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プロゲーマ (2)

 ふんふんふふ~ん♪

 何が楽しいのか、鼻歌まじりで温まるピザを眺める相方。

 ちなみにうちのレンジはオーブン兼用なので回らない。

 見ていても冷凍されていたチーズがだんだんと解凍され、とろけ、膨れるだけだ。

 ・・・意外と見ていて楽しいかもしれん、と思い始めたあたりで、ちーん! と終了の鐘が鳴った。


「ピッザ、ぴざ、ひっざー」

 やはり歌うように食品? の名前を連呼した相方が、当たり前のようにソファーに座り、消していたテレビを点ける。


「むー !!」

怒りの声をあげたのは、俺と全く同じポイント、録画されていたアニメ番組が、タイトルとは裏腹にニュースだったせいだ。

 ・・・ちなみに、俺達がアニメを見ているのは純粋に楽しむ為ではなく、そのコンテンツがゲーム化される話があるからだ。ただただ操作方法を覚え、タイミングをはかり、大技を繰り出せば試合には勝てるかもしれないが、やはり観客が求めているのは作品のバックボーンに沿った展開ではある。

 例えば主人公に対し、有利な能力を持ったキャラクターがいたとして、その人物が同じ陣営なら返ってくる反応は、良くて「ふーん」ぐらい。

 そこには、「まあ、そうくるよね」とか、「勝つためならしょうがないか」ぐらいの感想しか込められておらず、原作に通りのライバルキャラとの対戦が持つ熱気とは比べるべくもない。

 ・・・こともある。


 そして。


「今回のお話、神回確定だったのにー!」

 純粋にアニメファンなプロゲーマも存在する。


 ○≡


 ゴロン! からの~、ひょいっ!


 ・・・何が楽しいのか、成人男性=俺の太ももを枕にしようとする試みを回避し、不満気な顔から目を背ける。


「むー !!」

 やたら、むーむー鳴く相方を、なんかの動物に例えようとしたことは数知れず。

 ・・・結局のところ、そう鳴く動物が思い当たらず保留しているが。


「食ってすぐ横になると牛になるぞ」

「ちぇー」

 しぶしぶ起き上がった相方が、ローテーブルのスマホを取り上げ、メッセージをチェックする。つけっぱなしのテレビからは、新規放送できるものがないのか、往年のコント番組の再放送で偉大な笑いの神様が「志○後ろ~」とか言われている。


「あー。やっぱりあの大会も中止かー」

 いや待て。なぜそれを俺のスマホで確認する? ロックはどうした?


「んー? ああ、ほら。指の動きですすすーっと」

「じゃねーよ!」

 道理でたまに、こちらが技を出すのを読まれてた気がするわけである。

 ・・・チートとは言うまい、こちらも相手の手元は見えているのだから。


 相方からスマホを取り上げ、掲げるように腕を伸ばす。

「むー?! むー !!」

 ぴょんぴょんと跳ねる相方だが、さすがに身長差もあり、届かない。


「むー!」怒ったように去っていく相方。


 ・・・なにしにきたのか、ってメシの交換か。

 『たまには野菜もたべたまえよ?』

 そんなことが上蓋に書かれたバーガーの箱の中身はレタスが一枚だった。

 ・・・うん。そういうのは。ピザの耳を残さず食べてから言ってくれ。


 ○≡


「おーい! ドクペとコーラ、交換してくれよ!」

「だが、断る!」

 ・・・前置き部分がないと、何が『だが』なんだかわかんない台詞だけれど、拒絶の意思は伝わるだろう。


「冷蔵庫いれとくねー」

「なん、だと?」

 伝わらない意思に愕然としながら、ひょいっ! と自分の上に(・・・・・)座ろうとする相方を回避する。


「むー!」

 ・・・なぜスペースはあるのに狭々(せばせば)しく使わんといかんのか?

 不満そうな相方が、それでも本題? に入った。


「このゲーム知ってる?」

 そう言いながら相方がロックを解除したのは、ごてごてっと飾り付けられたスマホで、俺のじゃなかった。


「知らん、つーか、スマホにゲームは入っとらん」

「プロゲーマなのに ?!」

 顔全体、両手まで加えて相方が驚きを表現するが、無いものは無い。


「画面が細かすぎてのう」

「・・・おじいちゃんじゃん」

 そう言いながらも相方が操作を続け出たのは、なんともシンプルな画面だった。


「これは?」

「いま、話題のゲーム! っか、シュミレータ?」

 ・・・正しいのはシミュ(・・・)レータだが、意味は通じるのでよし。良くないのは・・・。


「迫りくる天体をミサイルで迎撃って。いいのか? このご時世」

「いいんです!」

 なぜか相方がうっすい胸を張る。指摘すると怒るから口にはしないが。


「発射地点、いや宇宙空間だから、地、じゃないのか、は、発射する場所? は固定で、予め決められたタイミングで発射するだけ、か」

「そう。それで変更できた軌道で、防衛対象、この青い星? 球体ね。これが何パー残ったかで順位が決まるの」

 デモが繰り返される画面を見続けると、やがてランキングがスクロールされた。

 ぶっちぎりの一位の下に、団子になったドングリが背比べしている。


「・・・プロゲーマが遊ぶゲームじゃないだろ」

 操作は難しくないが、とにかく繰り返しが多い。イージーモードの百発でもうんざりなのに、ハードモードの六桁なんてのは、即バックだ。


「賞金十億」

「はあっ?!」

 置きかけたスマホをつかみ直そうとして、お手玉する俺。


「正確には参加者掛ける、いくらだけど。全世界でそんだけは参加してるし、参加料が二桁」

 あわてて自分のスマホでストアを開く。確かに書いてある。日本円で十円のアプリ代金の内、一円が製作者に、もう一円が税金として使われ、残りは賞金になると。

 眉唾な話ではあるが、普段触れられもしていない “税” の文字が、生々しく現実味を発揮している。

 そして、ダウンロード数は全世界で十億を超えているのは確かで、今もページ更新ごとに数字を伸ばしている。


「たぶん、一位は量子コンを使ってる。けど二位の賞金が桁引きでも・・・」

「一億か・・・」

 お金の価値が一時保留されてしばらく経つ。世界が滅びるなら、と。モノの価値がデタラメになっているせいだ。もはや金額の大小はモチベーションにならないが ───


「アメリカのアノ(・・)計画のリークだとウワサされている」


─── やる気の理由は他にもある。


「・・・絶対怒られるヤツだろ、それ」

「うん。たぶんクビ」

 なにしろ、大統領の演説の内容を否定している。

 ゲームと誤魔化してはいるが・・・。


「やるの?」

「ああ」

 たぶん、一位を俺が、人類ののーみそで超えるのは不可能なのだろう。


 だが。


 答えねばなるまい。


 誰とも知れぬ人の覚悟には。


 ピンポーン♪


 ・・・そんな決意に水を差すように呼び出し音が鳴る。


「あ、置いといて下さい。ありがとう」

 配達員に置き配を告げたのは、もちろん、俺以外である。


「たまには必要。贅沢も」

 ・・・まだやってたのか、食料品の配達。

 まあ、ピザとバーガー以外の食事もたまには、いい。

 栄養、体調管理ってこともあるし。


 ・・・ただなぜ、俺の部屋に二人前頼むんだ? お前?


 世界の終わりの日もこんな感じなんだろうな、と。


 俺は料理を運ぶべく、玄関にむかった。

 

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