖よりも隣から伝わってくる結愛の柔らかい感触と甘い匂いに別の意味で心臓をすり減らしていた。


 そして四本目。


 画面は完全に血みどろのスプラッタ映画へと変貌を遂げていた。

 チェーンソーを持った殺人鬼が理不尽に暴れ回るB級映画だ。


「うわっ……エグいなこれ」


 俺が思わず顔をしかめると、隣に座る結愛は平然とポップコーンを口に運びながらクスリと笑った。


「ふふっ。人間って案外脆いんだね」


「結愛、お前こういうの平気なのか?」


「うん。だって湊くんが他の女の子によそ見した時のシミュレーションになるし」


「冗談でも笑えないからやめてくれ」


 俺の胃は朝食のベーコンエッグと画面に飛び散る大量の偽物の血で完全に限界を迎えていた。

 尋問の代わりに精神的な圧力をかけてきているのは間違いない。


 何本もの映画を立て続けに消費し俺の精神は完全に疲弊しきっていた。

 恋愛で精神を削られホラーで寿命を縮められスプラッタで胃袋を破壊されたのだ。


「……結愛、そろそろ休憩しないか?」


 俺がソファにぐったりと寄りかかって懇願する。


「えー、もう疲れちゃったの?まだリストの半分もいってないのに」


 結愛は名残惜しそうにリモコンを操作している。

 これだけ大量の映画を見たのだ。


 外はもうすっかり夕暮れになっているだろう。

 俺は重い体を起こしてリビングの厚い遮光カーテンを少しだけ開けた。


「……嘘だろ」


 俺の口から絶望のうめき声が漏れた。

 窓の外には真っ赤な夕陽……ではなくギラギラと照りつける真昼の太陽があった。


 雲一つない晴天が俺を見下ろしている。

 短い映画を倍速に近いテンポで連続視聴したせいで体感時間と現実の時間が完全にバグを起こしていたのだ。


 時計の針はまだ午後二時を回ったばかりだった。

 過酷な休日はまだ半分も終わっていなかった。

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