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宇宙飛行士

 深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。


 とは。何の一節だったか。


 ・・・聖書だった気もするし、ラブクラフトの小説だったような気もする。

 出典は定かではないが、意味は知ってる。

 何でそうなるのかは今一理解できないが。

 こっちが向こうを見、向こうがこっちを見たら何で同じような存在になるのか? さっぱりである。


 それはともかく。


 眼下に広がる漆黒はまさに深淵そのもので、ガラスに映った自分の顔がゲシュタルト崩壊を起こすと、惑星サイズの巨大な “目” がこちらを見ているような錯覚に陥る。

 ・・・まあ、実際にはそこまで巨大な生物はいないだろうし、大型の望遠鏡なら構造物の細部まで見えるらしいが、マッハ二十三から二十四で飛んでるこちらを捕らえるのも大変だろうし、そもそも海の、太平洋のど真ん中に望遠鏡なんか・・・。

 ・・・あるな。ハワイにでかいのが。

 

 まあ、望遠鏡は顕微鏡と一緒で、倍率が上がるほど視野が狭くなるものだ。

 星空の一角を切り取り、厚さ十センチ越えの窓ガラスを通して、自分を見るなんてのはほぼ不可能だろう。


 そう、ここは宇宙。国際宇宙ステーションなのだから。




「船長、準備できました」

「わかった。やってくれ」

 秒読みでもすると雰囲気がでるのかもしれないが、そこにこだわる必要もないだろう。ただでさえ、緊張が走る作業なのだから、なるべく軽い心持ちで始めたい。


「エンジン点火」

「エンジン点火」

 指示者と、作業者が同じ文言を唱し、ドッキングしている無人補給船のエンジンから噴出炎が発せられた、はず。

 自動車のエンジンの動きが運転者に見えないように、ISSに乗ってるこの身が感じるのは、微かな振動とちょっとした加速感だけ。


「高度上昇」

「エンジン異常なし」

 自動車と違うのは、目測に使える対象物が近くにないため、本当に動いているのかな? なんて気分になるところで、こればかりは、各種センサーと計器を信じるしかない。


「予定高度到達!」

「エンジン停止!」

 エンジンがカットされると、宇宙特有の静寂に包まれる、と言いたいところだが、実際にはいろんな機械が常に動いているので、結構うるさい。


「最高高度達成ですね」

「は?」

「最・高・高・度、達成・で・す・ね!」

「あんだって?」

 となるほどではないが、飛行中の機内ほどの騒音は、就寝時に耳栓を使う人がいるぐらいだ。

 ・・・耳栓って使うと自身の呼吸音がうるさいと思うのは自分だけだろうか?


「予定高度に到達しました」

「了解」

 いつも同じ軌道を同じ高さで飛んでいると思われがちなISSだが、軌道はともかく、高度は月一ぐらいの頻度で変更されている。

 実は飛んでいる場所が真空ではなく、薄い空気がある為、その抵抗で速度が、高度が落ちるのだ。ほっとけばそのまま大気圏に突入して燃え尽きるとなれば、高度を上げない理由はないし、さらに深刻な問題もある。


 スペースデブリ。

 SF、までいってしまうとそうでもないが、バリアーの出てこないリアル系だと、必ずワンエピソードになるアレである。


 別名、宇宙ゴミと呼ばれる存在の正体は、かってのロケットの残骸や、使われなくなった人工衛星など。

 まあ、そんなのがごっつりいくとお話にならない被害をもたらすので、登場するのは微細な破片だが、高速飛行する物体のエネルギーは、このステーションにも、軽々と穴を開けるのはフィクションでも現実でも変わらない事実である。


 これからは、宇宙の時代だ! と目を輝かせ、バカスカ打ち上げていた先代は、まさかそれらが、後々自分の首を締めるとは思ってもいなかったに違いない。

 ・・・ケスラーさんがシンドロームを発表したのは、千九百七十八(1978)年だったか、都合の悪い意見を都合良くスルーするのは、人類の昔からの悪いクセである。

 

 ケスラーシンドロームとは、宇宙ゴミ同士が衝突し、さらに細かい破片となって、地球を覆い尽くすんじゃないか、という懸念である。ここで、細かくなるなら危険度は減るのでは? という考え方をするあなたには、甘いと指摘せざるを得ない。それらが秒速七、八メートル=弾丸の数倍のスピードで飛んでいるからだ。

 ・・・ここまで説明すれば、それが起こるのを防ごうとするのは当たり前と思えるのだが、諸外国の中には「自国の衛星だからいいやろ」と。実験と称して、ミサイルで破壊し、デブリを千個単位で発生させるのだから、宇宙に滞在するこの身としては「なにやってんの?!」と突っ込まずにはいられない。

 

・・・重要ミッションを実行するにあたり、まずデブリの影響を受けない高度まで施設を上昇させなければいけないのだから、げんなりである。


「こちらも順次打ち上げを開始する」

「・・・くれぐれも、設定を間違えないでくださいよ。くれぐれも」

「わかってる」

 自分でもしつこいと思われているのは打ち上げられるものがモノである。


「あ、ごめ~ん」でドカン! といけば、蒸発するのはこの宇宙ステーションだけではなく、地球の未来も、だ。


 そう。地球の未来(・・・・・)


 人類史上、最大、最重要のミッションが始まる・・・。

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