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ペットショップ店員

「生き物が好きなので」

 そんな理由で入社した人が次々とやめていく。

 それがこの業界のスタンダードだった。

 意外に思われるかもしれないが、世話がきつい、よりもまず立ち仕事がつらい、が先にくる。

 一日中獣臭い中で働くのが嫌だと感じるのがそのあとで、さらに接客、自分の知らない=あんまり好きじゃない動物の世話、(当たり前だが無限に続く)う○こ、し○この始末、病気、生き物が売り物になる現実、売れ残ってしまった末の末路、等々。

 某ぷよっとしたゲームの終盤のように、次々と降ってくる辛さに押し潰されてしまえばあとは辞めるだけ。


 ・・・お金のため、なんだよなぁ。


 結局残るのは自分のような、生き物を生き物と思わない、ある意味での人でなしか、覚悟をキメた、ものすごく突き抜けた動物好きなのだから世の中わからないものである。


 ○≡


 世界がこんなことになっても、勤めている大型ショッピングセンターは休まず営業している。

 というか、大盛況である。


 アレ(・・)以前の平日昼間なんてのは、休みの日の活況が嘘のように、ポツリポツリと買い物客が店の前を通り過ぎていくだけだったのが、流れている。

 お客さんを水に例えるなら水滴から川。

 それも大河だ。

 流通がか細くなり、空いた棚も目立つようになった店になぜ? と思うが、「他にやること無いんじゃないの?」と言われれば、なんとなく納得できる眺めではある。

 休日の家族サービス(死語)、と聞いて自分も子供の頃に行ったデパートを思い出すのだから、まとめて有給を取ったお父さんがまずここにくるのも不思議ではないのだろう。

 ・・・彼以外が『他んところ連れてけ』と思っていても。




 それはさておき、問題はこちらである。


 ペットショップはある意味服屋に似ている。

 店にお客さんが少ないと入りづらいという点で。


 こちらとしては、そんなつもりはないのだが、お客さんとしては、ロックオンされているように感じるらしく、近寄っただけで、スススっと去って行く人は多い。

 まあ、買う気はないんだな、と分かっていても、やっぱりじっとケージの中をみられると「試着してみますか?」ならぬ「抱っこしてみますか?」と声はかけたくなるのだが。

 ・・・店員の(ごう)である。仕方ない。


 しかし、そう振る舞えるのは、こちらが有利な時だけだ。

 トノサマバッタが集団になると体の色を変え、羽を伸ばすようにヤツラは姿を変える。

 ・・・お客さんをヤツラとか、呼んではダメかも、だが。


 バンバンバン!

「展示室のガラスは叩かないで下さい!」


 すっ! すーっ!

「指での追いかけっこも御遠慮願います!」


 バシャッ!

「写真、っていうか、フラッシュは禁止です!」


 どれもこれも貼り紙しているのだが、全員が全員、読んでくれるわけでもなく。


 キャーッ!

「大声も。大声も出さないで!」


 子どもさんなんかは、平仮名もまだ読めないって人も多い上。


「おまえも大声あげてんじゃねーかよ!」

 そんな子の親に限って、クレーマー気質なのだから、たまったもんじゃない。

 ・・・脳内、口には出さないからヤツラって読んでいいですかねぇ !!?


 ○≡


 そんないつまでも続くと思われた時間にも終わりはくる。

 「ウチも、明日で休業だから」と店長に告げられたのが昨日。


 つまりは、今日が終わり、というわけだ。


 あんなことになって、あっという間に空になるか、と思われていたペットフードの棚は予想に反してなかなか底を見せなかった。

 なんなら地下の人間用の食品売場よりも、もったぐらいだ。

 動物好き、という気持ちがそうさせたのだろう。ギリギリまで生産をやめなかった工場。運送会社が休業になっても自家用車で運んでくれた運転手さん。彼らが帰り際に覗いて笑顔になったゲージも、今はほぼ照明が落とされている。

 こんな時に? と思うが、こんな時だから、だろう。


 ペット禁止だから、とか。

 色々かかるから、とか。

 別れがつらい、とか。


 この世界に迫りくる天体とやらに良いところなんか一つもないと思っていたが、そんなためらいを吹っ飛ばしてくれたのには感謝しかない。

 ・・・そこだけだけど。


 さすがに、売り物どころか、ウインドウショッピングする展示品すら無くなったショッピングセンターにくる人は少ない。

 売るものが切れたテナントから休業し、櫛の歯が欠けるように徐々に暗くなっていった店内は、盗難防止用のネットさえ張られずぽっかりと空虚な空間と、安全のためにいつもどおりに明るい通路が、広い広い建物と相まって、なんとも言えない物悲しさを醸し出している。


「さて」

 最後の方には、「おまえ絶対、ペット飼ってないだろ」って人もきた店内に、終わりを知らせるスコットランド民謡が流れ始めた。


 わん!


「わかってるよ」

 なぜか、最後の最後まで明かりの灯ったケージで名前の無い犬が立ち上がる気配を感じる。


「なんでなんだろうなー」

 子犬というには、最初からでかすぎたせいだろうか?

 毛色が珍しく、それゆえ強気の値段設定すぎたせいだろうか?

 お客さんに抱かれるたび、おし○こ、いや、粗相をしたから?


 最後の最後までなぜか売れ残ったワンちゃんのケージがついに開けられた。

 ・・・店長の手で。


「・・・あれ? なんで開けてンすか?

 てんちょー。今日最後までダメだったら、オレが引き取る約束でしたよねぇ?」

「ほ、ほら! まだ音楽は流れてるしぃ? お金を払えば客? みたいなー?」

「そんな、つーかレジ打つのオレっすよ? おおっと! えらーだー。こりゃかかるなー時間が、ふっきゅーまで」

「な! 手でやりなさいよ! 金だけ受け取って明日処理しなさいよ!」

「ぶっぶー! 今日で営業終了でーす! 明日はありませーん!」

「くっ! そうだった!」

「てなことで、って! なんでしっぽつかんでるんですかねぇ? ・・・引っ張らないで下さいよ?」

「そんなことはしないよ! でも離さん!」

「『離さん!』じゃないでしょ!」

「離さないって言ったら、離さないモンねー!」


 げふっ!


 食料危機のおり、あんまり食べて無いのに、急に食欲の無くなったワンチャン(仮称)であった・・・。

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