頂上の光
参拝を終えた俺たちはさらに奥へと歩みを進めた。
江の島の頂上付近にあるサムエル・コッキング苑あたりを抜けると暗闇の中にそびえ立つ巨大な塔が姿を現した。
江の島シーキャンドルだ。
「うわぁ……下から見るとすごい迫力だね!」
結愛が首が痛くなるほど上を向いて感嘆の声を漏らす。
すっかり日は落ちて塔自体も美しくライトアップされていた。
俺たちはチケットを買ってエレベーターに乗り込み、一気に展望フロアへと上昇する。
静かなモーター音が止まりゆっくりと扉が開いた。
「すごい……!」
美咲ちゃんが真っ先にガラス張りの窓へと駆け寄った。
海抜百メートルを超える室内展望室からは湘南の海と街の灯りが三百六十度見渡せる。
まるで光の海に浮かんでいるような錯覚に陥るほどの絶景だ。
「綺麗……街の明かりが宝石みたいだね、湊くん」
結愛が俺の隣に並び、窓ガラスに手をついてうっとりと見下ろしている。
「……光害とも言えるけれど、これだけ密集した都市の灯りは確かに視覚的な暴力性があって美しいわね、湊くん」
雪乃宮さんも相変わらずの独特な言い回しだがその瞳はキラキラと夜景を反射していた。
「ふーん。まあまあやるじゃねえか江の島。な、湊」
灰は腕を組みながら素直じゃない態度をとっているが窓に張り付く勢いで外を眺めている。
揃いの水族館Tシャツを着た俺たちはしばらくの間その圧倒的な光の絨毯に言葉を失っていた。
展望室をぐるりと半周したところで窓際に設置された観光用の望遠鏡が目に留まった。
「あ、湊くん見て!望遠鏡があるよ!」
結愛が硬貨を投入して早速レンズを覗き込む。
「どう?何か見えるか?」
「んーとね……あ、海岸沿いを走ってる車のライトが見える!すごくくっきり!」
彼女は子供のようにはしゃぎながらレンズの向きをあちこちに変えている。
「私も見たいかも」
美咲ちゃんも隣の望遠鏡に硬貨を入れ背伸びをしてレンズを覗き込んだ。
「あっ、遠くのビルの上に赤いランプが点滅してるのが見えるよ!」
「どれどれ、あたしにも見せろ」
「んぐっ」
灰が美咲ちゃんの隣から強引に覗き込もうとして軽く小突かれている。
「……あなたたちピントの合わせ方が甘いわ。こうやって焦点距離を調整するのよ」
雪乃宮さんが冷静に自分の前の望遠鏡のダイヤルを回し最も鮮明に見える設定を弾き出している。
俺は望遠鏡に夢中になる四人の姿を後ろから見守っていた。
さっきまでの修羅場が嘘のようにただの仲の良い高校生のグループだ。
俺の胃の痛みもこの美しい夜景と彼女たちの無邪気な笑顔のおかげで少しだけ和らいでいた。
「おや、学生さんたちかい。随分と楽しそうだね」
突然背後から声をかけられ振り返ると立派な一眼レフカメラを首から下げた人の良さそうなおじいさんが微笑んでいた。
「もしよかったらおじさんが写真を撮ってあげようか?」
「えっ、いいんですか?」
俺が驚いて聞き返すと結愛がパッと顔を輝かせた。
「わあ!ありがとうございます!凑くん、スマホ貸して!」
結愛に急かされ俺はポケットから自分のスマートフォンを取り出しカメラアプリを起動しておじいさんに手渡した。
「はい、じゃあみんな窓を背にして集まって」
おじいさんの指示に従い俺たちは夜景の見えるガラスの前に集まった。
「他のお客さんの邪魔にならないように少しこっちに寄ろう」
俺が周囲のカップルや観光客の動線を塞がないよう窓の隅の方へと誘導する。
「湊くん、もっとくっついて!」
結愛が俺の右腕にギュッと抱きついてきた。
「あ、ずるい結愛お姉さん!湊くん、私も!」
美咲ちゃんが負けじと俺の左腕に身を寄せる。
「ちょっと……これじゃ私が画面に入らないじゃないの、湊くん」
雪乃宮さんが呆れながらも結愛の隣にぴったりと並び立つ。
「湊、あたしはどこに立てばいいんだよ!」
灰が少し離れたところで文句を言うので俺は「こっち来いよ」と美咲ちゃんの隣を手で示した。
「じゃあ撮るよー。はい、チーズ」
パシャリ。
スマートフォンのシャッター音が展望室に響いた。
「うん、綺麗に撮れてるよ。仲の良いお友達でいいねぇ」
おじいさんがニコニコしながらスマートフォンを返してくれた。
画面の中には美しい湘南の夜景をバックにお揃いのTシャツを着て笑い合う五人の姿が収まっていた。
全員の鞄やポケットには水族館で買ったお揃いのクラゲのキーホルダーが揺れている。
色々なことがありすぎた長い一日の最後に最高の記念写真が残った。
俺はおじいさんに深くお礼を言い画面の中の楽しそうな自分たちの姿をそっと保存した。




