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天使たちの反撃

 結愛の強烈なマウント宣言が砂浜に響き渡った後。

 沈黙を破ったのは美咲ちゃんだった。

「……私も」

 彼女はぽつりと呟くと着ていた淡い色の、パーカーのジッパーを勢いよく下ろした。

 バサッとパーカーが砂浜に落ちる。


 そこにあらわになったのはフリルがたっぷりとあしらわれたパステルカラーの水着だった。

 普段の制服姿からは想像もつかないほど大胆なデザインだ。


 小柄で華奢な印象が強かった彼女だが、その水着姿は健康的な女の子の魅力を存分に放っていた。

「み、美咲ちゃん……」

「私だって湊くんに見てほしくて一生懸命選んだんだからね」

 彼女は少し頬を膨らませて上目遣いで俺を見つめてくる。

 その天使のような笑顔と水着のギャップに俺は完全にどぎまぎしてしまった。

 目のやり場に困り視線を彷徨わせるが、どこを見ても刺激が強すぎる。

 結愛の腕のホールドがさらにギリッと強くなった気がした。


 俺が完全にパニックに陥っていると今度は静かなため息が聞こえた。

「……本当にあなた達はやかましいわね」

 日傘をさしていた雪乃宮さんがパラソルを閉じ肩にかけていた薄手のカーディガンをすっと脱ぎ捨てた。


 彼女が現れた瞬間、周囲の空気が少しだけ凛と冷えたような錯覚に陥る。

 黒を基調としたシックで大人っぽいタイプの水着。

 無駄のない洗練されたデザインが彼女の白い肌と抜群のプロポーションを際立たせている。


 いつも学校で見せる隙のない制服姿とは違う美しさに俺は思わず見惚れてしまった。

「……てっきり学校指定の競泳水着でも着てくるのかと思った」

 俺が素直すぎる感想をポロリとこぼすと、雪乃宮さんの動きがピタリと止まった。


 彼女の涼やかな瞳がスッと細められる。

「湊くん。あなたは海というTPOにおいて私がそんな非合理的な選択をすると思っていたの?」

「いや、その……いつも真面目だからさ」

「……まだ勉強が足りないのかしら?夏休み中もみっちり補習をしてあげてもいいのよ」

 彼女は冷たく言い放ち、フイッとそっぽを向いてしまった。


 機嫌を損ねてしまったかと焦った俺は慌てて言葉を紡ぐ。

「ご、ごめん!でもその……すごく似合ってるよ。綺麗だ」

 俺の言葉に雪乃宮さんの肩がビクッと跳ねた。

 彼女は何も言わずさらに顔の向きを俺から逸らしてしまった。


 美咲ちゃんと雪乃宮さんの水着姿に完全に圧倒され、俺のキャパシティはすでに限界を突破していた。

 ふと横を見ると灰だけがまだ黒いパーカーを着込んだまま、波打ち際から少し離れた場所に立っていた。

 下は水に濡れても大丈夫そうなショートパンツを履いている。

 だが一向に上のパーカーを脱ごうとする気配がない。

「おい灰。お前は着替えないのか?せっかく海に来たのに」

 俺が声をかけると灰はビクッと肩を揺らしバツが悪そうに視線を逸らした。


「……あたしはこれでいいんだよ」

「どうしたんだ?暑くないのか?」

 俺がさらに尋ねると灰はパーカーの裾をギュッと握りしめ、顔を真っ赤にして口ごもった。

「……実は、泳げないんだ」

「は?」

「だーかーら!泳げないの!水に浸かるくらいならこのまま日光浴したほうがマシ!」

 彼女は半ばヤケクソ気味に叫んだ。

 いつもは喧嘩っ早くて強気な灰が海を前にして完全に弱り切っている。


 そのギャップが妙におかしくて俺は思わず吹き出してしまった。

「なんだよそれ。じゃあ浮き輪でも貸してやろうか?」

「うっさい!バカにすんな!」

 灰は顔を真っ赤にして俺のすねを軽く蹴り飛ばしてきた。

「湊、お前マジで今日死ぬかもしれないな……」

 少し離れた場所から健太が浮き輪を抱えたままドン引きした声で呟いた。

 いつものメンバーがそれぞれの水着姿を披露し、真夏の江ノ島のビーチはかつてないほどのカオスな熱気に包まれていた。

 俺は結愛の無言の圧力に耐えながらこの先の長すぎる一日をどう生き延びるか必死に計算し始めていた。

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