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終了のお知らせ

 俺は絶望に目を閉じ迫り来る結愛たちの漆黒のオーラを覚悟した。

 しかし店内に流れ込んできたのは冷たい殺気ではなく異常なまでの磯の香りと暑苦しい熱気だった。


「フゥーッ!冷房が効いてて最高だな!」


「……え?」


 俺が恐る恐る目を開けるとそこに立っていたのは修羅場と化した女子たちではなかった。

 頭から海水を滴らせ海パン一丁でテカテカと光る大胸筋を揺らす男。


 さっき四人の女子たちの連携必殺技で江ノ島の海へ深々と沈められたはずのゴリだった。


「な、なんでお前が生きて……じゃなくてここにいるんだよ!」


 俺が叫ぶとゴリはニカッと白い歯を見せて笑った。


「愛の力は海の底よりも深いからな!自力で泳いで戻ってきたぜ!」


 化け物かこいつは。


 ゴリは俺の向かいに座る莉奈の存在に気づくとピタリと動きを止めた。

 そして無駄に洗練されたポージングで上腕二頭筋を見せつけながら口を開く。


「嬢ちゃん。勇気だしてナンパしたその心意気はみとめよう。だがしかし!湊は俺のようなナイスバディがタイプなんだ……!」


 ゴリの大胸筋がピクピクと動く。

 クレープ屋の甘い香りがゴリの放つ磯の匂いと男臭さに完全に掻き消された。


「……うわぁ」

「……キッツ」


 俺と莉奈は完全にドン引きして椅子の背もたれに深く寄りかかった。

 さっきまでツンデレ全開だった中学生の顔に心底嫌そうなシワが寄っている。


 無理もない。

 真夏のクレープ屋に海パン一丁の筋肉ダルマが乱入してきて謎のBL宣言をかましたのだ。

 通報案件一歩手前である。


 莉奈はクレープを持ったままジト目で俺を睨みつけてきた。


「湊先輩……その、本当なんですか?」


 その瞳には先ほどの好意やツンデレなど微塵もなくただの汚物を見るような光が宿っていた。


「なわけないだろう。男と付き合う趣味はないぞ」


 俺は全力で首を横に振りこの筋肉ダルマとの関係を真っ向から否定した。

 すると莉奈はストローをくわえながらさらに目を細めた。


「……へえ。ナイスバディがタイプなのは否定しないんですね」


「あ、」


 俺の口から間抜けな声が漏れた。


「違っ、そういう意味じゃなくてだな!」


「最低です。やっぱり男の人ってみんなそうなんですね!私の胸が平らだからって……!」


「誰もそこまで言ってないだろ!」


 ゴリの無茶苦茶な発言のせいで俺の性癖が思わぬ形で曲解されてしまった。


「ハッハッハ!照れるな湊!俺のこの大胸筋に飛び込んでこい!」


「お前はすっこんでろ!」


 絶体絶命の修羅場は回避したかのように思えたがゴリの乱入によって事態はさらにコメディチックな泥沼へと引きずり込まれている。


 窓の外をふと見た瞬間だった。

 俺の全身の毛穴が恐怖でブワッと開いた。

 江ノ島の強い日差しの中を四人の女子がこちらに向かって一直線に歩いてくる。


 白いフリルの結愛。

 パステルカラーの美咲ちゃん。

 黒い水着にカーディガンを羽織った雪乃宮さん。

 パーカーを羽織っている灰。


 四人とも完全に目が笑っていない。

 先ほどのゴリ討伐戦の時よりも遥かに洗練された純度の高い殺気がガラス越しにビンビンと伝わってくる。


「ヤバいヤバいヤバい!」


 俺はクレープをテーブルに置き椅子から弾かれたように立ち上がった。

 逃げ場はない。

 入り口は一つだし裏口があるかもわからない。

 俺は咄嗟に目の前でポージングを決めていたゴリの背後へと飛び込んだ。


「おっ?なんだ湊。ついに俺の胸に飛び込んでくる気になったか?」


「うるさい!頼むから少しの間だけその無駄にでかい背中で俺を隠してくれ!」


 俺はゴリの広すぎる背中にしがみつき必死に身を縮めた。


 カランコロン。

 ドアベルが鳴りクレープ屋の店内に四人の死神たちが足を踏み入れた。


「……いないわね」


 雪乃宮さんの冷たい声が響く。


「GPSの位置はここを指してるんだけど……」


 美咲ちゃんの声も普段の天使のような響きはなく完全に獲物を探すハンターのそれだ。


「絶対逃がさない。見つけたら骨の髄まで……」


 結愛の呟きが怖すぎて俺はゴリの背中の後ろでガタガタと震え上がった。

 四人の視線が店内をぐるりと見渡す。


 当然だが真夏のクレープ屋に海パン一丁でテカテカと光っているゴリの存在は異常なまでに目立っていた。


「ちょっと……なんであのお猿さんが生きてるの?」


 結愛が信じられないというようにゴリを指差した。


「ゴハッハッハ!俺の愛は海よりも深いからな!」


 頼むから余計なことを言わないでくれ。

 俺はゴリの背中にしがみつきながら息を殺して気配を完全に消すことに全力を注いだ。


 これでやり過ごせる。

 ゴリの圧倒的な存在感から目を背けて四人が店を出てくれれば俺の命は助かる。


 そう確信した次の瞬間だった。


「……あの」


 向かいの席でクレープを食べていた莉奈がスッと手を挙げた。

 嫌な予感が全身を駆け巡る。


「湊先輩ならその暑苦しい筋肉の人の後ろに隠れてますよ」


「あ」


 俺の口から再び間抜けな声が漏れた。

 莉奈は冷ややかな目でゴリの背後から少しだけはみ出している俺の足を指差した。


「ナイスバディな人が好きみたいなのでそっとしておいてあげてください」


 完全なる裏切りだ。

 いや裏切りというよりはナイスバディ発言で完全に愛想を尽かされた結果の無慈悲な告発だった。


 ゴリが「やはりそうだよな、湊!」と振り返り、俺の隠れ蓑が完全に消滅した。


 俺の目の前には結愛たちの見事なまでの般若の顔が四つ並んでいた。

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