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変な空気

 俺が自分の上着を差し出すと四人はピタリと動きを止めた。

 彼女たちの視線が俺の顔からゆっくりと下へ移動していく。


「……あれ?」


 なぜか全員の顔がみるみるうちに赤く染まっていく。


「み、湊くん……その」


 じゃんけんを制した結愛が上着を受け取るのも忘れて両手で口元を覆った。


「湊くん、意外と腹筋とか割れてるんだね……」


 美咲ちゃんが指の隙間から俺の腹部をガン見している。


 俺はハッとして自分の体を見下ろした。

 イルカの特大スプラッシュを浴びた俺の白いシャツは完全に肌に張り付いていた。

 海水で透けた生地の向こうに高校生男子のリアルな体つきが容赦なく浮き彫りになっている。


「……適度な運動の成果ね。悪くない造形だわ、湊くん」


 雪乃宮さんが目を逸らすどころか興味深そうに観察してきた。


「湊!お前さっさと隠せよ!もしかして、そういう癖なのか?変態!」


 灰が顔を真っ赤にして袖で自分の目を覆い隠す。

 さっきまでの俺のドギマギはどこへやら。


 四人の女子から一斉に熱のこもった怪しげな視線を浴びせられ、俺はかつてないほどの羞恥心に襲われた。


「お、お前らが見ないようにしろよ!」


 俺は慌てて腕で胸元を隠し足早にその場から逃げ出した。


 濡れたまま電車に乗るわけにもいかず俺たちは水族館の出口付近にある売店へと駆け込んだ。


「とりあえず着替え買おう。風邪引くし」


 俺の提案で全員が水族館オリジナルのプリントTシャツを買うことになった。


 女子たちはトイレで俺は外でささっと着替えを済ませる。

 売店の前に戻るとそれぞれ違う色のイルカやペンギンがプリントされたTシャツ姿の四人が並んでいた。


「湊くん!どうかな?」


 結愛がピンク色のイルカTシャツの裾をつまんでくるりと回ってみせた。


「おお。似合ってるよ」


 普段の大人っぽい私服もいいがこういうお土産Tシャツを着てはしゃぐ姿は年相応で素直に可愛い。


「私も湊くんと同じ色のペンギンにすればよかったかな」


 美咲ちゃんが自分の水色Tシャツと俺の紺色Tシャツを見比べて少し残念そうに笑う。


「……不本意だけれどこの状況では仕方ないわね」


 雪乃宮さんは黒のシャチTシャツを着て少し気恥ずかしそうにしている。


「あたしはこれくらいが動きやすくていい」


 灰はサメのプリントTシャツを着て満足げに腕を回していた。


 「ねえ湊くん!せっかくだからみんなでお揃いのキーホルダー買おうよ!」


 結愛が売店の隅にあるキーホルダーのコーナーを指差した。


「お揃い?五人全員でか?」


「うん!今日の記念にさ」


 結愛の明るい提案に他の三人も反対する気はないようだ。

 俺たちは小さなカゴを手に取り、色違いのクラゲのキーホルダーを五つ選んだ。


 赤、青、黄色、緑、紫。


「はい、湊くんは青ね!」


 結愛が俺の手のひらに青いクラゲを乗せてくれた。


「ありがとう。……鞄につけとくよ」


「うん!私も絶対つける!」


 美咲ちゃんも雪乃宮さんも灰もそれぞれ自分の色のクラゲを見つめて少しだけ嬉しそうに微笑んでいた。


 最後に残ったのはこの小さな五つのキーホルダーと悪くない疲労感だった。

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