最前列
順路の最後にあるのは巨大な屋外ショープールだった。
「湊くん早く早く!」
結愛が俺の手を引いて階段を駆け下りていく。
向かった先はプールに最も近い最前列のベンチ席だ。
「おいおいこんな前で見るのか」
「だってせっかく来たんだから一番近くで見たいじゃん!」
結愛は無邪気に笑って席に座る。
美咲ちゃんも雪乃宮さんも灰もそれに続いて腰を下ろした。
「ここは水しぶきがかかるってアナウンスしてるぞ」
俺が警告すると雪乃宮さんが涼しい顔で答えた。
「計算上はこの位置なら風向きを考慮しても飛沫は届かないはずよ」
「あたしは濡れるの平気だし」
灰も気にせず足を組んでいる。
美咲ちゃんは少し不安そうだが、結愛の隣でニコニコしている。
ショーを告げる軽快な音楽が鳴り響いた。
イルカたちがトレーナーの合図に合わせて次々と大ジャンプを披露する。
そのたびに観客席から大きな歓声が上がった。
「湊くんすごいね!」
結愛が身を乗り出してはしゃいでいる。
ショーも終盤に差し掛かり、一番大きなイルカが助走をつけ始めた。
「さあ最後は特大のジャンプです!」
アナウンスの声と共にイルカが空高く舞い上がる。
その巨体が太陽の光を浴びて頂点に達しそしてプールへと落下した。
ザパーーーンッ!!
「えっ」
雪乃宮さんのいかにも間抜けそうな、小さな声が聞こえた。
彼女の計算とやらをはるかに超える水の壁が俺たちの頭上から容赦なく降り注いできたのだ。
逃げる間もなかった。
バケツをひっくり返したような大量の海水が最前列の俺たちを直撃した。
「きゃああっ!」
「うわっ冷たっ!」
悲鳴と共にショーが終わり、周囲の観客が笑いながらハンカチを取り出している。
俺も顔についた海水を拭いながら隣を見た。
「やられちゃったね湊くん」
結愛が濡れた髪をかき上げながら笑いかけてくる。
しかし俺の視線は彼女の胸元に釘付けになってしまった。
上に着ていた服が完全に濡れて下の水着がくっきりと透けて浮かび上がっていたのだ。
「み、湊くんどこ見てるの」
結愛が急に顔を赤くして両手で胸を隠す。
「ごめんなさい私パーカーが……」
美咲ちゃんも服が肌に張り付き小柄な体つきが強調されてしまっている。
「……イルカの気まぐれな動きによる水量は、単純な流体モデルで扱いきれない代物だったわ」
雪乃宮さんは冷静さを装っているが濡れて透けた肌がやけに艶かしい。
「うわっ最悪!びしょ濡れだ!イルカのやつ、強いんだな……」
灰が服の裾を絞りながら文句を言っているが水着のラインが丸見えだ。
俺は四人から放たれる圧倒的な色気に完全に理性を吹き飛ばされそうになっていた。
「お前らとりあえずこれ羽織れ!」
一着しかないのに、俺は慌てて自分の上着を脱いで四人の前に差し出した。
涼しい水族館で終わるはずが最後の最後で俺の理性は再び限界ギリギリのテストを強いられることになった。




