テレビショッピング出演者 お役人
・・・まさかあれが今日紹介する商品じゃないでしょうね?
ここ最近リニューアルの止まったセットの中央にある机の上に置かれていたのは “石” 。
そう、見覚えのある加工された花崗岩だった。
ウォーターサーバー、日用品。
世界がこんな風になってしまい、どんどんと取り扱う商品は減り、変わり、一品にかける時間は長くなったとはいえ、まさか “墓石” を紹介することになろうとは・・・。
やりたい放題、ね。
ここにきてジェーンの言葉が蘇る。
まさに、まさに、その通りであるし、びっくりが落ち着いた今では、紹介するにふさわしい商品だ、と。納得する自分もいる。
何回も見たシミュレーションではこの星は粉々になり、小惑星帯のような有り様になるそうだが、地上全てのものが砕け散るとは限らず。自分の名前と誕生日、没年は不詳で生前何をしたのか、そんな記録を刻んだ個人用モノリスが、いつか誰かに発見されるかも、と考えられるなら、ひょっとして、これは素晴らしい商品なのかもしれない。
・・・いつものノリで紹介できるかは、自信ないけど。
「ハイ! ナンシー! 今日も、いや、今日は一段と素敵だね!」
「・・・貴方も、ね」
こちらに歩みよってくるジョージは、なぜか白いタキシードに、完璧にセットされた髪型で。いつもの倍、んんん、三倍は格好良く、思わず息を飲むほどだった。
鏡、カガミが見たい。
感じた頬の熱さは要確認レベルだったが、あいにくスタジオに手段はなかった。
もう! どうして墓石? 石は石でも◇◇◇◇◇◇なら・・・。
そんなナンシーにジェーンと、ボブが生暖かい視線を送っていた。
○≡
「ハィ! ナンシー! 最近お困りのことはないかい ?!」
「ああ! ジョージ、ちょうどよかった! 実は探しているものがあるのよ!」
エクスクラメーションマーク=!、多め。身振り手振りが大げさなのが売りの番組である。
「なんだい、ジェーン! 君のためなら何でも探すよ! たとえ地のはてまでも、ね」
ね! で、ウィンク。
ジェーンの心臓がどきり! と跳ねるが、いつも通り、透視能力者か、心拍数をリモートで監視していなければ他の人にはわからない。
「探し物は石、石なのよ!」
「石だって? それは大変だ!」
何が大変なのかは謎だが、ノリと勢いで押しきるのがこの番組の流儀。
一旦はけたジョージが、墓石を乗せたキャスター付きの机を───
───押してこない。
手ぶらであるし、いつもの満面笑みが浮かんでいない。
トラブルだろうか? ・・・まあ、モノが
モノである。キャスターが壊れても無理はない。その場合は人力、もしくは、こちらが移動・・・とナンシーが考えたところで、ジョージがひざまずいた。
ナンシーに向かって。
真剣な顔で。
「お探しの石はこちらですか?」
ビロードの小箱。
ラウンドブリリアントカット、1・5カラット。
六本爪、プラチナ台。
実に、ジョージの給料ンヵ月分の一品であった。
「・・・これを私、に?」
「マリー、ミー」
絡みあう視線、静まり返るスタジオ。
全米が、は言い過ぎだが、たまたまチャンネルを合わせていたご家庭は息を飲み、早打ち自慢のSNSが光りの速度で視聴を促す。
「はい。答えはイエスよ・・・」
And I~~~ 定番曲のサビが大音量で流れ、ナンシーの左手の薬指に輝きが灯る。
コールセンターには、注文ならぬ祝福の電話が殺到し。
いまテレビをつけた人はつぶやいた。
「なんだ、こりゃ?」と。
○≡
「なんだ、こりゃ?」
家にいてもする事がないなら、と。
職場にきていた年配の公務員はつぶやいた。
くたびれたスーツのズボンによれよれのYシャツ。長年の相棒のアームカバーはブラック。
いつもは新聞で暇を潰すのだが、配達が止まって久しい。ゆえにテレビをつけっぱなしにしていたらコレである。
・・・メガネを外して眉間を揉むのも無理はない。
役所も様子見のお休みになってしばらく経つ。
昼間は図書館の分室や、材料のいらない、もしくは持ちよりでなんとかなる教室なんかは、まだ細々とやってたりするが、夕方を過ぎれば明るいのはここと、警備の詰所ぐらいだ。
「・・・」
買い置きのお茶もなくなり、白湯を湯呑みに。
それでも、たいして残念に思わないのは、あんまりお茶の味がわかっていなかったからだろう。
温度が高ければいいのなら、いまは売り切れランプの並ぶ自販機のあったか~いエリアにミネラルウォーターがあってもいいのかもしれない。
静まり返った夜のエントランスにブン! と、電源が入った音を無意味に響かせる光りの箱を眺めていると、お客さん? である。
「よかった! 開いてた! やってますか?」
「はい」
ここはたまたま暇人がいたが、もうだれもいない役所もある。
何軒かハシゴしたらしいカップルから書類を受け取りつつ、待機状態のパソコンを復帰させる。
なぜか? ということもない。たぶん電源を落とすのを忘れたのだろう。人がいなくなっても、各種役場の仕事を司るコンピューターはなにも言わず今日も、今夜も働いていた。
「ほ、保証人、いりますよね?」
「はい」
わけありなのか、雑誌の付録らしいピンク色の婚姻届の保証人欄は空白だった。
これでは受理できない。
「どうする?」
「どうしようか?」
スチャリ、と取り出されるスマホだが、気軽に連絡するには遅すぎる時間だ。
それでもきてくれそうな人に心当たりがあるのか、親指が画面の上をさ迷う。
「こだわりは?」
「「はい ?!」」
声をかけられるとは思っていなかったのだろう。上ずった返事に重ねて問う。
「こだわりがないなら。こっちでなんとかするけど、どう?」
「「・・・お願いします!」」
顔を見合わせて無言の会話。
初々しいありさまに、冷えきった自分の家庭を重ねて、あまりの形の違いに、内心ため息をつきながら、夜間窓口の職員は内線で警備の人を呼んだ。
もちろん、この二人をどうこうしてもらうわけではなく。
一仕事、名前を書いて印鑑を押すだけの、簡単な仕事をしてもらうためだ。




