仕事人
前兆、・・・スマホのゲームアプリで史上最大の作戦が始まるかも? となるのは、ちょっと残念な気もするが、それも作戦の一部なら仕方あるまい。
アプリの賞金受賞期限が終了し、プレイヤーの悲喜こもごもが投稿され始めたころ、日本の総理にアメリカ合衆国大統領から連絡が入った。
・・・こちらもまたスマホ直電だと言うのだから、世界も狭く、気安くなったものだ。
「はい、はい。わかりました。変更は無しですね?」
「残念ながらね」
条件さえ守ればチートありのゲームでさえ最新コンピューターの予想を超えられなかったのは残念だが、残り二十四時間というギリギリの時間の中で、作戦の根本に関わる中心案、二位の変動がなかったのは良かったのか、悪かったのか?
とりあえず、悩みの一つが解消したといい方向に考えつつ、総理の指がスマホの画面をなぞった。
「GOサインがでたわ。変更無し。始めてちょうだい」
「わかりました!」
JAXAの責任者の力強い返事を聞いた後、総理が秘書にFAXの指示もする。
言った言わないは世の常だし、本当に指示したか、確認の電話を何回されても困る。
見上げた時計は午前六時。連絡を交わすにはやや常識から外れる時刻であるが、ボタン一つでロケットが打ち上げられるわけでもない。朝一で作戦が始められるよう調整して連絡を行ったなら、現地、アメリカワシントンの時刻はこちら以上に非常識な時間───
時差が十三時間だから
───午後四時だ。
・・・あんがい深く考えないで、すぐ掛けてきたのかも。
総理の推理が正しいかは謎である。
○≡
「打ち上げ! 打ち上げだ! 急げ!」
別に開始まで待たなくて良かった、は作戦に変更がなかったから言える言葉だ。
発射台に移動されたH2ロケットに燃料が注入され始め、表面に真っ白な霜がおりる。
「・・・H2でいく」
「・・・」「・・・」「・・・」
喧喧囂囂。意見の飛び交った会議は、打ち上げ執行責任者の鶴の一声で静まり返った。
タイミングが悪すぎた。
五回成功後の二回目の失敗の原因調査中。
そんな状況の最新鋭ロケットのH3と、急遽かき集められた部品の集合体である旧H2。どちらが信頼性が高いか、は。ぶっちゃけ打ち上げてみないとわからないが、後半ほとんど失敗せず、数々の実績のあるH2に軍配が上がった形だ。
「一発目はな」
「・・・?」
唇を噛んだ現在のエンジニアが顔を上げた。
「何を不思議な顔をしている? 史上最大の作戦だぞ? 一発二発の打ち上げで終わるはずないだろう? というか、間に合う全ての機体を上げる。H2はできて二基。その後は・・・」
言われずとも理解し、返事をする時間すらおしいと、会議室の扉を乱暴に開け出ていく技術者。
その背中を見送り、うなずく打ち上げ執行責任者。
それが約二ヶ月前の出来事だ。
「三・二・一 リフトオフ!」
根元から白い湯気(と言っちゃうと一気にお茶の間感が出てしまうが、防音、発射台保護用の水が蒸発したカッコいい言い方の水蒸気は無色透明で目に見えない為、正真正銘の湯気)が立ち上ぼり、ゆっくりと本体が浮き上がり、みるみるうちに加速していく。
ひとまず、発射台は開いた。
もう、この際多少のエラーは無視するつもりの連続打ち上げで怖いのは、リフトオフに失敗して発射台がふさがる事だ。
その点もH2ロケットが優先された理由だ。H2を打ち上げるLP1はH3に対応していない。もしH2が一回目で失敗しても最悪無駄になるロケットは次の一発ですむのだ。
「五十一号機はそのままモニター。五十二号機と、H3九号機の準備開始」
「はい!」
まだ、一発目。・・・そんな感想を抱く日がこようとは。
後にも先にも、一日に何機も打ち上げる事などもうないだろう。
「発射台に機体移動開始」
「燃料搬送前に駐車場所の温度確認、徹底!」
「大丈夫です! 気温まで低下!」
それゆえ、確認する事も多く、・・・ほとんどはぶっつけ本番だ。
「異常、少しでもおかしいと感じたら立ち止まれ! 急いでもあせるな!」
「「「はい!」」」
○≡
「日本が作業を終了しました」
「・・・やれやれ。やっとか」
場所は公開されてない軍事施設、いわゆる秘密基地で、足を組んで椅子に深く座って帽子を腹の上に乗せて目を閉じていた、彼いわく仮眠、ではなく、深く思慮に沈んでいた中国軍司令官は、座り直し、部下の持ってきた資料に薄暗い照明のもと、目を通した。
昼も夜もわからない窓のない施設だが、時計を信じるなら外は闇、だろう。
とはいえ、ロケットと違い、ミサイルは発射時間を選ばない。
・・・明るいうちしか使えない報復兵器などあり得ないのだ。
「大部分成功。いくつか動作不良はあったが、ほとんど軌道投入に成功。・・・やるじゃないか」
「・・・」
日本嫌いで有名な上官の賛辞に同意していいものか?
以前いた同僚は「日本に行った親戚の土産の電化製品がほとんどメイドインチャイナだったよ」との言に。・・・笑った結果、いなくなった。その後連絡とれない。
「ま、ここは成功してもらわにゃ困る。かなめ、だからな」
どうやら、沈黙で正解だったらしい。
なんなら同意しても良かったのか? と考える部下に質問が飛んだ。
「日本が打ち上げた特殊形状の容器に入った保温物質と蒸散物質。かの星に着弾したこれを我が国含め核保有国のミサイルで炙るわけだが。ロシアの予定は?」
「は。こちらに」
細かく時間が書かれたスケジュール表は、詳しく分析すれば発射台の場所が特定できそうであったが、そんなことをしている場合でもなく、やる意味もない。
成功、失敗に関わらず人類は滅ぶし、もし生き残ったとしても、戦いに必要なのはミサイルではなく、棍棒と石だろう。
「隙間に合わせて、発射スケジュールを」
「はっ! 作成中であります!」
「向こうさんに合わせるのは、しゃくだが、こちらの方が新しいからな」
「・・・」
そうでありますね、と答えていいのか悪いのか。何が気にさわるかわからない上司の元で働くのは、本当にストレスである・・・。
○≡
「ロシア、中国の発射が完了したそうだ」
「そうか・・・」
映画やアニメなら次の、宇宙空間を飛翔する場面がはさまった、そのつぎぐらいで結果がわかるミサイル攻撃も、実際にやると地球の自転に合わせなければならないので、一日仕事だ。
それが終わっても、何千、何万キロ向こうの目標に到達するまで何日か。もう、本当に宇宙関係は時間がかかる。
「こちらの準備は?」
「ほとんど完了。だが・・・」
「だが?」
「原潜の何隻かで、鍵が見つからないそうだ」
「鍵って・・・。ミサイル発射で一緒に回すやつか?」
「ああ」
「・・・」「・・・」
何やってるんだ! と叫びたくなるが、叫んだところで事態が好転するわけじゃない。
「鍵屋は・・・」
「水深ンメートルにか? 無理だろ・・・」
よしんば、行けたとしても。「核ミサイル発射時に回す鍵をなんとかしてくれ」と言われた鍵屋の困惑が目に浮かぶ。
「接触すればいいんだよな? 最悪接触させれば・・・」
「バイクを盗むみたいにか? おいおい、最終兵器の保安システムだぞ?」
一応、通達はされた。
「ベストを尽くせ。なにをしてもいい」と。
結局、鍵が見つかったかは。
知らなくていい、人類の裏話である。




