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高校生 教師

 “高校生” が職業か? という問いには様々な答えが考えられるだろう。

『いやいやお金を稼いでいるわけじゃないからちがうでしょ?』とか。

『時間を消費する事てで対価をえるのが仕事。知識も立派な対価なのだから、働いているのでは?』とか。

『就労前のならし期間とするならまだそうは言えないだろうとか』

『一円も稼いでないから働いていない? いや、世の中には零どころか赤字続きでマイナスの仕事もあるんですが』


 もうどっちか決められないというあなたには、どこかの書類の書き方で決定してもらおう。“無職” よりはましなので、“学生” または “高校生” と書くのが正解だそうだ。


 職業欄に書けるならもうそれは仕事でいいんじゃないかな? そんなことを考えながら、校舎の一階教室窓から見える散り際の桜を眺めるのは、入学式を控えた新入生だった。


 ○≡


 睡眠時間を削り、放課後予備校に通い、自由時間を削り、猛勉強に猛勉強を重ねてやっと合格を勝ち取った、わけではない。


 少子化の末、廃校になるのを防ぐべく実績づくりにアイドル活動をしてみたり、なぜか戦車で戦ったりするお話もあるが、特に何もしなければどうなるのか?


 こうなるのである。


 統廃合を重ねた市内の効率高校、いや公立高校は、転がした雪が成長し、大きくなるように、今時珍しいマンモス校になった。

 その受験はというと、進学校と、普通の高校と、言葉は悪いが底辺校がまとめられた結果、ピンが満点にほど近い点数(もちろん合格)だが、キリでも名前さえ書けるなら受かる、というカオス。

 普通に受験し、平均点ぐらい点数でも可。


 普通に勉強し、部活し、たまにサボってファストフード店で友人とくっちゃべっても余裕で合格。

 まったく盛り上がりにかける展開であるが、大きくなりすぎたせいで万年定員割れの学校の入試なんてそんなものだろう。


 そんな余裕の入学でも、問題が生じない、わけでもない。


 一学年、四百人、十クラス。


 成績上位八十人が進学クラスとされ、A、B組となり、こちらは公式にアナウンスはされないが、成績下位J、kが二クラス分、年によっては三クラス分Iクラスまでが、問題クラスとなる。

 ちなみに十一番目アルファベットである “K” が入っているのは、諸般の事情により “H” クラスがないからだ。


 これで上位クラスにいくほど教室の設備が良くなって、それをかけて入れ替わりの決戦を申し込めたりすると、どこぞの小説そのものの展開で盛り上がったり、パクりだと炎上したりするのだが、問題はそこではなかった。


 なんで、同中出身者が少ない上に、ほとんどきてないんだよ!


 まあ、そんなこともあるだろう。

 

 進学、問題クラスを除いてもまだ五、六クラスあるのだから、片寄ってしまうことは。


 しかし、今年に限ってはそれだけが原因ではなかった。


「昨日の中継見た?」

「見た見た! 大統領カッコいいよね!」

「いや、あれ見た感想それかよ」

「え? 結局ぶつからないんでしょ?」

「それはどうかな? 仮に世界が終わるとして、それをそのまま言うかなぁ」

「なんで?」

「そりゃあ、色々パニクるからだろ?」

「なんで?」

「んー。・・・なんでかな」

 高校一年、数日前までは中学生には、ちょっと難しい問題だったようだ。


「なら学校なんてきてる場合じゃなくない?」

「まー、そうだな。実際きてないヤツもいるしな」

 そろそろチャイムが鳴るというのに、席は埋まっていない。これから入学式だというのに。


「なんで、◇☆ちゃんはきてるの? なんで?」

「おまえ、『なんで』ばっかだな。いいか、オレがこのガッコ気に入ったのは制服、特にスカートが可愛いかったからだ。そこまで言えばわかるな?」

「うんうん。なんで?」

「・・・家で一人で着てても・・・」



 ○≡


「どうですか?」

「んー。五、六割ってところですかね」

 新入生を担任する、こちらもまた新任の先生が、学年主任の問いに苦笑で答えた。


「ならまだ、ましですよ。うちなんかほぼきてないです」

「うちも」

 スーツの内にベストを着用した、いかにもベテランの先生と、竹刀を持たせたらよく似合いそうな、パンチパーマにジャージ姿の先生も自身の受け持つクラスの状況を報告する。


「進学クラスと、問題クラスが同じ状況とは・・・面白いですね」

 問題の部分をゴニョゴニョと小声で誤魔化して学年主任が、手元の書類をめくった。


「面白がってる場合ですか。うちもでしょ」


「進学クラスの子はあれでしょうな。自分で計算して調べて」

 地球に衝突するという天体の大きさも、軌道も、日がたつにつれどんどん正確な数値が発表されている。

 自身でそれを確かめた上、こちらはあまり正確に伝えられず、デマや誤情報が入り交じる中から信頼のおけそうな地球の全戦力と秤にのせ、その結果、「勉強やーめた」と何もかも放り出したというわけだ。


 ・・・この学校の、いや、この学校に限らず、全国的に問題になっている理科系、数学系教師のサボタージュと同様に。


「ゴニョゴニョクラスの方は、もう。サボれりゃなんでもいい、って連中ですからな」

 お手上げポーズで、ぶっとい腕を上げるパンチパーマの体育教師。


 なるほど、熟考の末でも、なにも理解しようとしなくとも、結果が同じなのはちょっと面白い。


「ゴニョゴニョクラスの連中は、あれで心配いらんでしょうが、フォローが必要なのは進学クラスの生徒ですな」

 体育教師の意見に主任も含め出勤している教師全員がうなずく。


「細かい議論になると、言い負かされ、は、しないでしょうが、いまの世界情勢を深く印象づける可能性があります。まずは様子見するよう、暗に、短絡的な行動に走らぬように諭しましょう」

 難しい仕事だがやらねばならない。

 それでも方針が決まったことで、職員室の空気は緩んだ。

 

「面接で卒業後の進学先まで熱く語った生徒がいきなり不登校で、『制服が可愛いから』とか言ってた生徒がこの状況でもくるんですから、わからないものですね」

「そうですね」

「いや、そこはわかりますよ」

 学年主任と、新任の担任が後ろに座る体育教師に振り返った。


「だからですね・・・」

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