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内閣官房長官(1)

「政府は情報統制をやめろー!」

「国民には知る権利があーる!」

「落ちるか、どうなのか! はっきりさせろー!」

 今日も今日とて、国会議事堂のまわりはシュプレヒコールで賑やかだった。

 流通がか細くなり、活気が失われた商店街や、出社する人が減って閑散としたオフィス街とは裏腹に。


 どこから持ち出したのか、古いタイプのヘルメットに鼻から下を逆三角形に覆ったタオルの古き善き? スタイルから、普段着に使い捨てのマスクの最新型? を身にまとい、手作り看板を持って練り歩く人びと。


 防犯カメラは、その姿を総理の前に映し出し、誰が音頭を取ったわけでもないのにそろった合唱は、分厚い壁を貫き会議室面々の耳に届いていた。


 ○≡


「知る権利って、あったかしら?」

 うんざりとした空気が満ち満ちた会議室の中で、一番偉いとされている女性がいまさらながら首をかしげた。


「あると言えば、ありますし、ないと言えば・・・叩かれますね」

 後ろに控えていた男性が困ったように答える。


 法律で定められているのは、公文書は請求があったら公開しなさい、で、憲法にあるのは言論の自由だ。

 つまり、文書の内容を人から、またはマスメディアから聞くことを総じて『知る権利』と称しているわけだが、作った人が “知らせる側” なのだから、当然抜け穴がある。

 審議・検討中=文書にしていない内容は公開する内容がないよう、じゃなくて、ないから対象外だし、そもそも国家安全保障に関わる情報は請求を却下できるのだ。


 そう、言われた方としては「そんな権利ねーよ!」とも言い返せるのだが、言ったら言ったで、どうなるのかは目に見えている。

 


「それに。・・・この中に、自分の言っていることの意味を、真の意味を、理解している人は、何人ぐらいいるのかしらね?」

 もはやため息をつく気にもならないが、呆れる気持ちを隠すつもりもない。「いい歳をして」と、つけなかったのはせめてもの慈悲なのか、・・・単に面倒だったのか。


「さあ? 数パーセントか、数人か。若い人、と言えば語弊がありますが、ネットやなんかを活用して、状況を本人なりに理解しているなら、そもそもここにはこないでしょうし、・・・もしかしたら、零パーセントもあり得るかもしれませんね」

 天体衝突、それも世界滅亡クラスのカタストロフィを(おおやけ)に認める、ということは、ほぼ、ありとあらゆるモノの価値を失わせるのと同じだ。


 つまり、彼らは。

「政府は情報統制をやめろー!」

 薄氷を踏んで進んでいるような努力の末に保たれている、今のギリッギリの状況を破綻させ。

「国民には知る権利があーる!」

 国民すべてを絶望と混乱の渦に叩き込み。

「落ちるか、どうなのか! はっきりさせろー!」

 それが避けられない運命だと周知徹底しろと叫んでいるのだ。


「なに考えているのかしら?」

「なんも考えていないのでは?」

 よく見れば、この抗議行動? に参加している人の傾向がわかる。

 ヘルメットと口元を隠すタオルの隙間の目元にくっきりと刻まれたシワ。

 軍手を持ってくるのを忘れた人の手に刻まれた歴史。


「まあ、あの連中にとっては、何かあったら、政府に抗議するってのはもう、脊髄反射みたいなもんですからな」

 自分も同じような風貌の議員が、どこか懐かしそうに画面対して目を細めた。


「そんなものかしらね」

 理解できない。

 そう両手を少し上げた総理に、新しく入室してきた秘書が耳打ちした。


「分かったわ。ならこちらも」

 時がきた。それだけだ。

 室内の全員が一斉にうなずき。

 それぞれの持ち場へと散った。


 ○≡


 国会記者クラブはその日、蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。

 世間一般で多発している有給問題にも無縁なやる気に満ち溢れた、もしくはそう装っている記者達が羽音ように矢継ぎ早にスマホや同僚に話しかけている。

 今までどう質問してもはぐらかされていたとある案件に対し、ようやく政府が重い腰を上げたのだ。


「やっとか! カメラ! カメラの手配!」

「いや、いいのか?」

「それな」

 社の上役にせっつかれるのに疲れ、ようやく肩の荷を下ろせると安堵する隣で、不安に顔を曇らせる者もいる。


「たぶん、内容はアレ(・・)だろ?」

「ああ、このタイミングだからな」

 ・・・これで会見の内容が、世界に迫る危機以外だったら肩透かしもいいところである。


「でもそうなると・・・」

「なぁ」

 発表されればいいい、ということでもない。

 もう、おろせるだけの貯金はおろされており、食料品の購入制限にも慣れたが、落とされる爆弾の規模しだいでは、買い物すらできなくなる可能性がある。


「配給か?」

「そこまでいくか?」

「・・・こんなことになるなんてなぁ」

 誰ともなく、上を見上げるが。

 そこにあったのは。

 古ぼけた、よく言えば歴史を重ねた天井だけだった。


 ○≡


「ネクタイ曲がってない?」

「曲がってないですよ! なん回目ですか?!」

 実質、この国のナンバーツーに対する口調としては砕けすぎだが、確認も片手の指を超えたなら、しつこい、と言っていいだろう。


「それよりも。内容の確認はいいんですか? 」

「ああ。原稿読むだけだし。・・・あとは好きにやれって言われてるし」

「えっ?」

 幸いなのか、どうなのか。

 官房長官の返事の後半は本人以外の耳には届かなかった。


 ・・・伝説の。


 説となって伝わる会見が。


 いま、始まる・・・。

 

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