湊防衛戦線
「このままじゃ湊くんがお猿さんに連れ去られちゃう」
結愛が漆黒のオーラを立ち昇らせながら砂浜を踏み締めた。
「そんなの絶対に嫌!湊くんは私と一緒に海を楽しむんだから!」
美咲ちゃんも可愛らしいパステルカラーのビキニ姿のまま拳をポキポキと鳴らしてコートに乱入する。
雪乃宮さんが崩れかけていた計算を頭の中で再構築しスッと立ち上がった。
「……不本意だけれどこの規格外の霊長類を排除するためにはきちんと共闘するしかないようね」
「上等だ!あたしの顔に砂かけやがって、ただで済むと思うなよ筋肉ダルマ!」
灰も負けん気を爆発させて身構える。
奇跡の瞬間だった。
俺を巡ってバチバチに火花を散らしていた四人のヒロインたちが『湊をゴリから守る』という一点において完全に結託したのだ。
「ハッハッハ!束になってかかってこい!俺の湊への愛は四人如きに負けはしない!」
ゴリがテカテカに光る大胸筋を叩きながら咆哮する。
その足元では健太が「俺はもうダメだ……パトラッシュ……」とうわ言を呟きながら完全に事切れていた。
「いくぞお前らぁ!」
ゴリが再びボールを空高く放り投げた。
先ほどと同じ砂浜を抉るような必殺のメテオ・スパイクが放たれる。
ドゴォォォォンッ!
「灰さん、右斜め前三十度!私が威力を殺すわ!」
雪乃宮さんが砂を蹴り絶妙な角度で両腕を差し出す。
ゴリの暴力的なスパイクが雪乃宮さんの腕に激突するが彼女は全身のバネと砂の摩擦を計算し尽くしその威力を完璧に吸収した。
「計算通りよ……!上がったわ!」
「しゃあ!ぶち込めぇっ!」
高く上がったボールの下へ灰が素早く滑り込み完璧なトスを上げる。
「いくよお姉さん!」
「ええ、決めるよ美咲ちゃん!」
天使と悪魔が同時に砂浜を蹴り空高く舞い上がった。
真夏の太陽を背にした二人の水着姿が重なる。
美咲ちゃんの華奢な腕に猛獣の力が宿る。
結愛の腕に俺への底知れぬ執念と漆黒のオーラが収束する。
「「湊くんは、渡さないっ!!」」
二人の放った渾身のツイン・スパイクがボールを完全にひしゃげさせゴリの分厚い大胸筋に向かって一直線に突き刺さった。
ドギュゥゥゥゥンッ!!
「ぬおおおおおっ!?」
強靭な肉体を持つゴリの巨体がボールの威力に押されズルズルと砂浜を後退していく。
「馬鹿な……!俺の湊への愛が……!女子たちの嫉妬パワーに押し負けるというのかぁぁぁっ!」
ゴリが悲痛な叫び声を上げる。
しかし四人の乙女たちの思い(物理)を乗せたボールは止まらない。
「ぶへらっ!」
ゴリの足が波打ち際を越えそのままザパーンッという豪快な水柱を上げて江ノ島の海へと消えていった。
「……やったわ」
「あたしたちの勝ちだ!」
ハイタッチを交わす四人の女子たち。
その傍らでは波にさらわれそうになっている死体(健太)がぷかぷかと浮いていた。
俺は圧倒的なレイドボス討伐劇を前にただただ震えることしかできなかった。
この女子たちを敵に回したら間違いなく命はない。
俺の夏休みは文字通り命懸けのサバイバルゲームだ。




