表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

120/195

究極の選択

 結愛の冷たい指先が俺の首筋をなぞる。

 背後からは三人のヒロインたちの突き刺さるような視線。


 俺の脳細胞はかつてない速度で回転し生存へのルートを模索していた。


 ここで結愛を選べば他の三人のプライドを粉々に打ち砕くことになる。

 かと言って他の誰かを選べばその瞬間に結愛の漆黒のオーラに飲み込まれ俺の命は終わる。


 八方塞がりだ。

 どう答えても地獄しか待っていない。


 極限状態のストレスで俺の視界がぐにゃりと歪み始めた。

 その時だった。

 俺の視界の端で無駄にテカテカと光る巨大な肉の塊が躍動した。


「フンスッ!」


 ゴリだ。

 海パン一丁の霊長類が俺に向かって完璧なサイドチェストを決めている。


 そのはち切れんばかりの大胸筋はもはや芸術品の域に達していた。

 気づいた時には俺の口が理性を置き去りにして勝手に動いた。


 「……ゴ」


「え?」


 結愛が小首を傾げる。

 俺は虚ろな目で宙を見つめながら人生を投げ打った発言を口にした。


「……ゴリの大胸筋が一番スゴイと思う」


 クレープ屋の店内が水を打ったように静まり返った。

 BGMの陽気なハワイアンミュージックだけが虚しく響き渡る。


 結愛の笑顔がピタリと止まり、美咲ちゃんたちの目が見開かれた。

 莉奈に至っては口に咥えていたストローをポトリと落とした。

 その沈黙を破ったのは地鳴りのような歓喜の雄叫びだった。


「うおおおおおおっ!!湊ぉぉぉっ!!」


 ゴリが感涙にむせびながら両手を広げて突進してきた。


「やはりお前なら俺の筋肉の美しさを分かってくれると信じていたぞ!」


「ぐえぇぇっ」


 俺はゴリの丸太のような腕にガッチリとホールドされむさ苦しい大胸筋に顔を埋められた。

 磯の匂いと汗と謎の熱気が俺の嗅覚と体力をゴリゴリと削っていく。


 「……もう勝手にして」


 結愛が心底冷めきった声で言い放ち俺から一歩距離を置いた。


 さっきまでの恐ろしい殺気はどこへやら。

 ただただ汚物を見るような目だ。


「湊くんのバカ……」


 美咲ちゃんも呆れたようにため息をついた。


「人間の脳がここまで退化するなんて私にも予測が不可能なバグだわ」


 雪乃宮さんがこめかみを押さえて頭痛を堪えている。


「え、マジでキモいんだけど……」


 灰がドン引きして数歩後ずさった。


 さらに追い討ちをかけるように莉奈が席を立ち上がり冷ややかに言い放った。


「本当にそっちの趣味だったんですね。最低です。私、帰ります」


「ち、違う!これは命を守るための……ぎゃあぁぁっ骨が折れる!」


 俺の弁明はゴリの熱烈なハグの圧力によって物理的にかき消された。


 四人のヒロインたちに見放されツンデレJCには軽蔑され俺は筋肉ダルマの腕の中で真夏の江ノ島に散ったのだ。


 ひと夏の甘い海イベントはこうして誰の得にもならない最低の形で幕を閉じる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ