妙 編集者 再び
「特に変わったことはないわねぇ。何か新しいことがあったらこちらから連絡するわ」
これだけ聞くと、何気ない会話におもえるが、零コールで電話にでられたうえ、こちらが要件を伝える前に、回答されているとなれば絶句するしかない。
「・・・そうですか」
絞り出すように相手の占い師に伝えたのは、オカルトと超常現象の教科書と巷で呼ばれる月刊誌 “妙” の記者兼編集者であるところの占辺季子、私本人である。
・・・こっわ、マジ、こっわ。
背筋をナニカが登り下りするようにゾクゾクが止まらない。
よし。ここは───
「ああ、お切りになるのはちょっと待って」
───切れなかったよ。電話をさっさとは。
なんだろう?
雑誌の傾向上、色々と怪しい、危ない、場所にはよく取材に───行きたくて行くわけでもなく結局は───行くが、自称主婦なほぼ予言者と話し続けるのもまた、違った意味での恐怖を覚える。
こう。
日本語で同じ事柄に対して話が弾んでいたのに、ふとした瞬間、全然話が通じていなかったと気づくような・・・。
自信満々で語っていたら、相手がよりよりより、詳しくそれを理解していたような・・・。
「その肌荒れは、あれ。ビタミン不足よ。あなたから見て、対向車線側の三軒目のコンビニの見切り品の棚と壁の間に野菜ジュースが挟まっているから買ってお飲みなさいな」
「・・・ありがとうございます」
なにを言われるかと身構えていたら、悩みが一個減っただけだった。
いや、減るとは限らないのだけれども。
果たして。
三軒目のコンビニに野菜ジュースはあった。買った。飲んだ。
ファンタジー小説のポーションのように一瞬で肌荒れが治ったりはしなかったが、たぶん手のヒビとポツポツは改善されるのだろう。
・・・考えない、考えない。こんなレベルの占い師がある時期を境に未来を占えない事実が、何を表すか、なんて。
○≡
月間“妙”は、予知通り、というか、想定通り休刊に入った。休刊前にVチューバーと、よりにもよってテレビ番組に大ネタをすっぱぬかれた時はどうなるか、と思ったものだが、幸いにして読者層が固定されている我が雑誌の売り上げが落ちることはなかった。
・・・その代わりと言ってはなんだが、スクープであるはずの渾身の記事を載せたのに、爆発的に売れもしなかったが。
さて。雑誌が休刊中なのに、知り合いの占い師に連絡を取ったり、取材先に向かっているのは、なぜか? それはweb版があるからだ。神、違った、紙とインクの不足で印刷所が止まっても、電気とネットがある限り、情報発信はできるのである。
・・・これを迷惑ととるか、僥倖ととるかは、個人の資質による。編集長は「世界が続くなら給料は出す! 後で!」と迷言? 明言してくれたが、これがチャンスとばかりに有給を取る人もいた。かくいうわたしもその口で、一週間ほど休んだのだけれど、やっぱりなんとなく、気がついたら編集部に顔を出してしまっていた。
期間は様々だが、ほとんどの編集者が戻ったのは、世界を知りたい、知ったことを知らせたい、という人間の集まりだからなのだろう。
・・・そのくせ、編集室でだらだらしているのは解せないが。なんだろう? あれか? 机についたら勉強してる気になるやつか? そうなのか?
そういう輩を反面教師にして、意気揚々と取材に出たわけではあるが、電車はともかく、バスが、タクシーが止まっているのには辟易である。
バスが止まっていたら、ここぞとばかりにタクシーを使おうとしたバチが当たったのかなーとか考えながら、歩いて一時間。やっと到着。
こんな時でも、ちゃんと人がいた受付をすまし、また歩く。
・・・なぜこう、大学の敷地は広いのか。
もう、縦に。いっそ高層ビルにしちゃえばエレベーターで移動できるのになーとか考えながら数十分。やっと、ようやく目的地に到着である。
○≡
「お疲れ様でした」
二回もアポの時間を変更したのに嫌な顔一つされないのは、懐が深いのか、慣れっこなのか。
「これ、一応、手土産のつもりです・・・」
少し前なら菓子折り(ちょっといいヤツ)を持参できたのだけれど、行きつけのお店が閉まっちゃって久しい。
よって紙袋の中身は我が誌のノベルティーなのだが、文字通り “妙” なグッズが、喜ばれるかは未知数だ。
・・・いや、なぜ国立の天文台に宇宙人グッズを持ってきた、私。
蓄光素材で光るグレイや、UFO型のLEDライトなんて・・・。
「あ、これ欲しかったんですよ!」
「本当ですか?!」
・・・は、なかったと自分でも思います。はい。
「はー。見星さんは陰陽師の家系なんですか」
現代の陰陽師、いまは最新科学で何を見るのか? なんてタイトルが自動的に脳裏をチッカー=証券取引所のグルグル回る電光掲示板のように流れる。日生上さんの田舎で見たというUFOの話も面白かったが、なにぶん子供の頃の話となると時間が経ちすぎている。
「それで。これ、なんですけどね?」
話の枕が膨らみ過ぎた気もするが本題に入る。今回の取材は件の星をその目で見るのと、巷で流行りのアプリについて本職に聞くのが目的である。
「あー。それですか」
あまりに急いで作った為か、そういう演出なのか。ものすごく単純な線と円で構成されたスマホのアプリのトップを見ただけで話は通じたようだ。
「ズバリ。このアプリ、どうお考えになりますか?」
「そうですねぇ・・・」「うん」
腕組みしながら天を仰ぐ、星見氏と日生上氏。
「・・・」「・・・」
沈黙の長さからすると有意義な記事が、もしくは、はぐらかされたダメ記事が書けそうである。




