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テレビショッピング 出演者

「ハイ! ジョージ! 調子はどうだい?」

 バタン! というよりかはバァン! ボブが控え室のノックをしないのはいつもだし、やられるたび、心臓が跳ねるのもそうだ。

 最初、それこそ新人の頃は、顔を真っ赤にしていたものだが、今では自分でもなぜあそこまで怒っていたかわからない。

 職を変えた直後で気を張っていたせいだろうか?

 理由はどうあれ、もうお馴染みの登場に文句はない。


「ぼちぼちだよ。そちらは?」

昔のままのノリで聞いてから、マズイ! と口をついて出た言葉を引っ込めようとしたが、音速の波動を吸い込もうとしても、無理な話だ。

 世界がこうなってしまってから、テレビショッピングの売り上げは右肩下がり。たとえ注文が入ったとしても、運送の時点でつまずき、結局は。なんて責任までおっ被されるのだから、どんなにボブが頑張ったとしても、ポジティブな話になるわけがないのに。


「それがなぁ。聞いてくれよ・・・」

「ああ・・・」

 話を振った責任もあるし、ボブは友人だ。彼の心の重みが、うつむいた顔にさす影が、少しでも減るのなら、愚痴ぐらいいくらでも聞こうじゃないか。


「HAHAHA! ついにチーフの野郎がバックレやがった! やったぜ!」

 破顔一笑。大爆笑。ついでにサムズアップ。


「やったな! ・・・でいいのか?」

「いいに決まってんだろ! あの弁つきストロー野郎。いなくなって清々したぜ! HAHAHA!」

 ストロー野郎、弁つき・・・、思い当たる節はある、上からのお叱りは直通で、下からの要望はストップの意味か。なるほど、いいえて妙? なのか?

 そんな疑問はボブが差し出した物を見た瞬間に吹っ飛んだ。


「ほら、乾杯、乾杯!」

「コーヒーじゃないか!」

 正直に言おう。香りは感じていたと。

 本気にしていなかったのは、もう二度と出会えないと覚悟を決めていたのと、ボブが毎回差し入れてくれてた過去の記憶がもたらす幻だと思っていたからだ。


「染みるなー」

「なー」

 しばし、両手を温めつつ、香りを楽しみ、ほんの少しだけ口に含む。好みからすると少し酸味が強いが、コーヒー以外の何物でもない、って!


「ボォブ。・・・いつも思うが入れすぎじゃないか?」

 砂糖三つ、ミルク三つが彼の標準。

 あれじゃ味も香りもあったもんじゃないだろう。


「まずは一口飲んだろう? それで良しとしろよ。こっちはカフェイン以外に用はないんだ」

 コーヒーに求める役割も人それぞれか。


「しかし、よく手に入ったな?」

 世界がこんなになってからコーヒーをふんだんに飲めるなんてのは、生産地近くの人の特権だろう。もっとも、食料品が不足しているなら豆=種よりも、まわりの果肉の方が喜ばれるだろうが。


「ああ、部屋掃除してたら出てきた」

「・・・賞味期限は?」

「大丈夫だろう? 飲めてるじゃないか」

 賞味=美味しさを味わうこと・・・なら正しい、のか?


「大丈夫だって! もらいもんだから覚えてる。プレゼントされたのは大統領の日だ。最近だろ?」

「去年とか一昨年の、じゃなけりゃな・・・」

 自分もそうだが、歳をとると、もう時間の流れが早い。一年、二年なんてあっという間だ。


「今年のだよ! 疑り深いな! 銘柄だって覚えてる。こぴ、コピなんとかだ」

 ・・・覚えてないじゃないか。いや待て! 今、なんて・・・?


「コピ・ルアク?」

「そう、それ! よく知ってたな?」

「ああ、有名だからな・・・」

 高級な豆という意味と、もう一つ・・・。

 製造方法的な意味で・・・。


「・・・俺にもミルクをくれないか?」

「珍しいな。どうぞ」

 部屋から一緒に出てきたのか、小分けにされたコーヒーフレッシュが袋ごと差し出された。


 ヤツが一口ならこっちは半分以上飲んでいる。味変しても許されるだろう・・・。


 ○≡


「はあぃ! ナンシー今日も綺麗ね!」

「・・・ありがと、ジェーン」

 スタイリストの彼女はそう言ってくれるが、コンディションが良くないのは自分が一番よくわかっている。野菜というかビタミン不足による肌荒れ。缶詰やパウチに罪はないけど、どうしても栄養は片寄る。さらに寝不足でくっきりと浮かんだ隈とくれば、プロ失格と言われても仕方ない。露になった底が、本来あるはずの化粧品本体が減るにつれ、どんどん広くなる様を見ると申し訳ない気持ちになる。


「ほら、そんな顔しないで!」

「ああ、ごめんなさい」

 どんなに気分が落ち込んでいたとしても、隈を消し、明るい雰囲気をまとわせてくれるのはまさしくプロの仕事だ。こちらとしても世界が終わりそう、なんてことぐらいで暗い顔をしていられない。・・・のだろうか?


「あー。これは秘密なんだけど」

 こんな時、どんな顔をすればいいの?

 そんなこちらの考えを読み取ったように、髪をセットするジェーンが「特別よ!」、と言うように、鏡越しにウィンクを決めた。


「今日紹介する商品は取って置き! らしいわよ!」

 ・・・うん。なにも明らかになってない。


「それがね、聞いてよ! やっとあのくそ、じゃなかったピー野郎がいなくなったの! ホントにもう、これまでアイツにどれだけ手柄を横取りされたか! って、されたのは・・・」

 ピーって、手遅れ・・・。

 それでも、とりとめのないお喋りはいい。

 直面した問題を忘れさせてくれるから。


「それでね! これで上から下までほとんどいなくなったワケじゃない! それでなーんも困んないって。あの人ら何してたんだ、って感じ!」

「そうね・・・」

「んでんで。これでとうとう、やりたい放題! ってワケなのよ!」

「そうなんだ」

 なるほど。それでこの髪型、この服か・・・。

 まあ、“ド” がつくほど派手で、商品ではなく、こちらがまるで主役のような有り様だが、このご時世、このぐらいしないと暗いところを明るくはできないのかもしれない。



 わたしは気づかなかった。


 彼女のお喋りの。


 もっとも重要な部分に。

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