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エトちゃんを少し知る。



 ハク視点


「そうですか。アリス君が龍使徒に・・・まあまあまあ。」


「一応言っておくけど、アリス君は寮に入れますからね。」


 頰に手を添え表情を緩くするナイルに釘を刺しておく。


「分かっていますよ。既に部屋は用意してあります、もちろんエト・クラナ・ドールの分もです。・・・厄介な事になりましたね。」


「そうだね。今は救護室で休ませてる。今日担当の神子がとろけてたよ。」


「まーまー、そうなるでしょうね。とりあえずの問題は龍使徒にする時期をどうするか、ですね。」


 龍使徒候補が力を借りる為に龍に面会出来るのは一年に一度、春だけで、それはもう二か月前に終わってる。

 つまりアリス君は二か月遅れで今年の新人たちに合流するか、今は体作りだけをして来年の新人たちに合わせて龍使徒になるか。

 なんだけど。


「とりあえず、身体能力のテストをしてみましょうか。」


 ナイルの言葉に私も首肯する、今考えた所で彼の身体能力が基準に満たなければ先に延ばすしかないんだから。


「では、そういう事で。アラン・クロウ・アリスには後で話をしておきます、先にアリス君の様子を見に行きましょうか。」


 立ち上がるナイルに私も続く、アラン・クロウ・アリスはここの龍使徒の責任者でナイルは神子の責任者だが、実際のトップはナイルでアランは逆らえないからな。


「ハク・トキ・ドール、別にあなたはついて来なくていいのですよ。」


「いえ、行きます。今日のナイル・カル・ドールは信用できませんので。」


 今もこの人凄いそわそわと浮足だっているからね、目を離したらどうなるのか分かったもんじゃない。


「まーまーまー、困ったわね。」


 その困り顔からもウキウキが溢れているんですよ。




 私達が龍使徒棟の救護室に着いた時、そこは人でごった返していた。


「こほん、まーまー、あなた達何をしているのですか?」


 集まって救護室を覗いていた神子と龍使徒達はナイルの有無を言わさぬ笑顔に動きを止める。


「さあ、それぞれの持ち場に戻りなさい。説明は後日しますので。」


 パンとナイルが手を叩くと蜘蛛の子を散らすように去っていく。


「ああ、あなたは残ってくださっていいんですよ。アラン・クロウ・アリス。」


 名前を呼ばれた彼はその鍛え上げられた身体で首を掴まれた猫みたいなポーズで止まる、今年45だったか、白髪が増えた茶髪の歴戦の龍使徒がそんな愛嬌のある表情をしないでほしい。

 仮にもあなたはここの責任者なんですよ。


 今救護室にいるのはベッドの上のアリス君、その横に座るエトちゃん、窓際に腕を組んで立っているロイに私、ナイル、アラン。

 救護室担当の神子はナイルが外に出した。


「ロイ・フレイ・アリス、あなたがいてこの騒ぎですか?」


「気持ちは分かるからな。それに隠すつもりはないんだろ? だったら早い方がいいかと思ってな。」


 ナイルが圧力をかけてもロイは悪びれもせずに言う、まー確かに間違ってはいないし。


「さて、アリス君、エトさん、一日振りですね。」


 近付くナイルにエトちゃんは会釈をすると、椅子を空けてベッドの向こう側に回る。


「アラン・クロウ・アリス、話は聞いていますか?」


「ああ、一応ロイから報告は受けた。」


 報告を受けた結果が野次馬に混じっていたのか、このオヤジは。


「あの、僕・・・。」


 椅子に座るナイルを恐る恐るとアリス君は様子を伺う。


「アリス君、君は本来許されない事をしました。」


 言葉と裏腹にナイルは穏やかな笑顔だ、そこで止めてよね、それ以上とろけた表情をしないでよね。


「ですが、炎龍イシュタリフ・クロウカルがそれを認めた以上、私達から何かを言うことは出来ません。」


「はい・・・すいませんでした。」


 深々と頭を下げるアリス君だけど、ここにいる私たちは誰もきっと彼を責める事は出来ない。

 私達は夢を叶える為の才能があったけど、才能がなかった時に夢を諦められない事は罪ではないんだから、ただ彼には与えられる筈の無い歪んだ手が差し伸べられてしまっただけ。


 それを示すように項垂れる彼の頭をナイルの手が優しく包む。


「いいのですよ。アリス君。誰にもあなたを傷付けさせたりはしませんから。」


 ナイル! 顔! 顔がとろけてきてるから!

 こら、ロイは口笛を吹かない!


「・・・。」


 ふとエトちゃんを見て私は息を飲んだ。

 アリス君を見るその表情は何?

 まるで女神像の様に慈愛に満ちた目、幼馴染と言ったって仮に恋心を抱いていたとしてもそれだけでそんな顔は出来ないでしょう?


「アリス君、君には君が何を望もうと龍使徒になってもらいます。少なくとも君が自分を守れる様に成長する、その時までは。」


 ナイルの言葉にアリス君は必死に首を振る。


「僕は龍使徒になります! 自分の意思でなりますから! 僕を龍使徒にしてください!」


 それは少年らしい一生懸命な願いで、私もきゅんとしてしまう。

 近い場所でそれを直接向けられたナイルにはもっと効いただろう、ほらアリス君の手を両手で握っているよ。


「まーまーまー、私と一緒に龍使徒になりましょうね。」


 あなたはなれないからね。

 ナイルからも目は離せないが私はどうしてもエト・クラナ、彼女が気にかかってしょうがなかった。


「アリス君はまずは運動能力のテストをしましょう。そうね、早い方がいいし明日かしら。アラン・クロウ・アリス、予定は開けておいてくださいね。」


「あ、ああ、分かった。」


「それじゃあ、あなたが使うお部屋に案内しますね。ハク・トキ・ドール、あなたはエト・クラナ・ドールをお願いね。」


 私はキラキラと嬉しそうに立ち上がるナイルの襟を掴んだ。


「まーまーまー、何をするの?」


「あなたは自分の仕事をしなさい。アラン・クロウ・アリス、アリス君はあなたにお願いします。エトちゃんは私と一緒に行きますよ。」





「アリス君、それじゃあまた明日ね。」


 手を振るナイルさんと別れて僕はアランさんに着いて行く。

 ハクさんが教えてくれたけどアランさんは龍使徒の偉い人らしい。


「あの、すいませんでした。僕、自分勝手な事をしてしまいまして。」


 後ろから謝る僕にアランさんは足を止めて困った様に頭をかく。

 僕は昨日は自分の事しか考えてなかったけど、才能がない僕が龍使徒になるという事は色んな人に迷惑をかける事なんだと今更思い至った。

 そして、そうだとしても僕は諦められない事も。


「あー、なんだ。・・・ナイルがおかしくなっていたけどこれは俺も笑えないな。」


「?」


 アランさんの手が僕の頭に触れる、ごつごつの大きな手、細身だった父さんの手とは全然違う、これが戦う人の手なんだ。


「お前が悪くないとは言わない。だけど、気にしなくていい。その代わり、この先どれだけ辛い事があっても諦めるな、それがお前の責任だろ。」


「はい!・・・ありがとうございます。」


 その後はアランさんが寮の中を案内してくれた、食堂にトイレに大浴場、図書室に訓練室、僕たちの街では考えられない大きくて綺麗な建物だった。

 僕の部屋は一人部屋でベッドに棚、机があっても充分な広さがある、これだと床で腕立て伏せとかも出来そうだ。


「じゃあ、ゆっくり休めよ。明日は昼前には迎えに来るから、出来るだけ部屋にいろよ。」


「はい。よろしくお願いします。」


 明日はテスト、絶対に失敗できない。


「少し筋トレしよう。」




 ハク視点


「エトちゃんはアリス君に龍使徒になって欲しくなかったの?」


 神子の居住区は教会の中にある、私はエトちゃんを案内してる途中で振り返る。

 感情を見せないエトちゃんが私を見る。


「そんな事はないですよ。」


「でも喜んではいないよね?」


「そうですね。喜ぶ事なんて出来ないですよ。」


 そうか、この子は賢いんだ。

 才能がないアリス君が龍使徒になる事がどういう事かを分かってる。

 それでも止めなかった、この子が止めていたならアリス君は諦めていたんじゃないのかな?


「エトちゃんはどうして神子になる事にしたの? 神子に憧れてる様には見えないけど。」


 自傷するように彼女は小さく笑う。


「私だって純粋に神子に憧れた時もありましたよ。」


 それは、今は違うって事じゃない。

 あなたは神子にならない、アリス君も龍使徒にならない、そんな選択肢も選べたんじゃないの?

 それがあなた達二人が辛い思いをせずに済む道だと分かっていたんじゃないの?


 何かを飲み込むように一度目を閉じて、彼女は私を越えたもっと先を瞳に映す。


「ただ守りたいものを全て、守れる力が欲しい。・・・それだけですよ。」


 彼女が浮かべる想いの強さに、宿す覚悟に、私の全てが押されて総毛立つ。

 彼女が最後に見せる笑顔は決して明るいものじゃなかったのに、世界の光、かつての英雄に与えられた名が頭によぎる。


 あわわわ!! なに、その顔!!

 まだ幼く可愛いらしさあふれる筈の彼女の顔は私が今までの人生で見てきたどんな顔よりも凛々しくて、脳が痺れた。


「・・・? ハク・トキ・ドール? どうしました?」


 はわわわわw!

 今はその顔で話しかけないでくださいー!

 なにかおしっこが漏れちゃいそうです、これはお漏らしするしかないですよ!?


「・・・??? ハク・トキ・ドール?」


 やめて、名前を呼ばないで。

 女神エルクドール!! どうか奇跡をここに!!

 私はこんな所でお漏らししたくないですよ!?



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