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死神の微笑み

 ゴリの巨大な肉の盾が取り払われ、俺は四人の死神の前に完全に無防備な姿を晒すことになった。


 結愛がゆっくりと、一歩前に出る。


 その顔には天使のように愛らしい、だが一切の感情が抜け落ちた絶対零度の笑みが張り付いていた。


「……へえ」


 結愛の視線が、俺と、向かいに座る莉奈を往復する。


「湊くん、海から突然いなくなったと思ったら……こんな可愛い中学生の女の子とクレープ食べてたんだ?」


 莉奈は可愛いという言葉に過剰に反応し、頬を赤らめている。


「ち、違う!これはただの偶然で、あの時道を教えた……」


「しかも」


 俺の必死の弁明を遮り、結愛は莉奈の放った爆弾発言を正確に拾い上げた。


「『ナイスバディが好き』なんだ?」


 ヒュッ、と俺の喉が鳴った。

 クレープ屋の店内の空気が、物理的に凍りついた気がした。


 「ご、誤解だ!それはゴリが勝手に……!」


 俺が海パン一丁の筋肉ダルマを指差すが、結愛の耳には全く届いていない。


 その代わり、後ろに控えていた他の三人の目の色が変わった。


「湊くん……やっぱり、そういう大きな人が好きなの?」


 美咲ちゃんが、パステルカラーのビキニに包まれた結愛のものよりは少し控えめ自分の胸元へ視線を落とし、不満げに唇を尖らせた。


「……ふん。女性の価値を質量や体積といった単純な数値でしか測れないなんて。湊くんの脳は随分と原始的ね」


 雪乃宮さんが腕を組み、俺を批判する割には、スタイリッシュな水着越しに自身の計算し尽くされたプロポーションを無意識に強調する。


「サイテー……!あたしみたいなやつの事はそういう目で見てたってことか!」


 灰は顔を真っ赤にして、ラッシュガードの前を両手でギュッと隠した。


 完全に飛び火している。

 ゴリの戯言と莉奈の冷ややかな告発が化学反応を起こし、乙女たちの謎の対抗心とプライドに火をつけてしまったのだ。


 「ねえ、湊くん」


 結愛が俺の頬を両手で包み込み、逃げ場を完全に塞いだ。

 ふわりと香る潮風と、彼女自身の甘い匂いが鼻腔をくすぐる。


 しかし、その瞳孔は真っ暗に開いていた。


「ナイスバディが好きな湊くんに、とっておきの質問をしてあげる」


 結愛は背後の三人……美咲ちゃん、雪乃宮さん、灰を振り返り、再び俺の目を見つめた。


「この中で、一番『ナイスバディ』なのは誰?」


「……はい?」


「私?美咲ちゃん?雪乃宮さん?それとも灰ちゃん?」


 結愛の指先が、俺の頬から首筋へと滑り降りる。


「誰の身体が一番、湊くんの好みなの?正直に答えていいよ?」


 嘘だ。絶対に正直に答えてはいけないやつだ。


 一文字でも間違えれば、俺の社会的な死、あるいは物理的な死が確定する。

 俺は助けを求めて視線を彷徨わせた。


 ゴリは「俺の胸筋を選べ!」と言わんばかりにサイドチェストのポーズを決めている。


 莉奈は「自業自得ですね」と冷たい目でストロベリークレープを頬張っている。


 誰も助けてくれない。

 真夏の江ノ島、甘い香りの漂うクレープ屋で、俺は人生最大のデスゲームを強要されていた。

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