アリス君とエトちゃんのデビュー
ハク視点
次の日、アリス君の身体能力テストがナイル・カル・ドール、アラン・クロウ・アリスの立ち合いの中で行われた。
結果は文句なし、戻って来たナイルは感涙していてアリス君に捧げるロールキャベツを作り始めようとしたから叩いて止めた。
今までかなりの修練を積んできたんだろう、そう口にするアランは辛そうで、私にもその複雑な心中は理解出来た。
そして、アリス君は二か月遅れで新人龍使徒に合流する事が決定した。
とは言ってもこれからナイル・カル・ドールが書類を王都の本部に提出して承認されて、アリス君専用の剣が作られて届くのを待たなくてはいけないから、早くても一ヶ月くらいは先かな。
ちなみに龍使徒の剣も神子の杖も地龍キュケートス・コルブルグが一本ずつ作ってくれるという特注品だ。
そのアリス君とエトちゃんの杖が届いたのは3日後の事だった。
「まーまーまー、これは・・・背後にいるのは一体誰なのでしょうね。」
白銀の剣と杖を前にさすがのナイルも困り顔だ。
恐らくナイルの送った書類はようやく王都に着くかという頃だろう、つまり本部を通さずに地龍に働きかけた何者かがいるのだ。
十中八九、この前のアサヒという少女達が裏にいるんだろうけど、そんなにもアリス君を龍使徒にしたいのか?
それになんの意味があるというの?
・・・これは龍達の意思なの?
「どうするの? ナイル・カル・ドール。」
「そうですね。それでも剣も杖も間違いなく本物、二人の制服も出来てる事ですし、お披露目と行きましょうか。」
「分かりました。そのように。」
本当なら急ぐ必要はないのかも知れないけど、目立ちすぎるアリス君は今隠れる様に生活してるから早く何とかしてあげたいのだ。
その日は昼から所属する全ての神子と龍使徒が外の訓練場に集められた、龍使徒が学生を含めて78人、神子は95人、綺麗に整列してる。
建物の中から様子を窺うアリス君は怯えて震えてる。
白に青で飾った龍使徒の騎士服、腰に差した白銀の剣、キラキラ輝くさらさらの金の髪に空色の瞳で飾る整った顔、そこにいるのは私たちが思い描いていた英雄の姿そのもので。
アリス君を見た瞬間にまたナイル・カル・ドールは号泣した。
先にナイルが醜態を晒していなければ私もこうなっていたかもしれない、それだけアリス君は私たちの憧れを刺激するのだ。
いや、だが実際私にとっての脅威は前ではなく後ろにいる。
エト・クラナ・ドール。
龍使徒に並んでよく映える白に緑を飾った神子の聖衣、両手で白銀の杖を携えた絶世の美少女は落ち着かないアリス君とは対照的に動じる事は一切なく凛として。
まるで私には女神に見える。
あわわわわ、いえ、私の女神はエルクドールで、でもでも、ちらちら見るのを止められない!
「その、ハク・トキ・ドール? 何かおかしいですか? 自分では変な所はないと思うんですが。」
首を傾げながら髪の毛をいじるエトちゃんが愛らしすぎて私は小刻みに首を振る。
「何をしているのですか? ハク・トキ・ドール。」
目が真っ赤なあなたには言われたくないのですが、ナイル・カル・ドール。
「では、私が先に行きますから二人共呼んだら来てください。」
出ていったナイルが木で出来たステージを上がっていく。
誰も声を上げずとも空気がざわめく、みんな気付いているのだ、これから姿を見せるのは誰なのかを。
「今日は時間を取らせてすいません。もうご存知の方も多いかもしれませんがお知らせがあります。本来この時期にはありえない事ですが特例として新しい仲間となる龍使徒と神子がいますので紹介します。アリス・ハイズ・アリス、エト・クラナ・ドール、こちらへ。」
呼ばれてアリス君は一生懸命胸を張って、エトちゃんの方は自然体で歩いて行く。
二人がステージを上がった事で悲鳴にも似た歓声が上がる。
・・・三人倒れた、五人、六人。
あわわわ、まーそうなるよね。
当のアリス君は表情を引きつらせてるけど。
パンパン。
「皆さん、静かになさい。」
手を叩いて声を上げるナイル、いつもなら一瞬で音が引くのにさすがに今日は数十秒を有した。
それでも凄いけどさ、人望厚いんだよね。
「アリス・ハイズ・アリスは本来なら龍使徒になれる程の龍脈を持っていません、ですが炎龍イシュタリフ・クロウカルは彼にその名を預けました。彼が龍使徒になる事を龍は認めたのです、私達がそれに異を唱える事はあってはなりません。私達は共に戦う仲間なのです。・・・分かりましたね。」
アリス君に才能が無い事を全員の前で正直に話す、これは話し合って決めた事だ。
変に隠して憶測を呼ぶよりもその方がアリス君にはいい筈だと、その結果がどうなるのかは分からないけど、信じるしかない。
「さあ、アリス・ハイズ・アリス。みんなの前で挨拶を。」
ナイルに促されて前に出るアリス君は震えていた。
「アリス・・・アリス・ハイズ・アリスです。僕は本当は龍使徒になれなかった人間です! それでも、それでも精いっぱい頑張ります! よろしくお願いします!」
不安でいっぱいいっぱいなんだろう、それでも必死に口を大きく開くアリス君は等身大の男の子で、不思議と私の胸を打つ。
きっと届いたのだろう、拍手が響く。
「アリス君、皆にあなたが炎龍からもらった力を見せて。」
優しくアリス君の背中に手を置くナイル、平静を装ってるけど右目から涙が垂れ流されてるぞ。
「はい。」
頷くアリス君は剣を抜いて両手で構えるとしっかりと前を向く。
「我が剣に力を! イシュタリフ・クロウカル!!」
白銀の剣の中心を走るのは本当にか弱い赤い光。
ここにいる者ならそれがどれだけ弱く儚い光なのか誰もが理解できただろう。
バカにする声が上がる事も想定していた。
だが、そんな声は一つも出なかった。
私の頬を涙が伝う。
ただ姿が似ているだけの筈なのに、そうだと分かっているのに、英雄に瓜二つの彼に龍の力が宿る、それはとても強く心を揺さぶった。
それは私だけじゃないようで誰もが彼の姿に魅入られ、すすり泣く音も耳に入って来る。
「・・・次は私の番ですね。」
落ち着いた声が空気を破る。
前に出たエト・クラナ・ドールは慣れた手つきで杖を回す。
どうして彼女はこの空気の中で平然としていられるの? 私だってきっと無理だよ、だって今誰もがアリス君の姿に心奪われているのに。
「世界に光を、光は奇跡を、奇跡よここに。エルクドール。」
透き通る声で言葉が紡がれ、杖がステージを叩く。
光が満ちた。
私達を包むように光の結界が天へと走り、下の方から結界が崩れ光の欠片が舞い上がっていく。
なに、これ?
こんなに強いエルクドールの光を私は見た事がない。
一瞬前までアリス君しか目に入らなかった誰もが彼女にくぎ付けになる、どれだけの視線に晒されようとも変わらずに彼女は美しく、全てを魅了する笑顔を見せる。
「エト・クラナ・ドールです。・・・私は神子の頂点に登ります。よろしくお願いします。」
絶対に今まで誰も口にした事のない大きな言葉を発し、頭を下げる彼女はやはり美しい。
姿勢を戻した彼女は一人、やるべき事は終わったと踵を返すとステージを降り始める。
誰もが呼吸も忘れてその後ろ姿を見続ける、ただ一人、アリス君だけは手を伸ばしかけて止まると唇を噛んで俯いた。
強くその拳が握られる。
こうして彼と彼女の新しい生活は始まった。




