猫カフェ店主 猫
「・・・なんだこりゃ」
朝、何気なく点けたテレビの中、お天気担当の気象予報士が、写り込みもものともせず突進したスタッフ数人がかりで画面外へと引きずられていく。二週間予報の終盤で「この日は星が降るでしょう」とか、言っちゃったのだから仕方ないのだろうが、元々の降水確率がやけにリアルな数字なのと、機転を利かせてカメラに迫り、惨状を文字通り覆い隠したマスコットのド・アップが、照明を遮った薄暗い画面の中での不気味とすら言える迫力が、妙に印象に残った。
「あ、まただ・・・」
しばらくお待ちくださいのテロップ。
人が、もしくは他の何かが足りないのか、最近はよくみる。
元々、貰い物で量が確保できていたうえ、こうなった初期の買い込んでいるので、この子達の食事は十分にある。
むしろ不足しがちなのは、こちらの食料なわけで。
「・・・」
宣伝文句とはわかってはいるがパッケージに書かれている『人が食べても安全!』の文字に葛藤するのが、最近の朝のルーティンになりつつある。
「うまいか~」
勝った、かーちゃん勝ったよ。
カリカリの横にスプーン一杯づつつけたウェットフードに目を細める猫達にはわからないガッツポーズを決め、人間様用の朝食をとる。
・・・節約しつつ炊いた白米に、おかか。目安の二倍うっすい具無しのみそ汁。
どちらが、上等な食事なのかはいうまでもない・・・。
どうしようかと迷いはしたが、結局以前からのお知らせ通り、お店は休み。
・・・開けたところで、“カフェ” と看板をあげているのに、コーヒーの一杯も提供できないのでは、妥当な判断だろう。
いや、あるのだよ? 提供できるモノは。砂糖とミルク抜きの抹茶とか、冗談で仕入れた青汁とか、センブリ茶、とか。
うん。諦め、大事。
かー、かー、かー、かー、と。
回収が止まったか、人手不足で遅れているのか。
蓋が閉まらない、どころか、容量をこえたゴミがあふれるステーションは黒い鳥の楽園だった。
ここぞとばかりにつつき回されるビニール袋に、撒き散らされる梱包容器。
何羽かが食べ残しがついた容器を取り合っているさま、何てのは、まるで空中にまでフィールドを拡張させたスポーツのようで、いま一つ盛り上がらない人間様のそれよりも輝いてすら見える。
・・・まあ、見えるだけだが。臭いがね~。いかんともしがたく、子猫が襲われているようでもないので、足早に立ち去る。
○≡
がさり、ごそり、と。人の目に触れないよう設置した箱罠をチェックし、ため息をつく。
最近は野良猫も少なくなりはしたが、それでもいることはいる。・・・下手に名前で呼ばれて、エサなんかもらっていると、罠用のちょびっとした量何てのには見向きもしなくなるから困る。
公園のベンチに座り、ぢっと手を見る。
見上げれば、ちらほらと咲き残った桜の枝越しに、太陽以外の星が一つ、二つ。月はいい。・・・徐々に遠ざかっているそうだから。問題はもう一つの新顔だ。
「こっちくんな! って、うそうそ! キミに言ったわけじゃ、ああっ!」
罠のエサを取り替えた時に匂いがついていたのか、指先をフンフンしていたらしい三毛=捕獲対象がぴゅーっと逃げ出す。
立ち上がって手をのばしたが、もう姿すら見えない。隠れた茂みはわかるが、近づいても逃げるだけだろう。
○≡
バタン、バタンと二度閉まる音がし、同居人が姿を表した。
ショボーンとした様子に加え手ぶら。
今日も新入りはいないようだ。
うちの同居人はもうとにかく新顔をいれたがるから困る。もう一匹、二匹、三匹、・・・たくさんいるのだからいいのではないか、と思う。
「あーら、シロチャン慰めてくれるの~」
足元に寄っていってやると、まるで撫でられるかのような鳴き声が降ってきたのでそのまま通り過ぎてやった。・・・撫でられるのは嫌いではないが時と場合と、もう片方の手になにを持っているかによる。
キャリー? とか言うのが後ろに見えてたり、ただ声で、何てのは問題外だ。
ぴっちゃぴっちゃぴっちゃ。
別に喉は乾いて無かったが、水を飲みにきただけですよとアピール。・・・顔を洗ってもよかったのだが、最近同居人の視線がなぜか生暖かい。まるで照れ隠しを見抜かれているようなので、自粛中である。
ぴょん、ぴょんと元の位置に戻って丸くなる。たかいところは好き。・・・同居人がどこにいても見えるから。
○≡
「・・・っ!」
カレーなら、味の濃いソースと一緒なら、という誘惑を絶ちきる。辛うじて。
・・・ゴロゴロしとるんが悪いんや、というフードは猫達にも大人気で。
そう聞こえるだけとは知っていても、「うみゃい、うみゃい」と食べているのを見るだけで、お腹一杯になる。・・・ええ、お湯だけでカレーになるインスタント? 食べましたが、なにか?
見るわけでもないテレビを点け、まったりとソファーで。
体の上にシロが、クロが、トラが、サビが、ゴンザレス・カトグリフ・三世が。
これ以上の幸せがこの世にあるだろうか? いやない!(断言) ・・・たとえ、一匹五キロオーバーの大型種混じりの子達であっても。
○≡
「うーん、うーん。ふごっ!」
なにやらうなされているようなので、鼻を押さえてやるが、うめき声は止まない。
やれやれ、うるさいことだ。・・・折角、胸の上に乗ってやっているというのに。
「可愛いのがお仕事なんよ~」
最近は言われなくなったが、ここにきてしばらく、怯えて隠れる我輩に同居人がよく言っていた。・・・優しく撫でてくれながら。
ベッドの横、カーテンのしたからのぞくと、最近やけに見える星? とやらがあり、なんだか胸がざわざわとする。
近いのかもしれない。その時が。
生涯に一度だけ。
こちらとあちらの心がつながるという。
よく人が、一生に一度猫が喋ると語りついでいるやつだ。
さて。
この同居人になにを伝えてやろう?
迷っているようだから・・・。




