余計な提案
ギラギラと太陽が照りつける砂浜で、健太がどこからともなくビーチバレー用のボールを取り出した。
「よしお前ら!せっかく海に来たんだからビーチバレーしようぜ!」
親友の無邪気な提案に女子たちの視線が一斉に集まる。
「ただやるだけじゃ面白くない。優勝チームには……残りの時間、湊と二人きりで海を満喫できる権利を与えよう!」
「なっ……健太お前!」
俺が抗議するより早く女子たちの目の色が変わった。
結愛の瞳に再びあの漆黒の炎が灯る。
「湊くんと……ずっと一緒」
「私、絶対に負けないから!」
美咲ちゃんも両手で拳を握りしめ気合をみなぎらせていた。
「……くだらないわね」
そう言いながらも雪乃宮さんは準備運動を始めアキレス腱をしっかりと伸ばしている。
灰は「あたしは泳がねぇだけで陸上なら負けない!」とボールを指差して好戦的な笑みを浮かべた。
俺の意志とは無関係に、俺争奪戦という名の血で血を洗うデスマッチの火蓋が切って落とされた。
チーム分けは美咲ちゃんと結愛の『エンジェル&デビルコンビ』対、雪乃宮さんと灰の『クール&ヤンキーコンビ』となった。
俺と健太は審判兼ボール拾いだ。
ピーッという健太の笛と共に試合が始まる。
最初に魅せたのは雪乃宮さんだった。
「灰さん、右よ」
結愛の放った鋭いサーブを雪乃宮さんが滑らかな動きでレシーブする。
そのあげられたボールの軌道をなぞるように灰は動く。
無駄な動きが一切ない。
砂浜という足場の悪い環境を完全に計算し尽くしたかのような合理的なステップだ。
「雪乃宮さんってあんなに運動神経良かったのか……」
俺が感嘆の声を漏らすと健太も呆然と頷いた。
「あのアイスビューティー、頭脳だけじゃなくて物理エンジンも最新式か」
雪乃宮さんの正確なトスに合わせて灰がジャンプし、相手コートにボールを叩き込む。
見事な連携だった。
しかし結愛と美咲ちゃんチームも黙ってはいない。
「美咲ちゃんお願い!」
結愛が灰の鋭いスパイクをいなし、ふわりと高くボールを打ち上げた。
その瞬間だった。
「いっくよーっ!!」
美咲ちゃんが砂浜を強く蹴り上げ、空高く舞い上がったのだ。
華奢な体からは想像もつかないほどの圧倒的な跳躍力。
太陽を背にして滞空するその姿はまるで天使のようだった。
だが彼女の右腕に込められた力は完全に猛獣のそれだ。
ドゴォォォォンッ!!
「ひぃっ!?」
健太が悲鳴を上げた。
美咲ちゃんの右腕から放たれたボールは隕石のような速度で相手コートの砂浜に突き刺さった。
クレーターができるんじゃないかと思うほどの威力だ。
「……嘘だろ」
ゴリの脇腹に強烈な肘打ちをかました彼女の武闘派な一面を俺は完全に忘れていた。
「よーし!一本!」
美咲ちゃんは着地すると、満面の笑みで結愛とハイタッチを交わした。
砂浜を舞う砂煙の向こうで雪乃宮さんと灰が戦慄の表情を浮かべている。
もはやこれはビーチバレーの名前を借りた異種格闘技戦だ。
俺は勝負の行方を見守りながら、優勝した女子と過ごすことになる残りの時間が恐怖で満たされるのをただ待つことしか出来なかった。




