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内閣官房長官(2)

 パシャッ。パシャッ。パシャパシャ、パシャパシャパシャパシパシパパパ、バババババババババッ!

 

 五七の桐紋の演台、所定の位置について原稿を置き、顔を上げた瞬間に、豪雨の降り始めにも似た音をさせながら、容赦のない光の奔流が一人の男に浴びせかけられた。


 何回体験しても慣れないな。


 そんなことはないはずなのだが、あまりの光量の多さに押されたような気がして、思わず一歩下がりそうになるが、そんなことをしたらカメラのピントがズレ、またやり直しになるのでこらえる。

 それに加え、顔をしかめるどころか、(まぶ)しさに目をつむることすらゆるされない。

 いや、別に禁止はされていないのだが、変顔の写真が撮られてしまうのは嫌だ。


 きっつい仕事だよ。


 グラビアアイドルが聞いたら目を吊り上げて怒りそうなことを考えつつ、無表情の仮面をつけた内閣官房長官は嵐が過ぎ去る瞬間を待った。



 内閣官房長官。厳めしいナントカ大臣、に、比べると印象の薄い名前であるが、実は影の総理とさえ呼ばれる日本のナンバーツーだ。今回のように、記者会見にもよく登場するので、元号が変わる時に、新しい名称の書かれたボードを持って写真を撮られる人、というとわかりやすいかもしれない。


 さて。


 新しい時代の名称を発表するだけの会見と違い、今回の会見は荒れそうだ。


 ・・・色んな意味で。


 どう切り出そうかだけでも、草稿にやたら時間のかかった原稿の、一文字目を読む前にキリキリと痛みだした胃を押さえることもできず、()紋の演台に立った男は。


 あえて、感情のこもらない声で世界の終わりを発表した。


 ○≡


 しーん。


 水を打った未舗装の道から土埃がたたないような。

 台風がくるのに備えきった人のやることがなくなったような。


 そんな空気が満ち満ちた、記者会見会場は、「質疑応答に入ります」の一言で、口々に叫ばれる大声コンテストの会場に成り果てた。


「・・・っ!」

「・・・から」

「な・・・!」

「だ・・・!」


 うん。


 何言っているんだか、さっぱりわかりませんな。


 大人数が狭い出入口に殺到し、にっちもさっちもいかなくなるのによくにている。

 一人一人順番に通ったり、質問すればいいのだけれど、我先にとなってしまえばそれは難しいだろう。


 ・・・たぶん大学とか、それも有名どころ出身なんだろうに。

 どこぞのテレビ局のやらかし会見とは違い、さすがに今回はチューバー記者は参加していない。


 それも面白かったかもなー、なんてのは完全に逃避である。現実からの。


 ハンマーが欲しいなぁ。よく裁判官が持っているタイプの。

 そんなことを考えたのは、やっと見れた録画したアニメの影響だったかもしれない。


 とりあえず、目の前の人々が理性を取り戻すのを待つ官房長官であった。


 ○≡


 伝説その一、世界の終わりの公式(実は時差による夜間の国を除く、世界同時)発表。

 伝説その二、めったにない(そのわりに、なんか最近も見たような)テレビ画面の『しばらくお待ちください』テロップ。


 これだけでも、十分語り継がれるのに。


「今回、非常に重要な会見となっておりますので、質問の前には必ず所属を言って下さい。それと、さらに申し上げますと、官房長官の口は()変軽くなっております(・・・・・・・・・・)ので御注意下さい」

 叫ぶだけ叫んだが、何も得られなかった会見会場に「ん?」という疑問符が浮かんだ。

 前半はいいが、後半何かが引っ掛かったような・・・。


「□△テレビの何々です。それは聞けば総理の下着の色も教えて下さるってことですか?」

「はい。冗談めかしてですがお伺いしております。普段はべ・・・」

「うわぁぁぁぁ! いいです、答えなくて!!」

 あわてて遮った記者だが、時すでに遅し。


 伝説その三、のっけから大炎上である。


 しーん。


 先ほどとはまた違った沈黙が会場を覆った。前の原因がこれから起こる大事への警戒であったなら、今回はより近くの脅威に対するモノだ。例えるなら、安全装置の外れた、むき出しの刃物に対するような・・・。


 普段は馬鹿みたい、おっと、これは失礼か。・・・おバカみたいに質問してきて、こっちが答えられないと、鬼の首を取ったみたいにはしゃぐのにな。


 ある意味それも出来レースだったのだろう。蛇に睨まれた蛙のようにたらりたらりと汗を流す記者を前に官房長官はため息をつくのをこらえた。

 仕方のないことかもしれない。いきなり「なんでも、いいですよ」なんて言われてとっさに質問が思い付かないなんてのは。

 こちらとしては、世界が終わるんだからサービスのつもりだったのだが。


 しーん。


 伝説その四、なんか聞くことあっただろ、である。


「質問がないようなので、今後の予定を」

 再び話し始めた官房長官の様子に、記者達から再び疑問符が浮かんだ。


「本日、いえ日付変わって明日午前零時、アメリカ大統領から今件に対し重大な発表があります。詳しいことは申し上げられませんが、世界を救う重大ミッションについてです。皆様におきましてはくれぐれも、自暴自棄による犯罪行為に走ることがなきよう、お願いいたします」

 伝説その五、ほとんど申し上げちゃってませんか? もしくは、人によってはもっと早く言ってよ。である。

 

「それは世界は終わらないってことですか?!」

「ミッション? その内容は?」

「質問の前には所属、というか会見は終了です」

「いや、なんでも答えるって言っただろ!」

「それは質疑応答時間においてでーす」

「なら先に言えよ! おせーんだよ! 重大発表が!」

「自分で『終わりを回避する方法はないんですか?』とか聞かなかったくせに切れないで下さーい」

「なんだとこのやろう!」

「さっきから語尾伸ばしやがって!」

「あおってんじゃねーぞ!」

「そっちこそ伸ばさないでくださーい!」

「てめえ !!」


 ・・・伝説その六、会見司会者との口喧嘩からの『しばらくお待ちください』END。


 こうして会見は伝説となった。


 伝承期間がどれ程になるかはいまだ不明である・・・。

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