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水道局職員 通信保全員

「やめれ」

 今日も今日とて、出勤後すぐに月単位のカレンダーの一升にバツ印をつけようとしたらとめられた。

 Xデー、どうやら今月の十四日がその日らしいのだが、世界滅亡には似つかわしくない花丸に向かい、一日一日増える印が視界に入るたび、気が滅入るのは理解できる。


 が。


「目をそらしていてもくるモノはくるんですよ」

 だが、断る! というやつだ。

 きゅー、きゅーと。何度聞いても慣れない(鳥肌る)、マジックの先端が奏でる擦過音とともに、今日という日にバツがついた。


「んじゃ、確認いって行ってきますね」

 もういいんじゃないかな?

 人が減るだけ減ったモスグリーンの室内でするダブルチェックを終え席から立ち上がる。

 自分の、とつけなかったのは本来、そこに座るにはまだまだ経験不足だからだ。


「・・・おう」

 自分の意見が通らなかったことに不満気な先輩社員を尻目に薬品倉庫へ。

 カレンダーの件は、こちらも嫌がらせでやっているわけではないのでご理解頂きたい。


「ひーふーみーよー、いつむーななやー。よし! ・・・よしなのか?」

 自動投入装置が導入されたといっても、その先端はいまだに人の手に繋がっている。

 洗濯機を例えにするとわかりやすいだろうか? 洗剤自動投入とうたっても、その洗剤は買ってきて入れなきゃダメなのだ。

 いつか、その先が洗剤工場につながり、原料生産先につながりと、なれば真の自動投入が実現するのかもしれないが、たぶんそんなことをするより人形ロボットにやらせて “自動” と強弁する方が早いだろう。

 そうなればいま自分がしているように、指差しひとつひとつ数えず、床の重量センサーや、監視カメラで数量を瞬時に把握できるのかもしれず、・・・気が滅入ることもないだろうし。


「Xデー、ギリギリってさー・・・」

 インフラでも最重要な水道を止めるな! というのが最優先されたのは、職員が休み始めてこなくなって「人が足りません」と言ったら、自衛隊員がきたので十分理解できる。

 他のところはどうか知らないが、ここの浄水場の “浄水” に関わる部分以外、どころか、今では、ちょっと学べば誰にでもできそうな簡単な作業まで行っているのは服をカモフラージュした隊員さんである。

 もしかしたら、万が一、そんなことはないだろうが、やけ? になった人の起こすテロ、なんかを警戒しているのかも知れない。


 これが報道されれば「すわ! 何事か?!」となり、色んな人(色自体は似たり寄ったり)が湧いて出てくるのだろうが、報道も投稿もされなければいたって平和である。

 その代わりと言っては、なんだか抜けてしまったのだろう。・・・偽装もへったくれもなく、催促しても、しても、しても補充される様子がない薬品在庫を見れば、見てしまえば、「結局、世界はどうなるのさ?」なんて問いに答えが出てしまう・・・。


 ○≡


「在庫、八日分ありまーす」

「んー」

 果たして、その意味がわかっているのかいないのか。

 それでも休まず職場にくる先輩社員は。


 まだ、やる気のある方である。


 ○≡○≡○≡


 ・・・いっそのこと電気が止まってくれればな。

 そんなことを思いつつ、接続したノートパソコンのテストプログラムに異常が無いのを確認し、コネクターを抜く。


 五月の太陽にさらされ、にじみ出した汗を作業服の袖でぬぐい、作業の終わったケータイ用アンテナ設備の詰まったボックスのドアと鍵を閉めれば作業完了。これで増長性は復活し、アクションゲームのキャラクターがやられても復活するように、片方が壊れても、自動的に切り替わり、通信は保持される。

 ・・・まあ、ニ機以上増えないのがクソゲーっぽいが。


 交換、交換、アップデート、掃除。


 修理作業、なんていっても、実際にすることは部品交換で、その部品は工場に送ってやっと修理される。つまりはそっちが止まればこのくっそな仕事から解放されるわけだが、なぜだか、こんな世の中でも修理品をわざわざ届けまでしてくれる人がいるのだから不思議だ。


 本音を言えば、逃げ遅れた、と思っているオレからするとワケがわからない。

 世界が滅ぶ? ホントかよ? と思っているうちに同僚はあれよあれよといなくなり。

 気がつけば自分含めて、ニ、三人となれば貧乏くじを引いたな、というのが正直な感想なので。

 達成感があるわけでも、給料が高いわけでもない、誰にでもできそうな仕事。

 超、がつくぐらい有名大企業に勤められるなら、と就職したが、事前に仕事内容を知らされれば、絶対に入らなかっただろう。




「作業終了しました」

 そう報告するのは簡単だ。何しろ通信用アンテナのすぐ横。アンテナの表示はバリ3ならぬバリ4であり、表示限界がそこなだけで、足せば足しただけバリバリと増えるだろう。


 が。


 終わったとたんに次の指示が入るに決まっているのに、馬鹿正直に終了報告を入れる必要があるだろうか? いや無い!

 ざっざっざと床を拭い、それでも埃っぽい屋上に寝そべる。

 視界一杯に広がる青空は、都会の地べたでは味合えない贅沢だ。

 別になにがなんでもなりたい! と思って就いた職業ではないが、こんな特典があるなら続けても───


 白い雲、どこまでも澄みきった青、そして・・・、最近昼間の月以外に見え始めた、でかい星。なまじ目が良いとくっきりとした輪郭の中に模様すら見えそうで・・・。


 ───いいんだか悪いんだか。


 終了報告をしなくても次の仕事が入らないわけではない。

「それが終わったら」というヤツだ。


 ブーブーブー。着信音は外の広さに溶けて消えたが、主張する小型モーターの振動。


 なぜ俺は自分を苦しめる存在をわざわざ?


 そんな疑問に。


 答えは出ない・・・。

 

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