葬儀屋
・・・さすがにこれはどうなのか。
そう思ったのは、まだ自分が前職に就いていた頃だった。
電気関係の仕事で、とある大きめの病院になるはずの建物で作業した帰り道、早々と並んでいたのが葬儀屋の看板だった。
・・・それも何枚も。続けて。
大きめの面積を確保するためか、郊外の、はっきり言ってしまえば山中を切り開いた敷地は高台で、まっすぐ作れば急になるので、外周をなぞるように、ゆるやかに九十度曲がってくだる坂道に、ズラリと並んでいるのがこれでは、さぞかし御見舞いにきた人も気が滅入るだろうとげんなりしたのを、いまでも覚えている。
「まさに、そこに勤めるとはなぁ・・・」
あの頃は夢にも思わなかった。
まだ使っていないから怖くない、恐くないと言い聞かせながら作業した霊安室に、自分がせっせと通うはめになることも・・・。
○≡
世界が終わる、終わらない、と。騒ぎ出したところで人が死ななくなるわけでもなく、特定の宗教の審判の日のように死者が蘇るわけでもない。
世界が終わるかもしれないと、ここぞとばかりに有休を使う勤め人もいるようだが、葬儀屋は究極とも言える人任せ? 死人任せの職業だ。忙しい時は立て込むが、暇なときはとことんヒマ。勤め初めてしばらくは、覚えることも多いが、一旦仕事に慣れてしまえば、前職のように新しい製品が出る度に勉強しなおす必要も無く、スマホをいじっていても何も言われないとなれば、長期休暇を取って是が非でもやりたい事がないなら、家にいても、会社にいても、そう変わらない仕事だ。
・・・正直、家にいても仕事が入れば呼び出されるので、会社にいるほうが気が休まる、まである。
こんな仕事に付き物の、憑き物関係は気にしないようにしている。
・・・いや、気にしている、が正しいか。
「気のせい、気のせい」というやつである。
○≡
霊安室にいらっしゃったのは、大層な年配の方で、正直なところ気は楽だった。
・・・人がお亡くなりになっているのだから不謹慎、というご意見もあるだろうが、やはり、幼い、若い、よりかは、歳を重ねて頂けた方のほうが残されたご遺族=お客様も、さばさばしているように感じるのは、やがてくるお別れを覚悟していたからか。
たまに、年配の方が亡くなったのに、物凄く動揺されているご遺族もいる。
・・・ピンピンコロリは理想的な死に様という意見もあるが、考えモノでもある。
さて。寝台車、と字面だけで判断すると、なにやら優雅な旅ができそうのは寝台列車があるからだろう。実際のところ、死体運搬用の車両なので誰も車内で寝たりはしない。
後部に御遺体を乗せ、さぁて、助手席は。
たいていはお一人。御遺族が、御遺体に付き添われるわけだが、いればいたで、いないならいないでそれぞれ問題がある。
まず、いない=死体と二人きり。
普通に怖い。慣れても怖い。
運転席、助手席と後部との間に仕切りはあるが、あったらあったで、怖いのは怖い。
ガタッ! とか音がしたり、「う~」とか聞こえたり、するともうダメ・・・。
そして、助手席にご遺族。
無言。気まずい。
もうとにかくお喋り。うるさい。
普通に、故人の思い出がたり。相づちは打つが、あんまり興味はない・・・。
長い、短いはあってもほとんどの場合は市内だ。
一時間もかからずご自宅に到着。
そして、仏間は一階がいい。
なぜならたいていの場合、御遺体はそこに安置されるから。
たまーに二階、ごく稀に三階というお家もあるが、止めて頂きたい(故人、もとい個人的意見)。
・・・誰が御遺体をそこに運ぶとお思いか。
こんなご時世でも手に入った、「用途を考えると、ねぇ?」とおっしゃって下さったドライアイス製造会社の人には感謝してもしたりない。冬ならともかく、温暖化が常になりつつある最近の五月なんて初夏だから。
生前ご使用の布団に可能なら北枕に御遺体を寝かせ、掛け布団を天地逆に掛ければ一段落である。
一旦、社に戻り、車内を清掃し、葬儀の段取りを確認する。
死亡診断書、からの~、火葬許可証、お葬式の段取り、会場の設営、お坊さんの手配等々、やることは色々あるが、そこはチームワークである。
後々にはやることになるのかもしれないが、まだまだご遺族と相談して式の詳細を詰める、何てのはできそうにない。
造化は倉庫にあるが、生花の手配に手間取る。生産者さんのところでは咲き誇る白菊も、運搬会社や、お花屋さんに休まれるといかんともしがたい。結局、自身で運搬するはめになったのだから、ご遺体以外を初めて乗せた寝台車もびっくりだろう。
顔見知りのお坊さんの読経。
・・・居てくれてよかった。
これで、「わしゃ、旅に出る」とかされたら、頭を丸めるのが回ってきそうなのは、新入り、と。なりそうなので。
そして、やっと登場する霊柩車。
やっぱり、助手席にご遺族が乗られるが、このころになるとお疲れなのか、お休みになる方も多い。・・・大変結構なことである。
火葬中は駐車場で待機。もう御遺体は運ばないからと帰ってしまうと、そのほかの車両の乗車人数がギリギリの時、助手席に乗ってきたご遺族の移動手段がなくなるので。
煙が。
白い煙が上へ上へと立ち上る。
不謹慎ではあるが、いい時にお亡くなりになったなぁ、とか考えてしまう。
地球にぶつかるとか、いや、対処すればなんとかなるとか、言われている星はぐんぐんと近づいて。
いまや、白煙の隣。
雲一つない青空に煌々と。
輝き初めている・・・。




