ン日後に滅びるとわかっている世界で働き続ける理由はあるか?
中継が終わった画面をそのままにもしておけず、スタジオの背後に置かれたスクリーンには、いままでの映像がはや回しで再生されていた。
「・・・」からの~ざわ・・・ざわ・・・。
視聴率の為ではなく、純粋にその瞬間を祝おうとした試みは、完全に裏目に出た。
担当ディレクターが真っ青な顔をしてるが、自業自得である。数値を導きだした数学者も、観測結果を伝える仕事を請け負った天文台職員も何度も言っていた。
「止めたほうがいいですよ」と。
結局、逐次追っていた軌道変更数値は、目標に届くことはなく。
結果として、同じような考えを放送していた、してしまっていた世界中のいくつかの局と同じように、伝えてしまっていた。
世界最速で世の中の終わり、を。
○≡
妻が産気付いたとの一報で病院に向かったときよりかは遥かに安全運転で、新しく父になった男は、役所の前に車を止めた。
本来はよろしくないのだろうが、ガソリン不足で交通量も減りに減った今ならそう迷惑でもないだろう。
ハザードをつけたままの愛車を残し、時間外窓口へ。
「男でも女でも名前は・・・」(繰り返し)
夫婦で決めた名前で出生届を間違えず出すために。
○≡
「フォックス?! どうしたんだ? その顔は!」
「・・・もらい泣きだよ、キミからの」
きっちり三分後入室してきた主席補佐官の腫れ上がった目元に驚きつつも、大統領は職務を忘れない。
「こちらの目元はどうだ?」
「涙でにじんで見えない」
「・・・」
やれやれと呆れたタイガーがドアへとむかう。ここはプロのメイクの・・・
「ウソだ、冗談だ! 見えてる! ちょっと腫れてるが、演説の内容が内容だ! そのぐらいでいいんじゃないか?」
「・・・そうだな」
嫌じゃなければ仕事じゃない! とは、一時期日本の女芸人が、自分を奮い起たせるため使っていた言葉だが、いまの大統領ほど、その心持ちが必要な男もいないだろう。
何しろ彼は。これから。
世界が助かると嘘をついたことを謝り。
(いや、彼は地球がと言っており、正確にはウソとも言いきれないのだが)
改めて、世界の、人類史の終わりを宣言するという大仕事を片付けなければならないのだから。
○≡
ようやく書き上げた出生届は自分で言うのもなんだが、ひどい、ひっどい出来だった。
涙、本来なら数日後も続くはずだった生活を思うと、次から次に湧いて出てくる滴で視界はにじみ、歪んだ文字が実際に、にじみ、はしなかったが(油性ペンなので)、紙はべこべこだった。
「・・・書き直されたほうがよろしいかもしれません」
「ですよね・・・。読めりゃ良いってもんでも」
「いえ、私がこう言う事を申し上げるのもなんですが。一人言として、ゴニョゴニョ」
「ああ、なるほど」
夜間受付に置かれたテレビのノイズが収まり、演説が、会見が始まる。
○≡
「突然ですが、私は、私達は仕事をやめます」
いきなりそう言われた視聴者の感想は、「いきなりそう宣言されても」の前に「誰?!」、だった。
あれ~? アメリカ大統領の会見だったよな? とチャネルを変えても、滑らかに会場入りし、演説台に起ったのはみしらぬ男、ではなく。
ぼんやりと輪郭が。
細かい部分がボケ始め。
いつ変わったかもわかりづらく徐々にじょじょに。
演説台、背景その他もろもろが変わってやっと。
テレビの前の人々や、スタンバってた大統領や、同時通訳者、その他働いていた人々は電波ジャックされたのに気がついた。
それも。恐ろしく高度な技術で、だ。
「ワレワレ ハ ウチュウジン デス。・・・聞き取りづらいでしょうからやめますね」
誰もが、もしくは弓状列島のある年齢以上の住人が想像する、喉を細かく叩くか、扇風機前で発声したかの響きが収まり、中性的な高さで落ち着く。その姿と言えば、ぼんやりとした影が重なって立体になったような黒い固まりだ。
「私達は」「よく言えば」「この星を見守る」「悪く言えば」「観察する」「仕事をしています」
輪郭が定まらず、複数人が交互に話している風しゃべり方もすぐに落ち着いた。理由も同じだろう。
「あ、違います。高度な文明が未熟な人類をー、とかじゃなくって。単純に娯楽のためです。・・・うちの星ってほら、フィクションとか発達しなかったんですよねー」
ですよねー、言われても。うちの星とやらを知らない地球人は困惑した。
「地球人類が発生した。いや、もっともっと前から続いた観察記録? 番組ですが、このたび最終回を向かえることになりました」
「・・・」
本当はアメリカ合衆国大統領が言う内容だろう。薄々わかっていたもののはっきり、それも地球外から言われると、こう、くるものがある。
「バッドエンド、なのかな? 少なくともあなた達が望んだ結果ではないでしょうね。これから衝突までに起こる様々な出来事は、本星でフィーバーを巻き起こし、泣き、笑い、色んな感情を呼び起こすことでしょう」
「・・・」
つまりは、いちコンテンツとして消費される、ということだが、地球人類にはどうすることもできない。
せいぜい、自分の事を忘れないモノがいる事実を慰めとするぐらいだ。
「って。くそっ食らえだ・・・」
いきなり出てきたファ○クワードに地球人が固まる。
「なぁにが、決して⊆を差しのべるなだ、くそ上司。いままでさんざん盛り上がるよう干渉しろしろ言ってたくせに・・・」
「Ωだぁ~? 上等だよ! こっちから止めてやるよ! 好き勝手やってなぁ!」
もはや、何に、どこに驚いていいかわからない。ただ、同時通訳がところどころおかしくても伝わるのは・・・。
「こっちとら! 仕事始めてからこの歳まで! ずっとずっとこの星担当じゃい! 滅びる言うて、『はいそうですか』って納得できるかぁ!」
声色、もしくは宇宙的何かによってもたらされる、隠しきれない好意、暖かみ、慈愛、ツンデレ、ヤンデレ、その他諸々・・・。
「・・・では、じゃあ!」
呼吸器があるかは定かではないが、一呼吸分の間。
「皆さま、お元気で!」
努めて明るく、軽い別れの言。
ぱっ! と。
切り替わった画面に。
空の見慣れない星に。
光の尾が生えた。
「はっはっはぁ!」「ざまーみろくそ上司!」「四十億億年、給料アップ無し」「休み無しとかあり得ないンじゃボケー!」
「あ、マイク!」「マイク切れてない!」 ぷっ。
つー。
画面上なめらかに。
・・・宇宙空間であることを考慮すると、ものすごいスピードで噴射? を終えた宇宙船らしい光が、端から端に移動し離れていく。
まだ計測されていた数値は地球、もとい人類の助かるラインをほんのわずか、越えていない。
何を? これで終わり?
地球人類の疑問はすぐに解消された。
黒い光。
観測されてから様々なところで使われるようになったブラックホールの姿が、一瞬見えたような・・・。
それが収まった空にて。
・・・目に見えて移動した、一部が吸い込まれたようにえぐれた、小天体は。
観測結果を見るまでもなく。
もう、驚異ではなかった。
そう、人類は救われたのである。
ではなく の放棄によって・・・。




