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逆転劇

 美咲ちゃんの人間離れしたスパイクと結愛の執念のレシーブ。

 試合は完全にエンジェル&デビルコンビのペースで進んでいるように見えた。


 しかし相手は学年トップの頭脳を持つ雪乃宮さんだ。

 彼女の目はスコアボードではなく江ノ島の空と波打ち際の砂を冷静に観察していた。


「……風向きが変わったわね」

 雪乃宮さんがぽつりと呟いた。

 強い海風が吹き始めたのだ。

 結愛が放った渾身のサーブを雪乃宮さんがふわりと高くレシーブする。


 強風に流されると見せかけたその軌道は風の抵抗を完全に計算し尽くしたものだった。

「灰さん、そのまま押し込んで!」

「っしゃあ!」

 ネット際で待ち構えていた灰が風に乗って急加速したボールを相手コートの死角へと思い切り叩き落とした。


 美咲ちゃんが飛び込むが足元の砂の抵抗に阻まれわずかに届かない。

 ピーッ!

 健太の吹く笛の音が勝負の決着を告げた。

「……ゲームセット!勝者、雪乃宮、灰チーム!」


 「ふふっ。自然を味方につければ力技など恐るるに足らずよ」

 雪乃宮さんが前髪をかき上げながら涼しい顔で勝利宣言をする。

 結愛は砂浜に膝をつき「湊くんとの時間が……」と暗黒のオーラを放っていた。


 灰は「見たか!」とガッツポーズをしている。

 これで湊争奪戦は雪乃宮さんと灰の勝利で幕を閉じる。

 誰もがそう思った瞬間だった。


 「俺を差し置いて勝利を謳うなど、片腹痛いわ!」

 突然、地鳴りのような野太い声が砂浜に響き渡った。

 俺たちは一斉に声のした方へと振り返る。


 そこには太陽の光を浴びてテカテカと光る異常なまでに発達した大胸筋があった。

 海パン一丁で仁王立ちする霊長類最強の男。

 ゴリだ。


「な、なんでお前がここにいるんだよ!」

 俺が叫ぶとゴリは白い歯をキラリと光らせた。

「湊と健太が海にいると聞いてな!匂いを辿ってやってきたぜ!」

 犬かお前は。

 ていうかまた俺目当てなのか。


 「湊の隣は誰にも渡さん!俺が相手になってやる!」

 ゴリはそう叫ぶと一番近くにいた健太の首根っこをガシッと掴み上げた。

「えっ!?ちょ、ゴリ!俺は審判……ぎゃあぁぁっ!」

 健太がカエルのような悲鳴を上げるがゴリの剛腕からは逃れられない。

 そのまま引きずられるようにしてコートへと連行されてしまった。


「俺たちと勝負しろ!勝った方が湊を独占する!」

 ゴリの無茶苦茶な宣戦布告。

 しかしネットの向こう側に立つ二人の女子は全く動じていなかった。


「……ただの筋肉ダルマね。脳みそまで筋肉でできているのかしら」

 雪乃宮さんが蔑むような冷たい視線をゴリに向ける。

「上等だ!その無駄な筋肉、あたしが砂に沈めてやるよ!」

 灰も完全にスイッチが入り、好戦的な笑みを浮かべていた。


 美咲ちゃんと結愛がコートの外へと弾き出され、まさかの第二回戦が強制的にスタートしようとしている。

 俺は健太の安否を祈りながらこの果てしなくカオスな江ノ島の海をただ見つめることしかできなかった。

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