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食品配達員 (3)

 きびきびと自らの仕事をこなす人々。

 スリーコール以内に取り上げた受話器のオーダーをさばく事務方。

 パソコンの画面では、昨日まで発注不可だった店が何店か復活し。

 しかもその数は今もまた増えようとしている。


「こっこっこ、これは一体・・・」

 そう言ったきり固まったここの所長、昨日の面談相手を見ながら、自分は昨日の行動を振り返った。悩みに悩んでいた彼には気の毒だが、そんなに難しいミッションではなかったように思う。


 ○≡ ──昨日面接後──


「おっ? 新入りかぁ? とりあえず、動いている自販機探して、飲みもん買ってこい! 話はそれからだ」

 ガチャガチャうるさいドアノブの音と、経費節減の為か、いくつか照明の外された薄暗い室内に差し込む廊下の明かりが作った二人分の人影から状況を察したのだろう。いかにも、ここ=配達員の待機部屋を仕切っている風な若い ───ようでいてそうでもない─── 男が、それが大物の風格だ、とでも言いたげに、後ろも見ずに言い放って何がおかしいのか、ギャハギャハと笑いだした。


 ふぅ。


 こういう輩には時折出会う。

 同じテーブルでカードに興じていた仲間、座る位置的に目が合った二人と、自分の後ろでここまで案内してくださった人が、あわてているが、そこまで深刻な事態でもない。


「ああ? お、おぅ」

 ほとんどの場合は目を見て話せば、いや話す前に何を言ったか忘れてくれるし、そうでなくとも「何かいったかね?」と、質問すれば「なにも言ってません!」と、取り消してくれる。

 そう、ほとんどの場合は。


「んだ、コラ! おお、おぉ?!」

 たまに、極々たまーに、変な行動を取る者もいる。妙に自信に満ち溢れた新兵や、親の地位が高かったり、二十歳までは神童と呼ばれるタイプに多い。

 殴りかかってくる、のはいい。蹴りも、掴みかかってくるのも。

 人に骨格があり、筋肉と関節があるかぎり、何をどうされたとて、想定外にはなりえない。攻撃にスピードがのる前に手のひらをそえる。それだけだ。


 しかし、ポケットに手を入れる、もしくは腰の後ろにまわされる、これはいけない。

 何が出てくるかわからない。

 ・・・特にこの国のような銃社会では。


 ふっ!

 ・・・コツがある。やや “弧” を描く、という骨が。

 これを怠ると、吹っ飛んだ相手がナニカ、壁、家具、窓、等々、人以外(・・・)にぶつかって、それを壊す被害が発生し、上手くいくと、こんな具合になる。


 ──所長視点──


 危ない! と。思った時には全てが終わっていた。そう思った理由はあとからついてきていて、思い起こせば、後ろに、手が、ポケットに、入れる為、だったように思える。取り出された物は、飛び出すタイプのナイフ、ボタンを押すと。それは床に落ちてブレードではなく。櫛なのは。誤魔化すためだろう。凶器じゃないという言い訳で。

 一回転。そうたぶん。

 スローモーション。顔面に吸い込まれていく拳? 腕の先に産まれた岩塊? 顔に貼り付いたまま、一回転、鼻血。それだけ。


 ──ここまで──


「失せろ」

 教育を任された新兵なら手取り足取り一から鍛え直すのだが、そんな義理も時間もないので鼻血は自分で掃除するとしよう。


「だだだだだ。大丈夫ですか?」

「ええ。ひょっとしてですが、『俺がいないと仕事を回らなくしてやる』とでも言われてましたか?」

「なぜ?!!」

「常套句、だからですよ」

 ああいう輩の。

「実際はそこまでの影響力はないんです。個人なら」

「個人?」

「ええ。グループになると」

「なると?」

「見栄とか、引っ込みがつかなくなるのでしょうね。とたんに行動に出てしまう。な?」


 ビクッ、と。

 逃げ遅れた二人が震えた。

 考えるのが、逃げて言ったヤツで、実行するのがこの二人だったのだろう。体格もよく、二体一なのにこの二人が逆らわなかったのはたぶん小熊の刷り込みが施されていたからに違いない。


「これからは俺がボスだ。いいな?」

 こくこく、こくりとうなずく二人。

 なあに悪いようにはしない。


 ○≡


「部下が言ったことしかしてくれない」

「そもそも仕事が進まない」

 などというのは、よく聞く話ではあるが、そう深刻な問題でもない。

 ・・・言った覚えのない仕事がいつの間にか進んでいるのに比べれば。

 前職では、特に気をつけなければいけなかった。優秀、もしくは自身がそうだと思い込んでいる人材に、この国のトップクラスの権限が与えられる、もしくはそう勘違いされるとどうなるか?

 知らぬ間に誕生していた部署? が独り歩き、どころか、全力疾走しだすのだ。明後日の方向に。

 それに比べれば「言った仕事しかしてくれない」なんてのはイージー、もう泣けるほどありがたい。


「まずは挨拶まわりにいきたい。案内してくれ」

 疲れきった所長からは「自由にやってくれ」との言質をとったので休んでもらう。

 まわる順番は人気、発注数の多い順だ。


 ほとんどのお店はお休みで、人がいない店舗もあったが、特になにするでもなく、人が集まっていたところもあった。


 何かしたいけど・・・というヤツで、これこそ探していたものだった。


「え? そんなの俺らの仕事じゃないですよ」

「なぜ?」

 ほとんどの場合、この一言で説得はすんでしまう。

 物を運ぶ仕事のはずなのに、出来上がった料理は運ぶのに、その材料を運ばないのは「なぜ?」。


 電話があるのにコール待ちで、生産者に料理の材料の在庫を問い合わせないのは「なぜ?」。


「なぜ?」「なぜ?」「なぜ?」

 そこに理由なんてないと気づいてもらえればあとは簡単だった。

 畑に、倉庫に、卸問屋に材料はある。

 発注システムも動いている。

 運送手段(人力)はこちらが備えている。

 一番、問題だった報酬部分には「なぜ?」だ。

 

「なぜ?」お金でなくてはならないのか?

「なぜ?」物々交換ではいけないのか?

「なぜ?」「なぜ?」「なぜ?」

 ・・・出来上がった料理を提供することで手打ちになったのは、それこそ「なぜ?」なのだが、まあいい。料理を届けるお仕事だ。


 最初の一店舗目、中華のお店が復活したあとは簡単だった。他のお店でも、ここの事務所が担当外でも繰り返せばいいだけだ。

 海産物なら海の側まで。

 肉料理なら牧場、もしくは食肉加工場まで。

 この会社ですら事務所は数多くあり、他の会社を足せばその数は。

 別会社だから協力は? 「なぜ?」


 ○≡


「レーションばっかじゃ、さすがに飽きたな」

「贅沢言うなよタイガー」

 化学反応で作ったお湯に、レトルトを突っ込んだ首席補佐官のフォックスは、曇ったメガネに顔をしかめた。


「ウー○ーとか頼めないかな」

「・・・この情勢下に? ここにか?」

 何をバカなことを、と首を振りながら、それでもパソコンをさわるフォックス。

 論より、というやつだ。

 現状を見せれば、この最高権力者も黙るだろう。


 ・・・眼鏡を外す。さっきぶりに拭く。掛ける。外す。目をこする。掛ける。外す。目薬をさす。掛ける・・・。


「・・・何をしてるんだい?」

 裸眼でもそこそこ見えるはずの側近が、画面に顔を近づけて目を細めるにあたって、ようやく主人が声をかけた。


「○ーバーが復活している・・・」

「なんだって ?!」

「しかも、配達可能になってる、ここ(・・)が」

「・・・」

 ちょっと信じられない話だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 まるでそれは。


 補佐官の身分そのまま・・・。


「よし、頼もう! すぐ頼もう!」

「・・・いま食べたばかりですよ」

「誰がおじいちゃんか!」

「言ってませんよ!」

 この日を境に。


 ホワイトハウスの食事内容が。


 少し良くなったのは。


 トップシークレットである。


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